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歩きながら考える

「歩きながら考える」の冊子は、いつも予想せずに出くわす。一番最初に手に取ったのは、10年前くらいに堀江の萬福寺のフリーマーケットで。そこから、なぜか忘れた頃に、いつも向こうのほうから会いにやってくる。直近のタイトルは「行き止まり、歩いてその先へ」。本町のtoi booksさんで「やあ、ごきげんよう」と、声がしてちょっぴり判型が大きくなっていた。

年単位で制作され、言葉を編んでいると知ったのは、ずっと最近のこと。情報を知らなくても、そこに流れている時間の豊かさや発酵具合というのは、身体的にどうやら感じられるものらしい。

「歩きながら考える」の最初の詩のような、小さな宣言を、ここに紹介する。

『もくもくと、ひとりで歩く。頭の中で、延々と思考の断片を吐き出しながら、一歩ずつ進む。初夏の日差し、新しくできた店、路上に落ちたゴミ、飛んでいく鳥たち、すべてが同時に目に飛び込んでくる。

徒歩の道のりでは、たとえ途中で面倒なことがあっても、都合よくスルーすることができない。ひとりで恥じ入ったり考え込んだりして、少しずつ前進するしかない。一歩ぶんしか、景色は動かない。しかし少しずつでも、確かに変化はある。そのじれったさと、ありがたさ。

距離や手間も、自在に飛び越えてしまえる時代には、じわじわと自分の内面に言葉を積み重ねていく時間が必要だ。大きなシステムに頼らず、自分の手足の力で日々をつないでいくこと。

歩きながら言葉を紡ぎ、歩きながら力を貯める。明日も生きていくために。』※原文と改行のレイアウトが異なります。

歩くことは、考えること。今は、頭の中でひとり歩きながら考える。ふれられない世界のひとつひとつを慈しみ、思い出しながら。

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