見出し画像

乗車率、100%越え

大型連休

 大型連休(N〇K風)、皆さんはどのように過ごされましたか?
 旅行に行かれた人も多いでしょう。ちなみに僕はGW中に旅行にでかけるのはあまり好きではありません。ホテル高い
 このような、GWやお盆、年末年始など多くの日本人がまるでゲルマン民族のごとく大移動を行う時期によくニュースで報じられるデータがあります。それは新幹線自由席の乗車率。

JR各社によりますと、各新幹線は、連休最終日となる7日も上りの一部で混雑が続いています。
午後4時半現在、東海道新幹線は午後に東京駅に向かう「のぞみ」の一部の列車で自由席の乗車率が120%となりました。
また、東北新幹線では午後に東京駅に向かう一部の列車で自由席の乗車率が150%となったほか、上越新幹線でも140%となる列車がありました。
このあとも、各新幹線とも混雑が続く見通しです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230507/k10014059501000.html より一部抜粋の上改変

定員のお話

 今年の新幹線自由席も大混雑だったようですね。前の景色が戻ってきてほっとしています。さて、このニュースを見て何か違和感を覚えませんでしたか?

なぜ乗車率が100%を超えるのか

 考えてみれば飛行機も車も船も、乗車人員が定員を超えることはありません。それぞれ定員をオーバーすれば国交省に怒られます。船も救命ボートは定員分しかありませんから、タイタニック号の二の舞になりかねません (子どもを1人未満の分数でカウントするパターンは無視します) 。ではなぜ鉄道では平然と許されるのでしょう。その答えは「定員」という言葉のもっと細かい定義によります。

鉄道は「サービス定員」

 日本民営鉄道協会のホームページには以下のような記載があります。

旅客列車の定員には、座席数を算定した「座席定員」、通常の運行に支障のない定員数を示した「サービス定員」、さらに車両の構造または運転上、それ以上乗っては危険だという員数を示す「保安定員」があります。乗用車や航空機、船舶などは「保安定員」を定員としていますが、鉄道は「サービス定員」を定員としています。

https://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16419.html より

 ここに記載されている通り、鉄道は定員としてサービス定員を採用しています。通勤列車の場合は全ての乗客が座席に座るか、あるいはつり革や手すりに摑まることができる状態で定員、100%。新幹線などの座席車や寝台車は座席数あるいはベッドの数がそのまま定員となります。もちろん乗車率100%を超えても安全上の支障はなく、法令違反ではないものの、サービス面で劣ることになるので各事業者は混雑緩和に努めることになります。
 一方で飛行機や車、船の定員は保安定員であるので、それをオーバーすると安全上の支障が生じます。ゆえにこれらの定員は厳格に守られますし、オーバーすると結構怒られます。実際、平成28年にANAが満席の機内に立ち客を生じさせたとして国交省から厳重注意を食らっています。
 ちなみに東海汽船 (本土~伊豆諸島方面を運航) においては、繫忙期にのみ登場する席なし乗船券というものが存在します。これは座敷や椅子すら用意されずデッキにて、購入時に渡されたレジャーシートを敷いて過ごすという過酷極まりないものです。東海汽船のホームページによるとこの船、さるびあ丸の定員は1,343人、指定席733席とのことですので、前者が保安定員、後者を座席定員と見て良いでしょう。もしかすると、船はあまり保安定員を大っぴらに出さないのかもしれません。しかしながらちょっとした渡船などでも確実に乗船人数はカウントされますので、係員の方々が保安定員を意識されていることは間違いないと思われます。

なぜ鉄道だけ?

 と、法令上違反がないことはここまで述べたとおりです。では他の交通機関がほとんど保安定員を採用しているにも関わらず、なぜ鉄道はサービス定員を採用しているのでしょうか。

保安定員分も乗せられない

 鉄道営業法第十五条第二項には
「乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得」
と定められていますが、これは乗車券を持つ乗客には空席に座る権利があることを定めるものであって、鉄道事業者に対して空席がなければ客を乗せてはならないという義務ではないと解釈するのが一般的とされています。これでは全く根拠になりません。その他の法令の条文には定員に関する文言は出てきませんでした。
 結局、なぜ鉄道で主にサービス定員が使われて、保安定員が滅多に出てくることがないのか、はっきりとした文献は残念ながら見つかりませんでした。が、僕は「実際には保安定員をオーバーさせるほど乗せられない」からだと思います。こちらも日本民営鉄道協会の示している目安によると、混雑率200%は「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める」となっています。週刊誌というチョイスに時代を感じる
 現実問題としてこれ以上乗車させるのは無理があるでしょう。しかし鉄道車両側は意外と大丈夫なのです。つまりあまりにもデカすぎて保安定員という数字は現場にそぐわないものとなっているのではないでしょうか。ちなみに鉄道車両の定員の決め方のルールはJIS規格 (JIS E 4001) に存在し、昭和49年に制定された (最新版は平成11年改正) ものです。意外と最近。
 また、本稿ではさんざん「車」と呼称していますが、車の一種である路線バスは立ち乗りが認められており、一般的な保安定員が70~80人となっています。この場合は保安定員を強く意識はしないでしょう、実際にこの人数を詰め込んだらすし詰めどころの騒ぎではありませんから。ただし、高速道路上においては全ての車が、それ以外の一般道では路線バス車などの許可車以外が全席でのシートベルト着用が義務付けられているので、この場合は座席定員=保安定員、つまり上限です。
 船と飛行機に関してはそれぞれ緊急時の対応に物資が必要なことで保安定員に敏感になるのは説明ができる気がします。更に飛行機は離着陸時、および乱気流の際の安全確保の面からも座席定員=保安定員となっているのでしょう。船は先程のさるびあ丸のように必ずしも座席定員と保安定員は一致しませんが、ジェットフォイルはシートベルト着用義務のため座席定員が採用されますし、実質的に船にはサイズ上限がないので、需要に応じて船を建造するために、座席定員をオーバーするような事態は非常にまれであると言えるでしょう。

まとめ

 鉄道のみサービス定員を採用している、というよりもそれぞれのモードに最適な定員の種類を採用したら現在の形になった、と解釈したほうが良い気がします。個人的には、立ち乗りが存在し得ることと、そして建築制限などの空間的制限が存在することが鉄道がサービス定員を採用するに至った理由なのではないかと考えます。実際、路線バスに関しても鉄道と同様の状況にあるとみなすことができるでしょう。
 今後は新幹線自由席の大混雑のニュースを見る機会があれば、鉄道ならではの風物詩だと感じてもらえれば幸いです。僕は今後も新幹線は座って利用しよう派です。


最後に一言。JIS規格を見るのに会員登録が必須なのは謎。

参考文献

見出しの写真はJR東京駅にて筆者が撮影


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?