「恋する不確実性<アンサータンティ>」第2話

■第二話


次郎太「このままいけば、世界は第三次大戦に突入する!!」
彩花「へ!? 何言って―――」

次郎太「『Vony』はわかるな? 『Air』を開発した、あの『Vony innovation』だ」

彩花、戸惑いつつ頷く。
彩花「わかるけど……。」

Airは、帰り道彩花らの横を通り抜けていった車だ。
いまや街中でAirを見ないことなどないというくらい、世の中に広く普及している。

次郎太「『Air』は世界初の浮遊自動車として世界に普及し、『Vony innovation』の名を世界に知らしめると同時に、日本の自動車産業を潤し、日本経済に息を吹き返させることに成功した、まさに時代の立役者だ。しかし――」

次郎太は顔をしかめる。

次郎太「あのエンジン技術が良からぬ者の手に渡り軍事転用されれば、世界の軍事技術は100年分の進歩を得、あっという間に第三次大戦が引き起こされる。そうなれば人類滅亡のカウントダウンとなる――」

次郎太「儂はそれをずっと危惧してきた」

次郎太の頭に過る、先の大戦の戦禍の様子。

次郎太「そしてさっき未来へ飛んで見てきたのだ」
彩花「ええ!? 未来って……」

次郎太、彩花を無視して、
次郎太「このままでは第三次大戦は確実に起きる。その引き金となるエンジン技術をリークしたのは、開発者である『加治谷修一』本人であり、奴は未来ですでに死亡しておった――」

彩花「ええっと……」

多すぎる情報量に混乱する彩花。
その時、遠くでドタドタッと足音と共に警報が鳴り響く
はっとする彩花と次郎太。

彩花「なになになに!?」

次郎太「くそっ、ここを勘付かれたか。加治谷修一の線からいずれはと思っ     ておったが、奴らめ、想像以上に仕事熱心だな」
彩花「お、おじいちゃん……っ」
次郎太「彩花、これを持ってそこに立て!」

次郎太は彩花にペンダント型のリモコンを握らせ、体重計のような機械を指さす。

彩花「へっ!?」

戸惑う彩花を体重計(?)の上に押しやる次郎太。
ドタドタという足音が近づいてくる。

次郎太「お前は逃げのびねばならん」

部屋にあった巨大なPCのようなものを操作する次郎太。

彩花「ちょっと待ってよおじいちゃん!」

彩花が入ってきた防護ドアが突破され、覆面の男たちが乗り込んでくる。
(※Vonyの手の者。加治谷修一のことを調べるため、次郎太を追ってきた。)

彩花「!?」

次郎太が最後のキーを押す。
覆面の男らが次郎太を取り囲み、次郎太の姿が見えなくなる。
彩花の方にも覆面の男が迫るが、体重計の周囲に光の筒のようなものが立ち上がり、覆面の男らを弾いた。
光は徐々に強さを増していき、彩花の視界を焼く。

次郎太「いいか、『加治谷修一』を探すんだ!」
次郎太「そして未来を変えろ――」

彩花「おじいちゃん――……っ!!」

彩花が手にしていたスイッチがまばゆい光を放ち、視界は光に包まれた。

//時間経過

○昭和の町並み
彩花、周囲を見回す。

彩花「ここは……どこだろう。見たことない街だな……」
彩花(あの不思議な機械で飛ばされた? 早く居場所に見当つけて工房に戻らないと。おじいちゃん無事でいて……)

きょろきょろしながら少し歩くも、心当たりがなく不安そうな彩花。

彩花「落ち着くために何か飲もう……」

自動販売機を見つけ立ち止まるが、

彩花(財布、置いてきちゃった……)

携帯をかざして電子マネーで決済しようとするが、

彩花「あれっ、(タッチするところが)ない」

そこは駄菓子屋の前で、店先にはかごにはいった『うまい棒』のようなお菓子が売っている。
大きく書かれた値札には「10円」。

彩花「わー安い」

彩花が顔を上げると、駄菓子屋店内のカレンダーが目に入る。
書かれていたのは、「1985年(昭和60年)10月21日(月)」

彩花「……ん?」

ようやくタイムスリップの事実に思い至り、目を見開く彩花。

//時間経過

○昭和の町並み・路地(夕)
暗くなり、小雨が降っている。
店に灯りがともり、早い店はシャッターを下ろし始めている。
彩花はシャッターの下りた小さな店の庇の下で、うずくまっている。

彩花「あーキャッシュレス社会なんてクソ、信じられるのは現金だけ……」

携帯を握り締め、俯く彩花。
雨に降られたため濡れている。

彩花「私、本当に過去に来ちゃったんだ……」

彩花の前髪から雫が落ちる。

次郎太の声「――いいか、『加治谷修一』を探すんだ!」

三角座りで、ぎゅっと自分を抱き締める彩花。心細さに涙がにじむ。

彩花「そんなこと言ったって、どうしたら……」

そんな彩花に近づく人影。
傘を持った本多正治が彩花を見下ろして傘を差しかけながら、

本多「君、傘ないの?」
彩花「え……」


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