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鳥居を行く者~唄い語るモノ~

─其の道を行く姿を………た者は
        …………に至ると言う─
小さな声が唄うように聴こえてくる。
「誰の声か。唄うのは誰だ?」
ゆっくりと歩きながら洞窟に響くように
問いかけた。
すると、その問いに呼応するように聞こえてくる。
「この地で遥か昔果てた身は、この場所に
葬られた。何故かこの場所から離れることの
叶わなくなった者。
人の恐れる心はこの場所を恐ろしい場所と
してしまったようだ。
始めの頃は、何か聞こえてくるとしても
恐れる者はいなかった。
しかし、次第に………。」
それを聞いて深い溜め息をつき、言葉を返した。
「恐れとして意識を向けるがために、
お前を、いや、お前と同じ場所に葬られた者たちも離れることが叶わなくなっているのか。」
慰めるようにおいてある小さな祠は、
静かだった。
「いつかこの場所を離れたいと思っていたが、そんな思いも忘れてしまった。」
呟くように唄う者は言った。
「お前はどうしたい?」
鳥居を行く者は問いかけた。
「恐れとして意識を向けられるのは
もう辛い。同じ生きた者として辛い。」
唄う者はそう言った。
「ならば、どうする?」
またも、鳥居を行く者は問う。
「この洞窟の先はあちらへ繋がっているのだろう。ならば、その先へ行きたい。」
そう言って、唄う者は洞窟の先へ歩いて行った。
鳥居を行く者は、その後ろ姿を見つめ
軽く溜め息をついた。
そして、その場所から静かに歩いていると、
洞窟を抱くようにそびえる山から
微かな声が聴こえる。
  ─行くは三界
      唯一つ
        信じるは我が心─
見守るように立つ石碑から、優しく聴こえた。

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