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鳥居を行く者 夜咄

✿*昨夜見たことをお話風にしています✿*
それはきっと、どこにでもある話かもしれない。だけど、心揺さぶるものだったので、書くことにしました。どうか、創作話と思って広い心で読んでやって下さいね。

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夜道を歩けば出あう者…
様々あれど、見えるとわかると
途端に寄ってきてはこちらの
顔を覗き込み何事か言っては離れない。
その外見は、一見すると叫び声をあげ、
逃げてしまう人間も多くあるほどのもので、
ましてや、顔を覗かれるなど恐れ慄いて、
気を失う者もいるほどだ。

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ある夜、山道を行くと先の草むらに
何か見える。
「あれは、何だ?」
そう呟きながら、凝視するとその視線に気付いたのかそのモノはこちらを振り返った。
鮮明に見えたそれは、手足は同じほどの長さで四つ這いで歩き、白く艷やかな肌色で、頭はツルリとしている。口の在り処はわかるが、全体がまるで…と考えているうちに目にも止まらぬ早さで、そのモノが近付いてくる。あっという間に、顔を覗き込んでくる。
更に凝視すると、そのモノは言う。
「お前を喰ろうてやろうか」
首を左右に傾げながらこちらを愉しそうに見て言う。
「叫んだりはせんのか、本当は怖いのだろう?」
また、凝視しながら
「いいや。なぜその様な姿なのか考えていた。叫ぶより、なぜその様な姿なのだろうか、とな。はじめはその様な姿では無かったはずだが…。」
というと、そのモノは一瞬黙り込んだあと、
「何だと?なぜお前はそんなことに興味を持つ?」
と尚も首を左右に傾げながらこちらを見て言う。
「ヒトを怖がらせたりするようなものでは無かったように思えてな…。恐れを喰らい始めたのはいつからだ?」
ソレは、聞かれたことを繰り返し呟く。
「いつから?いつから…いつ…いつ、いつ、いつ?ううぅ…」
ソレは唸りながら頭を掻きむしり始め身体を丸めている。
「煩い…煩い煩い、煩いいいぃ…!」
と唸りこちらへ向かってくる。
「お前は、元は○○○だな。」
と言い、その者の身体に触れる。
すると、その者は蹲りうなり続ける。
よく見れば、その者から大小様々な光が浮かんでは吸い込まれていく。
最後に白い小さな光がその者へ吸い込まれた後、姿はいつの間にか白く美しい着物をきた真っ白な肌色の人型へと変わっている。
「忘れていた。今まで…。いつからだったのだろう。」
その者は、どこか懐かしい様な目で遠くを見つめて言う。
「元は、恐れと尊敬の祈りの対象だった。だが、時を経て行くにつれ、恐れの比重が多くなってしまった。そうして、いつの間にか恐れを喰らい始めたのだろう。」
それを聞いたその者は、ポツリと呟いた。
「…そう。いつの日か、恐れられるようになり、忘れられていった…。なぜ恐れられたのか、きっかけは些細なことだった。ある時、村に少女がいて、人攫いに攫われようとしていた。遠くから見ていることが出来ず、咄嗟に起こった出来事だった。あの姿を見た人攫いは恐れて逃げていった。だが、その時にあの姿を少女にも見られてしまった。それからだ…。」
と涙をひとすじ流す。
「良いのだ…、恐れられていても、幸せなら…。でも、いつの日か耐え切れず、異な者となっていたのだな…。ははは…。なんということよ…」
哀しい笑い声を漏らしながら話す。
「ここへ留まるか?祈りがあれば…」
みなまで言い終わる前にその者は、こちらをまっすぐに見て
「もう良い。」
とはっきりと言った。
「わかった。それでいいんだな?」
その者は静かに頷き、
「あぁ、良い…。」
と目を閉じ微笑むと小さな粒になり静かに消えていった。
「恐れとは、何だろうな…こうも変えてしまうほどのものを…。生きている人間の方が余程…いや。わからぬな。」
静かに呟くと、まっすぐに鳥居へと歩く…。

「「喰ろうてやろうか」
幾度も聞いた言葉…。
喰ろうたとしても満たされぬ感覚を
いつになればわかるのか…
いや、喰らわねばいられぬならば
それも在り方なのだろう
しかし、楽になるならば、せめてもの
救いがあればいいようにも思える…」

さて、皆様今宵の夜咄はいかがでしたか。
世も変われば、ひとの頭の中もかわるでしょう。
しかし、恐れだけは変わらない。
ヒトがヒトの為に作り、やがて恐れとなる…
哀しい話でございます。
もしも、皆様が心広き方々ならば、
この世…、いや存在するすべてがそうであり、
在るものだとしたら…広い目でみれば…。
ただ、恐れるだけとはならないようにも
思えて仕方ないのです。
目の前のことをこなし、『ただ在る』もの。
ただ在る中にも悲喜交交あり、ただ在る。
それ以上の意味など必要ないのです。
『ただ在る』それだけの…。
今の私には、この読み取り方が正しいのかはわかりません。
私には、こうみえただけのこと。
ですから、どうか誤解無きよう…。
哀しい優しい話でございました。

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