金言358:議論をしよう

情報共有について問われれば、かつて社員教育や現場で学んだことがある年配社員は、「報告・連絡・相談が基本」と即答します。実行しているかいないかは別として、「ホウレンソウ」は社内の意思疎通をはかるのに必須の作法であることを多くのサラリーマンは知っています。上司に聞かれたら、そう答えれば無難だからです。

このビジネスマナーは、上司が部下に一方的に求めるものです。部下に要求する内容と同じ程度の内容を、上司は部下に報告・連絡・相談しません。たとえば、会社が破綻するという話は、上司からではなく、外部のニュースで知ります。会社が破綻しそうになっているとき、上司は部下に現状を「報告・連絡・相談」しません。会社の存続にかかわる重要情報を事前に部下に知らせると、さらに状況が悪化する恐れがあるからです。一方通行の情報下で暮らす経営幹部が、従業員のモチベーションをぶっ壊しています。

1)稟議保留
幼少期は種子島の神童といわれ、上京して東京のW大学に学びそして大手IT企業に就職したヒトの話。晩年、社長出張時に稟議決済の最終決裁者になったとき、この種子島の神童は、100万円の稟議について、これを承認、否認または差し戻すべきところ、何と保留にしたことがあります。申請内容の補正を求めず期限のある案件を保留したのです。申請者としてはサプライズでした。この男は、意思決定をしないという意思表示をしたのです。

2)経営会議報告
さらに、このヒトは、部下を集めた部門会議で経営会議の内容を、無難なものに限って部下に伝えていました。経営会議での重要事項は、必要と考える事項だけを部下全員に伝え、詳細は一部の子飼いの部下だけに漏らしていました。一方、この人より格上の幹部が率いる別の部門では、経営会議の詳細を部下に伝え、会社の現状と経営幹部の意向が理解されやすい環境を提供していました。情報の一方通行は、この会社の標準ではなく、属人的な基準であったのかもしれません。

3)議論をしよう
この属人的な弱みをもつ幹部は、難しい案件が発生するたびに、社内会議で「議論をしよう」といいました。こいつの辞書には「相談」はなく、稟議決済時の保留と同様、意思決定を求められたら、とにかく議論を指示することで先送りしました。2~3年で人事異動する日本の会社では、大きなリスクを負わず次の異動を待つのが生き残りの定石ですから。

4)形式に満足する
この人からひとつ学んだことがあります。報告することがなくても、とにかく前回報告よりは進展していることを目に見える形にするということでした。たとえば、11月までの達成目標100に対して、9月末の進捗は0、10月末60という見通しのときは、9月末は1でもいいからとにかく0にしないで、達成にむけて進展していることを形式的に記録に残すという手法です。報告するものがなくても報告するというのは、形式に満足する日本の会社では必須条件でありました。「ホウレンソウ」はこの形式を満足させるためのお約束事であったような気がします。

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