金言271:美しい指標

企業価値は、資本がいかに効率よくつかわれているかということが基準のひとつになります。その指標として一般的に使われているものが、ROE(株主資本利益率)とかROI(投下資本利益率)とかいうものです。

1)ROE(株主資本を使ってどれだけ利益をあげたか)

株主からみてどれだけ儲けているかを示す経営分析の指標であるROEは、日本では90年代後半から積極的に利用されるようになり、ビジネスの標準語になっています。日本のビジネスマンがバブル経済を楽しんでいた1980年代後半の頃、ヨーロッパのブランドをM&Aしてアジア太平洋経済圏での商権を狙っていたのがC.Itoなどの商社でした。商社は日本語のままで通じる単語になるほど、元気だった頃のことです。

当時、M&Aにからんで、欧米資本を原資にして日本法人をつくるという「プロジェクト」に縁あって参加したのですが、香港系の銀行の出身者であった日本人経営コンサルタントに100万円支払って、プレゼン用に財務諸表を作成してもらいました。日本法人設立提案書をもってミュンヘンのホテルの一室で外国人投資家と秘密会議をやったのですが、先方のコントローラーという肩書きの人に「ROEは何%か」と当時としては想定外の質問を受けました。こちらは、いくらきれいな財務諸表をつくっても、現実に販売するヒトとチャンネルがなければ意味がないということを前提にして、商圏とか販売チャネルとか販売計画とかの営業サイドを重視した説明をしました。この作戦はうまくいったのですが、最後にこの人の一言には困りました。何となく相性のよさそうな感じがしたので、とっさに電卓を渡して、「ご自分で確認してください」といいました。今思えば簡単な割り算(税引後の利益/株主資本)でした。しかし、ROEが何%で、業界水準とか競合他社はいくらとか聞かれたら手も足もでませんでした。そういう指標を使った経営分析やら株価対策は、日本ではまだ一般的ではなかったからです。

あれから30年近くが経過し、いまやROEは、株主重視の経営=ROE重視の経営、と言えるくらい重要な経営指標になりました。ROEで、株主が会社に出資した金額に対してどれだれ利益を生み出しているかがわかります。トヨタが5%、ホンダが6%としたら、ホンダが効率よく利益をだしているということになります。米国では、ROEの数値の変動と株価が同期したり、経営責任を問われたりするそうです。

2)ROI(経常利益/資本金、社債、借入金の投下資本全体)

負債が多く、株主資本が極端に少ない会社はROEが高くなりがちです。米国では株主の影響力が強いのですが、日本の特に中小企業においては、株主の影響力よりもむしろ銀行や、取引先に対してこの会社にどれだけの収益力があるのかを示すのが大切ということなのでROEよりもROIの方が重視されます。投資に見合う利益を生んでいるかを判断する指標です。

3)美しい指標

美しい指標は、事業がうまくいっている証明になりますが、反面、事業がうまくいっていないときは、悪い人にとっては事実を曲げるために都合のよい指標になるかもしれません。
粉飾決算や不正取引などは、美しい指標作りを企てた悪い人たちの仕業です。何はともあれ、難しい用語や数式が求めているのは、簡単なことです。限られた資本のなかでいかに売上を伸ばし、無駄遣いをやめて、利益をだすかということです。

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