金言295:一瞬の判断

小泉氏は総理時代に、抵抗勢力と戦うなかで高度な政治的判断を常にされていました。その意思決定は、竹中氏によると「一瞬の判断」であったそうです。

ITバブルの頃、SIerの社長室とか経営企画室で仕事をする機会がありました。その会社の経営陣の意思決定過程は、「一瞬の判断」ではありませんでした。当時ITバブル華やかな頃で、経営者の意思決定のスピードが重要なキーワードでした。この会社も、企業の情報化=迅速な経営判断=経営基盤強化=勝ち組とかいうトレンドにのり、多額の費用がかかるシステム開発を事業の柱にしていました。「小泉流」の痛みをともなう経営改革をサポートする情報システム開発を、受託していました。
紺屋の白袴のようで、顧客には創造的破壊をすすめながら、自らは保守的な企業風土を育んでいました。それを実感したのは、入社数年のSE小僧たちが、IPOにからむ自社商号変更の際、旧社名に親しみがあるという理由で反対したときでした。取引先には米国流の経営手法導入に必要な情報システムの構築をすすめながら、自分の職場環境には反動的な感覚を持っていました。

当時の経営者は、重要案件については、経営会議で幹部の議論が出尽くすまで意思決定をしませんでした。想定されるメリット・デメリットを丁寧に検討し、ほぼ全員が案件を理解したと判断したときに、代表権を行使しました。意思決定をする会議で結論を出すときは時間をかけて慎重に行いましたが、検討すべき案件と求められる意思決定をする会議を開催することについては、迅速でした。緊急に経営判断をもとめられる重要案件をすばやく察知して、即座に経営会議を開催していました。着手するタイミングが早いので、意思決定に時間をかけても間に合うということです。これが功を奏したのか、歴代の社長のなかでは長期政権でした。

「一瞬の判断」は、頼るべきサポーターに囲まれて安泰の状況では、求められないものかもしれません。どう動いても政局になるという状況で、まわりの思惑に惑わされ意思決定を逡巡したら、好機をのがしてしまいます。そういう意味で、孤独な権力者は「一瞬の判断」が日常となるのかもしれません。
経営に無縁で、親類・友人知人を頼りにしない年金生活者は、いつも「一瞬の判断」で買い物したり旅行したりする特権を行使します。

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