金言241:不良品

我が国の企業が、オフショアリング(海外生産)のメリットを享受するために、先行投資と合わせて高い授業料を払い続けていた頃の話です。

1)海外生産
現在では、日本市場に適合する品質を低いコストで維持できるようになった業界が増えていますが、昔は、製造コストの安い国で生産した(コスト競争力のある)製品に、国産品より少し安くなる程度に流通コストを上乗せして、日本市場で販売する商売が、生き残り方法の1つでした。高いと売れないからといって、国産品を値下げすると原価割れになるので、同じような商品を労働賃金の安い国から輸入して、利益確保の努力をしていました。

2)並行輸入
もうひとつの方法は、ブランド品の並行輸入でした。国内の正規代理店を経由する商売ではなくて、海外の、それも日本より物価の安い東南アジアの正規代理店もどきのエージェントから仕入れる方法です。これは、偽ブランド品ではなく、本物なのですが、流通経路なり販売ターゲットが日本ではない商品です。並行輸入品は、いまでは問題にする人はいませんが、中曽根内閣の頃は、ブランド品の流通のライセンス権をめぐって、製造元・輸入元・販売元・正規代理店などが、並行輸入業者ともめていました。したがって、当時の並行輸入は商売の王道ではありませんでした。

3)不良品率
日本市場がもとめる品質は、value for money ではありません。価格が安いからといって、それなりの品質では日本の消費者は基本的に納得しません。100円ショップが繁盛しているのは、消費者が100円の商品に100円以上の価値を認めているからです。
ところが、海外市場では、コストに見合う製造管理をします。例えば、海外の工場の責任者は、日本のバイヤーから不良品率を下げるように要求されると、検品を厳しくするとコストが上がるのでFOB(工場出荷価格)のアップを要求してきます。
販売契約の中に、不良品率は4%までは製品価格に含むという条件等があります。
例えば、仕入れたサッカーシューズに汚れがあった場合、汚れはシューズの優れた機能に全く影響しないとか、アッパーに少し傷があった場合、一度着用してプレーをすれば必ず傷はつくものだとかいって、許容範囲だと主張します。Bグレード品はディスカウントして売ればいいのだと教えてくれます。仕切り価格が安いのだから、不良品の損は、残り96%のAグレードの商品の儲けでカバーしてほしいといわれます。

4)人の作る物
関連する事故が起きたとき、日本社会では経営者がまず(生意気?無礼!な)マスコミの前で頭を下げて陳謝しないと収まるものも収まらないことになっています。

世界第2位という日本では無名であったエレベーターの会社は、原因究明を主張しながらも、日本のTVの前で日本流に頭を下げました。事故発生時、まずは原因究明をして、非が明らかになるまで謝罪しないという欧米流のやり取りは、日本人にはなじみません。
原因究明を口実にして事故の責任の所在をなし崩し的にはぐらかしてしまう、政府や経営者への不信が長年たまっているからです。

一方、欧米では、真相を究明する前に謝罪することは、経営者としての責任放棄となり損害賠償のリスクを負うことを意味します。医者より弁護士の数が多いような訴訟社会では「まずはおわび」の作法は受け入れることができません。
彼らには、品質は金で買うものという意識があるような気がします。そして、人は神ではなく、人が作るものはすべて不完全だということを生まれたときから教え込まれているので、不良品は回復困難な問題ではないのです。
独仏をつなぐアウトバーンでは、よくご当地の高級車が故障して止まっていたり、道路端に転がっていたりしています。最高級の車なのになぜだときくと、機械は壊れるものだという答えが返ってきます。当然、壊れた箇所を修理するたびに、完全な車に近づくのだといいます。

品質は管理するものではなく作り出すものという主張です。

いただいたサポートはこれからやってくる未知のウイルス感染対策、首都直下型大地震の有事対策費用に充当します。