金言313:隠せない

赤福、吉兆などと老舗食品業界の不祥事が次から次と報道された時期がありました。いままで、業界の常識、私企業のお約束として通用してきたことが通じなくなっています。田中角栄氏が逮捕されてから、政治家の聖域も特権も少なくなり、親がやっていたことを子が当然として継承すると、違法行為として社会的な制裁を受ける世の中に変わっています。世の中が変わったことを受け入れることができない経営者は、またかというバラエティ番組のコメント屋さんの商売のネタになってしまいます。

従来、会社の不祥事が発覚すると、組織を守るため、経営幹部は会社ぐるみでないことを宣言し、権限外の行為をしたとして一般従業員に責任に負ってもらい、自らは知らなかったと言い訳してきました。今は、経営者がマスコミの前で頭を下げ、会社ぐるみでないことが立証できないときは、辞任に追い込まれます。いままでは、秘書が勝手にやったといえば通用したことが通用しなくなりました。一節では、勝手にやる悪の秘書がいるそうです。

終身雇用制度、年功序列が約束されていた会社では、上司の命令がたとえ不本意でも部下は従いました。いずれ必ず自分が上司になる順番がまわってくることになっていたからです。だから凡庸な上司でも部下に支えられていました。ところが、会社員の精神的な安定のよりどころであった制度がいつのまにか成果主義、実力主義、若手登用などというエイジグループを否定する制度を、会社が採用すると会社員の意識が変わりました。結果として、内部告発が増えました。いままでは、ご法度で、解雇されても仕方がないような問題ある社員ぐらいしか内部告発はやりませんでした。近頃は、内部告発されると、問題が大きくならないうちに経営者が早めに自首するようになりました。告発された会社は犯人探しに時間を割く余裕はありません、不祥事の火消しが会社の存続にかかわる最重要課題になるからです。

会社業務では、たとえ不法・違法なことでも、解雇を恐れ従業員は黙っていました。ですから、会社は隠すことができました。でも、勤務先が明日の生活を保障してくれるかどうか不安になると、窮した従業員ネズミが幹部ネコをかむことになります。「隠さない」というのが、経営者の法令遵守の基本姿勢のひとつであるとすると、「隠せない」は雇用者と被雇用者の所属組織に対する忠誠心の温度差の表現のひとつでしょう。

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