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一人じゃないから一人がいい。沼津港に行ってみた。中編

ずっと行きたかった沼津港は、日本でいちばんの水深を誇る駿河湾にある。また、湾から港がとても近く、深海の生き物が水揚げされてすぐに水族館に運ばれるため、深海の生き物に特化した水族館が、ここ、沼津にある。

着いたら10時20分くらいで、家をでてから約三時間半かかって沼津までようやく着いた。ようやく、と書いたけれど体感としてはもっとスムーズで、あ、着いたんだ。という感じだった。確かに遠かったけれど、行けなくはなかった。行ってはいけない、とわたしは強く思っていたのか、と感じた。

お腹が空いたのだけれど、観光船にのるには先にチケットを買う必要がある。バス停の目の前のひものセンターに入り、係の人に聞いてチケットを買う。11時の回だから、なにか軽く食べようと思って、350円のサバ焼きおにぎりを頼んだ。これから焼くので5分かかるという。鯛出汁をかけて食べると美味しいといわれたので、イートインで用意してもらうことにした。出汁は店内で自由に試飲できる。

土地柄なのか、観光地なのにそこまで物価が高くない。東京の物価が高すぎるからかもしれないが、水はご自由にお飲みください、トイレも綺麗で石鹸やペーパーが置かれていて、もうこの時点で「好きだぞ沼津…」と呟いていた。

乗船は出航の10分前なので、そわそわしながら焼きおにぎりを待っていた。

これにごろごろ鯖の身が入っている

瞬間的にじゅわりと口の中が唾液で満ちるような姿と香ばしい香り。地元川越で食べる鰹節の焼きおにぎりも美味しいが、いや…これはそれ以上だった。

ごろごろと鯖の身が入っていて、程よい油感と圧倒的な旨み。いっしょに添えられたわさびのつんつん漬けもよく合う。周りの視線を感じる。「お、あれ美味しそう」という声が聞こえる。ええ、美味しいのです。。

一緒に渡された深めのカップにだし汁をいれて、おにぎりをほぐす。もう満点。旨みしかない、さらさらと食べて大満足で体も心もほこほこになった。

恐るべし沼津。

そうこうしているうちに乗船時間となり、みんなすぐ目の前の港にぞろぞろと歩いて行く。白い船が着岸していた。

レトロかわいい。

以前学生時代にカッパドキアに行ったことがある。学生でお金もなく、一緒に行ったメンバーに高所恐怖症の子がいて気球には乗らなかった。
地上で、朝陽を浴びて輝く気球を追った。下から見る気球も幻想的だったけれど、やっぱり乗ったらよかったかもしれない、と後から思って、それ以来、船には乗るし、洞窟にも入るようにしている。経験できることは、今しておきたい。味わい尽くしておきたい。
次がいつなんてわからないから。

そんなこんなで乗船しようとすると、カモメの餌が売られていた。もう誰がどうみても慣れ親しんだあれである。どうやらこの船は、沖でカモメやトビとふれあえるということを売りにしているらしい。
野生動物との接し方としてはこの時代にこれって大丈夫かとか、動物の健康が、とかいろいろ考えて「今日はプライベート!」と割り切って買った。「100万円ね」とおじさんたちあるあるジョークに笑って返した。

100万円おじさんず

できることは、やっておきたい。

あれですね。

船に乗る。白いベンチに腰掛けると、たぽたぽと波に揺られている。船酔いというものをついぞしたことがないけれど、もしやとうっすら不安になって、出航まで船内をみてまわることにした。救助用の浮き輪、コンロ付きのテーブル、ふかふかのソファがあったり、ちょっと昔の名残を残していて、楽しい。

冬は鍋でもするんだろうか?
窓から

いよいよエンジンがかかり、出航する。ゆっくりぐるりと旋回して、そのあとはあっという間に岸が遠くなってゆく。日本一の重量を誇る水門をくぐり、沖へと出た。

じゃばじゃばばば
振り返って水門

気がつくとトビがあちらこちらから集まってくる。100万円おじさんがいつのまにか立っていて、かっぱえびせんを放ると空中でうまくキャッチして歓声が上がった。

トビといえばサンドイッチを奪うとか、ウィンナーを奪うとか海のギャング的存在で怖がられている。でもここのトビたちはとても賢く、聡明な眼をしていて、私はこんなにきちんとトビを見たことがあっただろうかと思った。

たまに、目があう。心が通ったようにトビの動きがわかる一瞬があって、かっぱえびせんを放るとキャッチしてそのまま飛びながら器用に食べた。

並走。

もちろん投げる方は下手なので、ばらばらとカッパえびせんは海に落ちて船の作る波に揉まれてゆく。それをも海面すれすれに飛んでうまく掴んでは食べ、ちょっと遅れをとってはまた力強く羽ばたいてぐんぐんとスピードを上げて並走する。
その日見たトビは、これまで見た鳥の中でも殊更美しい鳥だったし、観光案内の放送が全く耳に入らないほど、不思議な高揚感に包まれていた。ちょっとだけのこったかっぱえびせんを、わたしもぽりぽりと食べた。やっぱりいつもの味だった。

トビを美しいと思ったのは初めてだった。


気づいたら富士山

餌がなくなるくらいのタイミングでトビたちはすっと船から離れて行く。より沖に出て、周りをみるとすっかり岸は遠く、富士山が見えた。
帰りはあっという間で、まだ夢の中みたいなぼーっとした気持ちのまま豊かな地形を眺めた。絵みたいだなぁ。本物なんだなぁ。

日帰りできる距離なのに、知らないことが、知らない場所が、まだまだたくさんあるのだと思った。


この下に深海があるというのも、またすごいなぁ


カモメが等間隔に止まっている。
傾いちゃった。

港に帰って船を降りた。
いつも港に行くと思うのだけれど、毎朝競りをやっているはずなのに、昼には祭りの次の日みたいに全てが片付けられ静寂の中。それがちょっと怖くて好きだと思った。




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