マニュアル

・私は某有名な飲食チェーン店でバイトをしている。そこでは標準化が徹底されており、各仕事ごとにマニュアルが厳しく設定されている。他にもアピアランスや在庫のシェルフライフ、保管方法などなど、すべてマニュアルブックに明記されており、マネージャーをはじめ従業員はそれを遵守するようにプログラムが組まれ、トレーニングが実施されている。

・なぜマニュアルについて考えているかというと、私はルールに無条件に従うということが大の苦手だからだ。なぜそれを守らなくてはいけないのかという根拠に同意しないと、それを行うことができない。


・多くの飲食店がそうだろうが、店舗・会社としての目標は「売上利益を出すこと」であろう。そのためには、一時的な回転率(スピード)とリピーターを増やすための質(クオリティ・ホスピタリティ)が優先事項になる。

・マニュアルはなぜあるのだろうか。一つの理由としては、チェーン店としてどの店舗でも同じサービスや商品を提供するため(標準化)である。また、マニュアルを守ることで、ある一定の質が担保されるということもできる。

・それでは、マニュアルには"例外"はあるのだろうか。法学では「原則・例外の考え方」が一般的であるが、お店でそういうことは全く教えられたことがない。極めつけに、大きなルールとして、「インテグリティ」が大事であると掲げているのである。インテグリティってなんなんですか?ルールに無条件に従うことが正しいこと?他にも確か「インクルージョン」「ファミリー」「ピープル」を並列させている。

・それはさておき、実際にあるマニュアルと、よくおこりがちなシチュエーションを設定してマニュアルについてディスカッションをしてみることにする。

例①フルーリー超オレオ
フルーリーは超オレオだと機械のレバーを3往復してオレオクッキーを砕いてカップにかけることが規定とされている。しかし、中身のオレオが粉っぽくなっている関係で、3往復してもオレオが想定の量に満たない(と感じる)場合、4往復することは許されるのか?
主張①許される
→まず、レバーを3往復することがマニュアルになっているのは、3往復することで規定の量がでるという前提があるからだ。そして、前提が誤っている場合、3という数字を守るということに意味がなくなる。形式として"3"往復することが重要なのではなく、結果的に○gオレオを混ぜたということが重要なのである。
主張②許されない
→そもそも3往復した結果、規定の量に達しているかどうかは従業員の目視では、ただしい判断がつかない。マニュアルとして3往復と明記しているのは、従業員の主観(目分量などの判断)を含ませないためである。経験的は判断ではなく事実に基づいた判断の方を重要視するべきだ。

論点を整理する。主張①の論点は、形式としてルールに従うか、ルールの本質を加味するべきか。主張②の論点は、目分量や個人的・経験的な判断をするべきか、結果や事実が正しいとするか。

例②レシート消し込み
商品が注文されると、お店側でも従業員用のレシート用紙が発行される。それはふつうのレシートよりも商品名がみやすく箇条書きのように書かれている。入れ忘れや置きミスがないように、商品をトレーにおいたら、その商品名にマーカーする、というのがルールになっている。それを消し込みという。では、アイスコーヒー単品などの1点のみのオーダーのとき、消し込みを行わずにお客様に提供することは、禁止されるべきだろうか?
主張①許される
まず、消し込みすることの意義として、"入れ忘れがないように"という名目がある。そして、1点のみの注文の場合、入れ忘れるも何も間違えることがないといえる。また、マーカーをするとその分手間がかかるし、お客様の顔を確認するのがおろそかになってしまうこともあるだろう。間違えることがほぼない状況の上で、お客様の満足度を第一に考えるならば、スピード値やホスピタリティ値にあてたほうがよいのではないだろうか。
主張②許されない
人間の目に間違いがないと100%言い切ることはできない。そして、ルールを例外的に無視することは、その規範性としての効力が薄まることにもつながる。ルールには"全体"の入れ忘れ・ミスを防ぐことも含まれており、いかなるオーダーに対しても消し込みをするということの重要性は変わらない。商品を間違えるというミスは、お客様の店舗体験を一番阻害するものである。そのミスを極力減らすために消し込みをするということがルール化されている。

論点整理。主張①は、ほぼ間違えないという状況の前提から、ルールよりもサービスに力を注ぐべきという主張。ミスがないことが明確な場合、リソースを他に割くべきであるという考えだ。主張②は、個別具体の状況でルールを適応させる/させないと判断させるのではなく、例外なく一貫して消し込みを行うことで、全体の入れ忘れミスを減らすことが重要であるという意見である。

こう文字に起こして客観的に状況を整理すると、ルールを守ることの方が、基本的には正しそうだなあというのが感想である。他人事みたいだな。ルールを無視することは、多くの場合は個人の判断だし、傍から見れば「勝手なことやってんな」という行動に過ぎない。そして、万が一誰かに「もっとオレオ多くした方がよくない?」「もっとお客様の顔みなよ」と指摘されたとしても、「三往復したので量は正しいです」「マーカーすることを優先しました」と、マニュアルに従った事実を盾にすることが可能であり、しかもその盾は多くの文句よりも正当性があるのだ。客に何を言われようが関係ない。フロートのドリンクの量少なくない?アイスコーヒーの氷の量多くない?という苦情も、「いえ、会社の指示なんで」と一蹴可能である!

この場合において、ルールを守るのは、ルールに守られるためである。という考えが成立しそうである。

話を戻すと、つまり、バイトで求められているのは、おおよそ、マニュアルを一言一句正確に例外なく守り、機械的に作業をこなす人材なのである。

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