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自粛期間の言い訳

今年の初めに「週に1回noteをアップする」と宣言したのに、随分とサボってしまった。

新型コロナウイルスの流行で、東京はまず、夜間の外出を控えるように言われ、緊急事態宣言が出て…。ちょうどその少し前に書いてあった内容は、なんだかそぐわないような気がして、アップするのを躊躇した。

そしてそれから、いつもと違う日常が始まり、気分転換にカフェを渡り歩きながら原稿を書くことができなくなった。
食事はその日の気分や都合で、材料を買ってきたり外食をしたりなんてことはなくなり、毎日3食自炊するための食材を買う。
いつものように夕方商店街に行ったら、たくさんの人であふれ、肉は売り切れていた。
スーパーはものすごい行列で、トイレットペーパーは棚に並んだらすぐ買わなければ、次に買えないかもしれない。
日用品の買い物から帰ってきたら、ぐったりと疲れてしまう。

仕事は、忙しかった。
ちょうど少し前に撮影した料理本の原稿の締め切りが迫っていたから。ダイニングテーブルで1日ノートパソコンに向かい、料理家が書いたレシピを、読みやすく体裁を整えていき、キャッチをつけたり、作り方のポイントなどについて電話でコメントをもらい、書き込んでいく。
先に予定していた本の撮影は延期に。
雑誌の仕事は、電話で取材をして写真は過去のものを流用したり、イラストを依頼したりして、できるだけ人と会わない方法で進めることになった。

SNSでは、少なくない人が、「いまだからできること」「おうち時間を楽しもう」といったテーマで、読んだ本のことや、おすすめの音楽や映画のこと、パン作りやお菓子作り、刺繍、子どもとの時間、室内での筋トレなどなど、少しでも明るい気持ちでこの期間を乗り切ろうと、様々な内容を上げていた。
私にも、いわゆる「バトン」がいくつか回ってきて、気軽に「いいですよ」と引き受けたものの、なんだか先に進めなくなってしまった。
こんな内容にしようと、頭の中では考えるのだけれど、それをスマホで実際に撮影し、簡単なコメントをつける、というだけのことが、できない。
「今日は仕事をたくさんしたから、明日にしよう」「週末に時間があるときに」と考えて先延ばしにし、気がついたら、小さな重りのようになっていた。
そして、あきらめた。
ああ、今の私には、ほんのちょっぴりの「やるべきこと」を上乗せする余裕が、ない。

ニュースでは毎日のように、飲食店をはじめとする商業施設や娯楽施設、観光業の苦境や、医療や介護従事者たちの苦悩が伝えられてきた。もちろん、病気そのものの深刻さも。それらは、命に関わることだ。

一人暮らしの友人は、チャットでのやり取りで「このままリモートワークで自宅に引きこもって、だれにも会わない日が続いたら、孤独死しそう!」と言う。いっぽうで、子育て真っ只中の友人たちとのラインでは「家族全員が家にいるって、もう限界。リモートワーク中の夫から、ごはんまだ?って言われてブチキレた!」なんていう話が飛び交う。

私はまあ、元気には過ごしていた。もともと夫婦そろってフリーランスだから、家の中で夫と2人で過ごすのには慣れているし、仕事が忙しいということは、今のところなんとか仕事はある、ということだ。
外遊びはできなくなったけれど、運動不足にならないよう、家の中で自転車に乗るための機材をそろえた。
そして趣味の自転車仲間たちと、週末にはオンライン飲み会を楽むようになった。部屋に花を飾って、美しいな、と眺めるくらいの余裕はある。

だけど、不安もストレスも、抱えていることは確かだった。私にとって、いちばん効率のいい方法で仕事をすることはできない。仕事をしていたいくつかの雑誌は休刊が決まったし、この先、今ある仕事がどうなるかもわからない。週末に自転車で山の方まで繰り出して、思いっきり気分転換をすることもできない。

たった今、命の危険にさらされているわけでもないし、今日明日の暮らしがどうなるかわからないほど切羽詰まっているわけでもない。
いま、そうした危機に瀕している人もいる世の中で、大きな声で、「私だけが大変な思いをしている」とはとても言えない状況だ。
だけどだれもが、それぞれに違った形で、いろんな大きさの不安やストレスを抱えている。人と比べてどう、ということではないのだ。

なんだか、女の人生に似ている。早く結婚して、様々な都合で仕事をセーブした女性は、ああ、同期の女性たちと同じように仕事を続けていたら…と悔しい思いをすることもあるだろう。
子育て真っ只中の女性は、独身で自由に旅行をする女性をうらやましく思うこともあるし、旅をしている女性は、子どもを産めるうちに結婚相手に巡り会えるだろうか、とジリジリとした思いでいるかもしれない。

だれかのことを羨ましく思ったり、そのだれかは、じつは違った悩みを抱えていたり…。それもなんだか理解できるような気がして、自分の気持ちにフタをしようとしたり、些細な言葉で傷つけたり、傷ついたり…。


そうこうしながら自粛生活にも慣れてきた頃、また、新しい日常が始まる。
久ぶりに仕事先の人や、友人に会ったら、なんだか力が湧いてきた。



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