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怒られると貧血や失神してしまうことは、ぼくだけじゃないんだよ

拝啓

15歳のぼくへ。

長年の悩みが解決したので、当時のあなたに向けて手紙を書きます。

高校1年生の5月頃。先生から説教されて、職員室の前で失神して顎を3針縫う怪我を負いましたね。

修学旅行に行くために必要な書類を提出し忘れて、担任の先生から真顔で「あなた、今日出せないなら修学旅行参加できないからね」って言われて。

今になってみれば、それは軽い冗談だって分かるけど、当時は本気で信じちゃって、友達と思い出が作れないことに絶望してましたね。

途中から先生の説教が聞こえなくなってきて、目の前も徐々に真っ暗になっていき、「あっこれはいつものやばいやつだ」と思ってその場を逃げ出そうとした矢先に倒れました。

あなたは意識がないときに夢をみてましたね。

教室

さらに遡ること小学校1年生。夏休み前のとある授業中。

両親以外で最初に誰かに怒られたのは、きっとあの時でしょう。

あなたは冗談半分でクラスメイトの目に向けて消しゴムを投げつけました。

それを見た先生は、徐に黒板に目を描いて、「あなたのやったことは、一歩間違えれば失明させてしまう行為だ」と、淡々と、しかし怒りのこもった声で説明しました。

あなたはそのとき、まるで全てを否定されているかのような錯覚に襲われて、ただ黒板に描かれている瞳孔をじっと見つめることしかできなかったよね。人から怒りという感情を初めて向けられ、どうしていいか分からなかったから。

あの時の手に握った汗の感覚は、東京の夏よりも酷く湿っていました。

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意識が戻るとぼくは仰向けになって寝そべっていました。そして、ついに失神してしまったのかと気づいて情けなくなったね。

今すぐその場から逃げ出したくて立ち上がろうとしたけど、地理の先生から顎の皮がぱっくり割れているよと言われました。

よく見ると制服のシャツには赤い血が鮮明に付いていて、絵の具みたいだなと思ったことを今でも思い出します。

その後、すぐに学校近くの病院へ。

あなたは、医者になんで倒れたのか心当たりありますか?と聞かれて、ほんとはあるのに親がいる手前、本当のことを話さなかったよね。

だって、「先生に怒られたことが原因で失神した」なんて口が裂けても言えませんから。

それ以来、あなたは「誰かに怒られる」ことに異常なまでの警戒心が芽生えました。小学校のときから感じていた違和をもっと強く考えるようになったのです。

自分の精神の弱さが露呈することを極度に怖がり、あなたは常に人の考えや価値観を先読みすることで精神の安定を図りました。

大学に入ってからは、心理学や行動経済学を好んで勉強したのも他人を知ることで自衛したかったからです。

今では意識しなくとも人の顔色や言葉遣い、雰囲気から瞬時に情報を読み取って、その場の最適解を考えられるようになったんですよ。

でも、そんな自分がほんとは嫌いですよね。他人の顔色ばかりうかがって生きるなんて、とても疲れるし、ダサいし、何より「自分がない」みたいで。

それでも、もしこの「得体の知れない心の弱さ」がバレてしまったらと思うと、ふと怖くなって独りでよく泣いていましたね。

でもね、やっとその「正体」が分かったんですよ。

随分時間がかかってしまいました。

あの時お医者さんに相談していれば、一発で解決していたのに。

もったいぶらずに言いますね。

あなたのそれは、「血管性迷走神経反射」という神経調節性失神系の病気です。と同時にあなたはHSP(正確にはHSS型HSP)という気質も持っているから、血管性迷走神経反射が発症しやすいのです。

血管性迷走神経反射。漢字ばかりでなんだか恐ろしい病気みたいに聞こえるけど、若者でも0.5%以上の人が発症するようです。

この症状は、過度のストレスや強い痛み、恐怖心などが原因となって迷走神経が刺激され、末梢の血管が拡張し血圧が低下するために、脳に十分な血液が送れなくなり起こります。

症状は血の引くような感じ、冷や汗が出る、目の前が暗くなるなど、ぼくが経験したほぼ全てが含まれます。そして、これらを前兆として失神に至ることもあるんです。

通勤中の電車内や朝礼などの長時間の立ちっぱなしで貧血になった時、注射をして倒れそうになった時やホラー映画で気分が悪くなった時も、

全ては、「血管性迷走神経反射」の症状によるものです。

また、あなたはHSS型HSP(Highly Sensitive Person)という気質も備わっているので、人よりもずっとストレスや他人の感情を感じてしまい、血管性迷走神経反射が併発しやすくなっています。

ちなみに、HSPも日本では約10~15%ほどいて、HSS型HSPとなると約6%の方が該当するようです。

僕はこれを知った時、心の底からホッとしました。

「得体の知れない心の弱さ」には、ちゃんとした名前があって、少なからず同じ症状・気質を持った人がいることに嬉しくて。

そして、この症状・気質へのお手本となるような対処法や生き方が様々あることに嬉しくて。

あなたはどんな小さな悩みも絶対に誰にも話さないから、これまでずっと独りで考えていましたね。そして、今回もまた独りでそれを解決してしまったので、一生この性質は変わらないでしょう。

でも安心してください。

あなたが悩んだ時間や努力は無駄ではないです。

当時のぼくは、社会人にはなることはできないだろうなと諦めていたけど、今はそれなりに社会人っぽくなっています。

まだまだ及第点には程遠いけど、あなたが今まで培ってくれた「適応力」や「情報処理能力」は役に立っています。

だから、大丈夫です。

あなたはその症状・気質によってこれからも苦労をすると思うけど、持ち前の根拠のないポジティブさがなんとかしてくれます。

だから、大丈夫なんです。


いつか暗雲が晴れる日を信じて、一歩ずつ歩いてください。


敬具

今のぼくより

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