アイルランド西部コナハト地方のエア「イースタースノウ Easter Snow」の由来
私がお気に入りのアイルランドの古いエアに「イースタースノウ Easter Snow」という曲があります。毎年イースターの季節になると弾きたくなる、とても綺麗な曲です。
アイルランド北部デリー出身のイリアン・パイプス奏者 トマス・オカナン Tomás Ó Canainn (1930-2013) が編纂した Traditional Music in Ireland (1995) 第105番に Easter Snow として収録されている3拍子の単旋律ヴァージョンからはじめに学びました。
この曲は、19世紀アイルランドの収集家、画家のピートリ George Petrie (1789-1866) の手稿譜を、1902年から5年にかけて作曲家スタンフォード Charles Villiers Stanford (1852-1924) が編纂した曲集の第1123番にも含まれます。ここでは4分の4拍子の単旋律で書かれていて、きっちりと拍節感のある記譜です。どことなく面影はあるものの、オカナンのヴァージョンとはかなり違っています。これはこれで綺麗な曲なので、初見で適当に低音を付けて初見で弾いてみました。第一印象は The Sixpence のような雰囲気です。
この曲集には次のようなタイトルと但し書きがあります。
この曲の情報源は南部マンスターの歴史家ジョイス Patrick Weston Joyce (1827-1914) でした。彼のコレクションにも大変すばらしい曲が多数収録されていますが、ジョイスはこの曲を出版しませんでした。
ディーシュアート・ヌーイン Diseart Nuadhain について、ピートリは西部コナハトのメーヨー州の地名とメモ書きしていましたが、正しくはロスコモン州にある地名で St. Nuadh の隠棲地という意味です。このアイルランド語の地名を英語読みで書き換えたのが Estersnow となります。私たちからしたらえっ・・・だいぶ違う・・と思いますが。ここからとっても面白いのが、nó Sneachta Cásga という表現です。nó は英語の no ではなく or の意味です。シュナハタ・コースカ Sneachta Cásca はアイルランド語で「復活祭の雪」を意味します。たぶん、皆が混乱しているのですが、元々アイルランド語で Diseart Nuadhain という地名があって、発音しにくかったために英語表記の Estersnow が使われるようになりました。それを見たアイルランド人が Easter Snow と勘違いして、アイルランド語の Sneachta Cásca と呼ぶようになったようです。「復活祭の雪」という詩的な表現が好まれたのかもしれません。なによりも大変美しいエアであることに違いはないと思います。
私はピートリやオカナンのヴァージョンともかなり違う金属弦ハープにふさわしい編曲に書き換えて弾いています。4分の4でも4分の3でもない変拍子を使っています。毎回違うアレンジで弾きたい曲で、今年撮った動画はCのアレンジにして、run というハープ由来の装飾法を多用しています。
昨年弾いていたのはGのヴァージョンで、少し違う雰囲気です。
どちらも元のオカナンやピートリのヴァージョンとはかなり変化しているので、たぶん、誰も私のようなアレンジで弾いている人はいないんじゃないかな。教室の生徒さん以外にはいないと思います。
『20弦ハープで奏でる366の曲集』第328番にGのヴァージョンを収録しています。
ちなみに『12弦ハープのための333の曲集』第323番にも収録しています。
今年の動画で演奏している白いハープ
イースターバニーの日本画『うさぎの家』中井智子作