結局ツインテールなんだよ -萌え文化総括-

萌え文化を総括と一口に言っても、そもそも萌えの定義は人によってさまざま。アキバにメイドカフェができ始めて街角でライブアイドルがストリートライブをするようになった2000年代初頭、深夜アニメにもギャルゲやラノベ原作のハーレムものが増え始め、なによりも大事なのは「かわいさ」であると認識するオタクが徐々に増えていった。そうした彼らや彼女らが高まった感情を表現するときに使われるようになった語が萌えであり、どちらかというとマチズモ的数値偏重の従来型オタク嗜好とは明らかに異なる価値観を形成していったように思われる。そうした流れを受けて書かれたのがベストセラーになった「動物化するポストモダン」なる批評書なのだが、そこで萌えを重視するオタクは物語ではなくデータベース消費型、つまりキャラ重視であり、理性を働かせることなく反射で強い明滅に群がる動物的な行動様式が特徴であると論じられていた。出版されて20年経った今、最前管理を主な生業とするピンチケの行動を思い起こすと、なるほどそうかもしれないと思わされる。動物園界隈を自称していたのは、その自覚があったからなのか。

萌えという語が流通し始めた2000年代初頭は、サブカルの申し子桃井はるこ率いるUNDER17の手掛けるギャルゲ主題歌などから電波ソングと呼ばれる情報量の異様に多いエレクトロが台頭し、「ラブマシーン」を大ヒットさせたモーニング娘。がSPEEDひとり勝ちだったガールズグループ市場に王道アイドル路線の活路を開くなど、のちのライブアイドル活況に繋がる下地が整備され始めた時期であった。なかでもオタク的なるものの対極に位置すると思われていた元ピチカートファイヴの高浪敬太郎氏がアニメ「ちょびっツ」の音楽を手掛けたことは各界に衝撃を与え、その後アイドル化してポップス界で大きな存在感を示すようになる声優ものの方向性を決定づけたのではないかと思われる。もちろんそれ以前からのアニソン界において最重要なキーパーソンは故岡崎律子氏であり、MONACAがこれほどオタクから支持されるプロダクションに成長したのも彼女の作風があればこそなのは言うまでもない。

UNDER17とともに電波ソング黎明期を盛り上げたのはMOSAIC.WAVなのだが、そのMOSAICが電波ソングをライブアイドル界、ひいてはポップスのフィールドまで行き渡らせたでんぱ組の本拠ディアステージ所属になり、でんぱ組を立ち上げたもふくちゃんやYumiko先生とともにENGAG.INGの楽曲をプロデュースしたことは歴史的な転換点を知るうえで重要なトピックなのではないかと思う。ENGAG.INGは順調に動員を伸ばしたもののデビューから2年8か月で解散、もちろん新型肺炎感染拡大の影響は大きいものの、現在のライブアイドル支持層がかつての電波ソングを嗜好する層と必ずしも同一とは限らないという時代の流れを改めて認識させられた。

現在流通している萌えという語は各個人の性癖に刺さるフェティッシュとほぼ同義なのではないかと思われるが、自分の萌えは他人の萎えという言葉の通り何が至高の萌えかは千差万別である。しかしながらこの世に絶対というものがあるとすればそれは「多様性だけが常に善である」というのが自分の持論であり、多様性を維持できない環境、たとえば同調圧力などは常に悪なのであって、自分にあった萌えを自由に選び取ることのできる現在はおおむね善の状態にあると言って差し支えないと思う。とりあえず自分としてはとにかくツインテールが見たいので、アイドル諸姉におかれては軽率かつ前のめりにツインテールを披露してくれるよう希求してやまない次第である。

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