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carewillのケア衣料のデザインで大事にしていることは”境目”を滲ませること〜長嶋りかこさんインタビュー 第3回〜

さまざまなメンバーに参画していただいているケア衣料ブランドcarewillの、参画メンバーの想いを詳しくお伝えする取材シリーズ、今回はcarewillにアートディレクター/グラフィックデザイナーとして携わっていただいている長嶋りかこさんにcarewillのVIや、長嶋さんご自身、Villageさんについてお話いただきました。

※この記事は取材記事の第3回です。ここまでの記事は下記からお読みいただけますので、ぜひご覧ください。

長嶋りかこ氏
1980年生まれ。デザイン事務所village®代表、グラフィックデザイナー。アイデンティティデザイン、ウェブデザイン、ブックデザイン、空間構成、サイン計画など、グラフィックデザインを基軸とした活動を行う。 これまでの仕事に「札幌国際芸術祭”都市と自然”」(2014)、「東北ユースオーケストラ」(2016-)、「堂島ビエンナーレ」(2019)、ポーラ美術館のVI計画(2020)、廃棄生地のみを再利用した展示空間デザイン「DESCENTE BLANC exhibithion」(2018)、廃プラスチックボトルを再利用したテキスタイルデザイン「Scrap_CMYK」(2019)など。2021年度ヴェネチア・ビエンナーレでは国際建築展日本館にてデザインを担当。
https://www.rikako-nagashima.com


ーーcarewillのVIを作っていただきました。こだわったポイントや、その背景について教えてください。

長嶋さん:当事者の動きやすさや着やすさを重視するcarewillのケア衣料は、当事者の“服の不自由“を解決するため適切に機能して“ワーク“することを目指していますから、VI計画を考えるにあたって、私たちはこの服の存在をまず「ワークウエア」であると解釈しました。

ロゴタイプをステンシル書体に仕立てているのは、ステンシルプレートが工業利用だけでなく、個人が自作で工夫して利用するようなものづくりの現場も想起させる存在であることからです。というのも、笈沼親子が家族の状況をきっかけに始めた服作りもそうですが、同じく家族の病痛にあわせ介助者が服を工夫して手作りするといった無数の”ホームケアラー”達の服作りには、クラフトマンシップが詰まっています。そのクラフトマンシップを、ステンシルに投影したかったためです。

ブランドカラーは、いわゆる福祉や医療・介護らしさを感じる色合い(水色やピンクや青など)ではなく、クラフト感とワーク感のある深緑色にしています。カラーリングだけでなく、ロゴタイプや様々なビジュアルにおいても福祉や医療・介護らしさを解釈し直すような視覚表現を心がけています。なぜならcarewillのケア衣料のデザインにおいて大事にしていることは、ケア衣料を必要としている人もそうでない人も着られる服であること。なので、そのことと同じように、カラーリングやロゴタイプや様々なビジュアルにおいて「当事者と当事者でない者」、「家と外(医療・介護施設など)」、「日常と非日常」などの”境目”を滲ませることを目指しています。

ーー長嶋さんは、なぜデザインに関わる仕事に携わることを決めたのですか。また、お仕事を通じて、実現したい世界はどんなものでしょうか。

長嶋さん:もともと絵が得意というだけで油絵科に進もうと思っていたのですが、いざ学び始めるとその空間から漂ってくる”感じ”が自分は向いてないと思って、即デザイン科を目指し始めたことから、あれよあれよと今に繋がっています。そんなもんなので大学時代には何を学べばいいのかすらわからない時期がほとんどでした。けれど自分で作品を作って行く中で、次第に”デザインはより良くする事である”という至極真っ当で普遍的な事には一応たどり着き、「より良くすることがデザインなのであれば、広告代理店に入れば目の前の課題に対して”より良くするにはどうしたらいいか”を考え実践しまくれるので、その筋力と考え方が身につけばその後独立した時にどんなデザインにも応用できるのではないか」と浅はかに考え、広告代理店に就職しました。しかし現実の仕事で自分がしてきたことは、自分が欲しくもない商品をより良く見せるための広告作りや、自分が食べたくもない商品をより良く見せるための広告作りで、果たして自分は何のためにデザインをしているのかと嫌気がさしてしまった。いかに売れるか、という快楽的な目的に向かってデザインをすることは自分には向いていないということが良く分かり、独立後は反動的に、お仕事をお受けするかどうかの判断の指針を徐々に設けるようになりました。最初の方に先述したように、環境/福祉/文化活動に視覚言語で寄与できるかどうかでお仕事を取捨選択するようになったんです。だから仕事を通じて実現したい世界はどんなものか、という質問に対しては、人々の痛み、自然環境の痛みが、デザインで「より良くなって痛みがなくなる」。そのために少しでも寄与したいと考えています。


ーーVillageさんについて教えてください。素晴らしいVIを定めてくださったり、時にメン バーのアイデアが拡散した際にアイデアを収斂させていくきっかけを提供したり、既存の価値観とは異なるアイデアを出してくださったりします。 また、打ち合わせ中に長嶋さんのお子さまのお迎えやお昼寝のケアなども、チームの方がフォローされているところもよく見かけました。チームで仕事をする、チームで成果を出す ことについて、長嶋さんが大切にしていることがあれば教えてください。

長嶋さん:うちの事務所は少人数です。デザイナーは私含めた3人と、デザイン以外の色々ができる河南の、合計4人。今よりも多くデザイナーを雇っていたこともありましたが、色々やってみて、私の能力でチームを動かせる人数は今の人数だということを実感しています。今より多い人数を雇っていた時期もありましたが、人が増えるほどに自分の「手」を動かすよりも「口」を動かす時間が多くなり、自分の場合はそれが空虚に感じてくることが分かりました。スタッフの卒業があり今の人数になった時、しっかり自分の「手」を動かしながらディレクションもするには今の人数がちょうど良いことを実感して、以来この人数をキープしています。

今は子育て中なので私の時間がないため、以前のように依頼主側の急な変更や急な追加に対応しきれないのですが、それでも対応しようとすると他のスタッフや家族にしわ寄せがいってしまうため、そのような状況になってきたら、常に俯瞰してチームを見ている河南から”今のまま進んでも無理ですよ”とお達しが入ります。笑 かつての私はとにかく仕事に対して楽観的というか、「必ず良く出来るし!やればできるし!」とブルドーザーのように実行するのみの人間でしたが、それは現実を直視していない危うさがありました。今は現実的に家事育児で時間もない。だから私自身もだいぶ楽観せずに目の前の現実を捉えるようになりました。が、それでもつい気持ちだけ前のめりで前方不注意なブルドーザーになっているときは、河南からお達しをもらうので笑、素直に受け止め仕事のやり方や仕事の数を調整し、できるだけ心身ともに健やかに働けることを実践しています。

マザーテレサの名言に「世界平和のためにできること?家に帰って家族を愛してあげてください」というものがありますが、そうやって一番近くにいる事務所のスタッフの働く環境を健やかにすることが、仕事において大事なことなのかなと思っています。常に反省はたえませんが。

私一人でできることはたかが知れており、このチームだからできている事だらけです。例えばデザイナーの稲田のバックグラウンドは建築なので、彼は私の守備範囲外の能力を持っており、稲田とのタッグによって出来た空間系の仕事が沢山あります。浦田は3人のお子さんを持つシングルマザーなのですが、母業が初めてだらけの私は、彼女の細やかな気遣いと存在自体にとても救われています。河南は先述のように俯瞰してプロジェクトや事務所を見て、歪みに気づいては指摘し助けてくれ、そして私の息子のお世話を沢山助けてくれる、villageの「ライフセーバー」みたいな存在です。
そんなチームで成果をだすために大切にしていることは、その人がいるからできることをする、ということなんですが、それによって結果的に私も助けられています。そして、それぞれの得意なことを生かせるようにするというのは私自身にも言えることで、かつでは「やればできる」精神でなんでも挑んでいたのですが、妊娠以降は自分の体と時間の限界を体感し続けたことで、いい意味で諦めるようになりました。自分が何をできないかが分かってくると、逆に深度と新たなトライが生まれることも分かり、”制限による自由”というと矛盾していますが、そんなことを感じ始めています。

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Villageさんの「このチームだからこそできている事」、チームのメンバーの関係性がとても素敵ですね。現在(2021年7月)はcarewillのブランドサイトローンチに向け様々な準備や企画、制作を進めてくださっている長嶋さん。確かにその様子はブルドーザーのようで、いつも長嶋さんと一緒にやりとりをしてくださる河南さんは俯瞰的にプロジェクト全体をみてくださっています。そんなVillageさんが作るブランドサイトについても、また後日詳しくお話を伺いたいと思います。本日はどうもありがとうございました!

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