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彼の寝息を聞ける日々

彼は先週末、「もったいない、寝てしまうのが。」と言った。
わたしも同じことを考えていた。

3ヶ月越しに、数多くの涙を乗り越えて、友達に背中を押されて、彼に会いに行った。最初は彼の顔をじっくり見られなくて、「モーニング」をした高架下にあるちいさな喫茶店でも彼の手元やテーブルにある備品(特にアルコールが気になった)に目を落としていた。でも、お昼と夕食を考えながら、互いのことを、面と向かって話す楽しさは体いっぱいに感じた。

昼食も、夕食も、彼が作ってくれた。わたしはもっぱら部屋の掃除と洗濯担当で、この日だけで4回、洗濯機をこきつかった。Panasonic出身の洗濯機も、名もない土地出身の掃除機も、急に忙しくなるときはわたしがいるので、彼らはきっとわたしを嫌っているはずだ。

昼食は冷たいうどんをちゅるりと。生卵を添えて。リクエストの醤油ベースの甘辛い感じのつけ麺スタイルだった。たべたらゴロゴロ。シーツを替えたてのベッドは、さらりとふたりを受け入れてくれた。やはり、同じ空間にいるって、触れるって、偉大だ。

夕食の前にお風呂に入ってしまうのが好きなわたしは、先にふたりのお気に入りのYoutuberさんのフィットネスに誘った。しっかりと汗をかいてから、お風呂に入ろうという魂胆。2人が体を動かせるやっとのスペースを確保して、12分がスタート。喋らずには、リアクションをとらずにはいられない可愛さと、「スイマー」という動きになるとみせる美しいバタ足に魅了された。

ふたりでくたくた、びたびたになって、お風呂を済ますと、彼は夕食を作ってくれていた。この日の夕食は誕生日スペシャル。ざっくりとした「丁寧」、「洋食」というテーマで。(丁寧をテーマにしてしまうところがわたしたちらしい)餃子ピザに、ベビーリーフのサラダに、えびとえりんぎのアヒージョに、バケット。美味しい、美味しい、とばくばく食べてしまった。それでもまだ余って日曜日の朝ごはんになったんだから、誕生日スペシャル最高。

この日の晩、彼は思わぬことを口にした。「最近眠れなくて。」
睡眠が大好きで、いつもすぐに眠ってしまう彼から、こんな言葉が出るなんて。東京にいく前日、その前の日、彼との間に気持ちのすれ違いがあって、遅くまで話し合いに付き合わせてしまった。それが原因だろうか。

「お酒を飲むと、体が痛くなるけど、飲まないと眠れないんだ。」
確かにお酒を飲む量も頻度も増えたな、とは感じていた。でも、そんなことが起こっていたなんて。

この日、彼は深夜2時半に目が覚めて、そのまま起きていたという。新幹線の始発の時間に普通にLINEをしていたのだから、ふたりとも異常だ。笑 
夕食を食べてすぐ眠くなって当然。8時半にはベッドの中にいて、電気を落とした。3つ、約束をした。明日、薬を買いに行こうね、と、病院に行こうね、と、お酒を明日冷蔵庫から出そうね、の3つ。彼のとなりに居たかった。

眠いけど、ねむくない。そんな気分で、彼の隣りにいた。そうすると、彼は「もったいないね、眠るのが。ごめんね、せっかく来てくれたのに。」と言ったのだ。

わたしたちの間にある距離がなくなれば、もっと早くに気づけたのに。
わたしたちの間にある距離がなくなれば、何が起こっても手を握って安心できたのに。

しばらくしてやっと、彼の寝息が聞こえた。いびきも聞こえた。
こうしてnoteを書くときも彼の寝息を電話で聞いているけれど、それとは180度違うもの。安心感も、あたたかさも、ベッドを伝う重みも。

はじめて、人をまもりたいと思った。
地震の時はとっさに覆いかぶさってくれる、背の高い彼のことだから、物理的には守ってもらう。でも、彼が苦しいとき、そばにいて、できることならささえたい。

最終日の晩に2人で悲しくて泣いた夜も、
最寄り駅で手を離すさみしさも、
帰りの新幹線に乗り込む虚しさも、
ぜんぶぜんぶ、なくしたい。

何をなくしても、彼をなくしたくない。

だから、わたしは東京に行きたい。
住めばすべてが解決するとはちっとも思わないけれど、
いっしょにいれば
マイナスはもう少し少なく、プラスは倍増していくはずだから。


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