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感度を高め、知覚的に。地域づくりにおける免疫力とは

2020年を通し、第5水曜日のある月だけ、朝7時からお送りしたローカルキャリア研究所オンラインラジオ。台本やテーマは一切なし。ゲストに稲垣文彦さんをお招きし、進行の山田崇さんとともに、その瞬間心に浮かんだことをざっくばらんに語り合いました。

第2回が開催された2020年7月29日は、Go To トラベル事業が全国で開始され、人の往来が戻り始めていた頃。戻りつつある日常を前に考えていたこととは?対談の様子をお届けします。

外と内の交流で、免疫力を高める

山田:今日は私、北海道中頓別町から参加しています。札幌から陸路で6時間かけて移動しましたが、どこまでも大地が広がっていて、素晴らしい景色です。4か月ぶりの出張なんですよ。

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前回2020年4月29日のオンラインラジオから3か月が経ち、少しずつ人の移動が増え始めているように思います。私自身もこうやって、地方への往来をしています。賛否両論ありますが、稲垣さんはどう感じていますか?

稲垣:もやもやしているというのが、現状ですね。私自身も出張が徐々に増え、このまま元に戻っていくだろうという感覚もあったんですけど、やっぱり違う気もして。正直、僕の中で結論は出せていないです。

最近、周りの方たちと「免疫力」について議論しています。人間の体にはそもそも免疫力があり、今までなかった異物を取り込んで、自分の力にしていく。地域づくりにも通ずるところがありますよね。

地域の免疫力を高めるためには、外と内の交わりは不可欠だと思うんです。外部から人が入ることで、変革が起き、新しいものが生まれる。でもコロナ禍で、人の移動が制限される中で、どうやって外と内の交流を促せばいいのだろうか。そんな疑問が湧いています。

山田:私も、もやもやしています。災害のニュースを見て、ほかの地域の仲間を助けにいきたいなと感じても、新型コロナウイルスの影響で、ブレーキがかかってしまう。

それに今、中頓別町にいることに、ちょっとしたうしろめたさを感じているんです。日常に戻りつつあるけれど、医療従事者など苦労している人たちもたくさんいる。私は本当にここに居ていいのだろうかと思ってしまいます。

稲垣:山田さんは今回、中頓別町に講師として招かれたんですよね。僕の想像ですが、あえてオフラインの場を設定したのには、中頓別町の「免疫力を高めたい、変化したい」という想いがあるかもしれないね。

山田:今回の中頓別町訪問は、2020年3月18日のローカルデザイン会議が発端なんです。その日は、地元の高校生が一人暮らしの高齢者が楽しく暮らせるように、家電に通話機能を搭載するアイディアを発表してくれて。その場で面白そうだと声をかけたのがきっかけで、今日の場が生まれました。

一つ、稲垣さんに話したいことがあったのを思い出しました。昨日、神戸市役所の秋田大介さんと中頓別町に着いて、道中に「何話したらいいんだろう」と相談したんですよ。中頓別町の面積は、塩尻市の2倍くらい。でも人口は、塩尻市が16万7,000人に対し、中頓別町が1,600人。地方自治体の職員という意味では同じですけれど、あまりにも状況が違いすぎるんです。たとえば「都会から人を呼ぶ」というテーマでも、塩尻市や神戸市と、中頓別町では打ち出す方向性が違うはずです。ちょっと途方にくれましたね。

でもよくよく考えてみると、一緒に考えればいいんだなあって。塩尻市の政策の中に、「地域課題を自ら解決する人と場の基盤づくり」という項目があります。

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地域の面積や標高だとか、普遍的な不動産はいつの時代も大きく変わらない。不変の土台がある中、時代の流れに合わせて、住んでいる人たちが自ら課題を解決していくんです。塩尻市でも今、新しいテクノロジーの取り入れ方や都会との関係性をどう仕組み化していくべきか、市が中心となって考えています。

そういった内容であれば、一緒に考えることができるなと。40分講演の時間をいただいていますが、逆に2時間くらい町役場の人たちが何を感じているのか聞くのもいいかもしれないと思っています。

稲垣:今その話を聞いて、「エンパワーメント」という言葉が思い浮かびました。

「何か支援する」というワードを見たとき、どうしても何か足りないものを補うみたいな感覚がよぎります。それはもちろん大事。でも、そもそも人間は、能力を持っているんです。ただそれを発揮できる環境がなかったり、認識できていなかったりするだけ。周りが適切にサポートすれば、もともと持っている力を引き出せるはずです。これをエンパワーメントと言います。

災害ボランティアでも同じことがいえます。土砂を掻き出してもらうことも大事だけど、むしろその土地で脈々と築かれた生活や文化を感じながら、外の目線から「こういうところがいいね」と気づかせてもらう。それがまた、新しい力になります。

そういった意味では、先ほど山田さんは「塩尻市に住んでいる人たちが自ら課題を解決してきた」と話していましたが、ちょっとだけ違うと思っていて。江戸時代でも出稼ぎなどがあっただろうし、どの時代でも閉鎖された環境だったわけじゃない。外と内が交錯する中で、内にいる人たちが自分たちの力に変えてきた。そうやって今の塩尻市に繋がっているんだと思います。

だから今回、山田さんは中頓別町をエンパワーメントするし、山田さんもまたエンパワーメントされる。そんな関係性になるんでしょうね。

山田:たしかに、塩尻市でやっていることを話して、それを真似してほしいとは思わないです。でも塩尻市でやってきた経験が、自分の中で話せる何かになっているはず。それを伝えつつ、中頓別町で生きている人たちのリアルな思いを感じたいですね。

稲垣:せっかくの出会いですしね。一期一会のご縁を大切にする姿勢が大事だと思います。

リアルな場でなくても、相手と向き合える

山田:私は昨年、4か月で40回くらい講演しました。でも、今年はこの4か月で120回したんですよ。視聴者数だって、1,200人から4,300人に増えています。

でもオフラインでなければ感じられないものもある。「市役所をハックする!」のイベントで、NOSIGNERの太刀川英輔さんが「weak tie(弱いつながり)」と「strong tie(強いつながり)」について話してくれました。身近な家族や職場の仲間など、お互いの健康状態を確認し合える仲間とは関係性が近いですよね。三密を避けろとは言われていても、「strong tie」を持つ人との関係性は、今までと変わらずに大事にすべきなんです。

我が身を振り返ると、市役所の職員としてこれまで「strong tie」を築いてきた塩尻市の人たちに会えていないなと。申請や手続きはオンライン化して滞りなく進んでいます。でも、コロナ禍を市民がどう感じているかとか、何に困っているかはキャッチできなくなっている。これが今の悩みなんです。

稲垣:それってすごく健全な悩みだと思いますよ。

山田:一方で「week tie」の人とは、オンラインのコミュニケーションで補完できることも多い。逆にオンラインだからこそできることもあると日々気づかされます。

私は、週1回信州大学の1年生90人にオンライン授業をしていますが、ある日授業後に気づきと質問を全員に提出してもらったんです。それで90人分の質問に全て答えて。正直大変でしたが、頑張って向き合いました。すると次の授業の反応が、明らかに違うんですよ。

ある学生からは、Facebookでメッセージが来ました。もともと信州大学は第一志望でもなく、コロナ禍で同級生にも会えていない状態で不安だったけれど、この授業を受けてよかったといわれて。私がその学生に何かを与えられたこと、嬉しかったですね。

オフラインの場で、質問を紙で集めていたら全員に答えるなんてできなかった。オンラインだからできたんです。リアルな関係性でなくても、相手と向き合うことはできるんだなって思いましたね。

どれだけ知覚的になれるか

稲垣:オンラインでもオフラインでも、「知覚的」になることってすごく大事だと思います。たとえば震災のとき、近所のおばあちゃんがぽろっと「隣の家の電気がつかなくなったんだよね」とこぼしたんです。それは、電気が通っていないとか、物理的な問題ではありません。「村の人が減ってさみしい」という気持ちがこもっているんです。

別に市民は「うちの村は困っている」なんて言わないですよ。「隣の家の電気がつかなくなった」と言うんです。それをキャッチできるか。すなわち、その相手に向き合い、どれだけ知覚的になれるかが大事なんです。

僕も学生に授業をする機会がありますが、オンラインになってからすごく反応がいい気がします。集中しているし、すごく的を射た質問をしてくる。山田さんが接した学生も多分、答えを求めているのではないんでしょうね。もやもやした思いを抱えながらも、感度を高めて、自分の中で答えを探している状態なのだと思います。

最初の「免疫力」の話に通じるところがあると思いますが、このカオスの状況で感度を高めることで免疫力が高まる気がします。

山田:もやもやから目を背けずに、感度を高める。すごく大事なことですね。

ある意味コロナ禍は、我々を試しているんだと思います。何を大切にして、何を変えていくべきなのか、ちょっと立ち止まって見つめ直すときだなと思いました。

今日のラジオも、稲垣さんがはじめに「免疫力」というテーマを出してくれて、普段はあまり考えていなかったこと見つめ直す機会ができました。ありがとうございました。

本ラジオはYoutubeで動画が公開されています。
ご興味のある方は以下からぜひご覧ください。


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