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新卒で地域中小企業経営者の右腕というキャリアについて

はじめに

ローカルキャリア白書2019、2020では主に20代後半以降の人材にヒアリングやアンケートなどを実施し、ローカルキャリアとは何かについて明らかにしてきた。ローカルキャリア研究員である田中勲が所属するNPO法人G-netでは2014年から地域中小企業へ新卒入社を希望する人材のコーディネートを実施しており、2021年4月時点で38社112名が新卒入社をした。

地域中小企業と新入社員のマッチングの事例ごとに程度の差はあるものの、どのマッチングも「新卒で地域中小企業経営者の右腕」として活躍することを意図し、ミギウデ 人材が誕生している。本文にて新卒で地域中小企業の経営者の右腕として入社することが地域中小企業と若者にとってどのような意義があるのか言及し、これまでとは違った観点で、独自のローカルキャリアの可能性を見出す。

NPO法人G-netでは、地域中小企業に新卒入社した人材の中でも経営者ビジョンを他の社員より理解し、経営革新や経営の中核を担う人材、もしくは、経営者ビジョンを他の社員より理解し、将来の幹部候補として経営革新や経営の中核を担うことを期待されている人材を、「ミギウデ」と呼称し、本文ではカタカナの「ミギウデ 」と定義する。

ミギウデたちは以下のように表現ができる。

新卒や20代で地域中小企業の経営者の右腕として経営革新に取り組むことをやりがいとし嬉々として働く人材。
自らが何かを創り出そうとするアントレプレナーシップと経営者を自律的に支援しようとするフォロワーシップの両方を併せ持つ。
フルタイムで1社に限定して働くだけでなく、兼業をしたり、所属企業をベースとしてフリーランスで働いたり、有期雇用(ジョブ型雇用)にてプロジェクトベースで働いたりしながら、どこかの企業に依存するのではなく自らが積極的にキャリア自律へ向けて行動を起こそうとする。

イチ地方の実態としての岐阜県の概況

地域中小企業と若者にとって「ミギウデ」がどういった意義があるのかを言及する前に、地方の実態の一つの例として岐阜県の概況を見ておきたい。

岐阜県人口ビジョン(平成29年7月改訂版)では次のように記載がある。

県外への移動は2005 年以降、県外への転出超過が続いている。その理由として、10~19 歳では学業上の理由、20~39 歳では職業上の理由及び結婚等による移動が挙げられている。また、その移動先は、37%を東海地方の経済の中心である愛知県が占め、東京への移動は全体の 7%程度にとどまっている。一方、住宅事情を理由とした社会動態は転入超過となっており、その 79%が愛知県からの転入となっている。また、県内の大学の入学者数を見ると、県外からの入学が 62%を占め、県内からの入学を上回っている。

「清流の国ぎふ」創生総合戦略(2019〜2023年度)には次のような記載がある。

本県の総人口は、今後 10 年間、毎年 1 万 6 千人程度減少していくことが見込まれる。特に、地域や経済の担い手である、いわゆる生産年齢人口(15 歳~64 歳)の減少が顕著であることから、最重要課題は、担い手の確保である。本県の有効求人倍率は、リーマンショック後に一旦減少して以降、概ね右肩上がりで推移し、全国平均を大きく上回る状態が続いている。しかし、多くの中小企業で人手不足が慢性化している現状から、人口減少が進行すると、担い手の確保は一層厳しい状況となっていくことが見込まれる。一方で、本県から毎年 3 千人程度が他県へと流出している。その最大の要素は「職業上の理由」による若者の県外流出にある。

つまり全国平均より有効求人倍率が高い、求職者よりも相対的に仕事が多くある状態にも関わらず、その担い手となる若者は「職業上の理由」によって県外流出しており、大学生も愛知県を筆頭に県外流出している状況で、多くの中小企業においては人手不足の状況となっている。

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地域中小企業にとってのミギウデの存在意義

どの地域中小企業においても人手不足は共通な課題であり、生産労働人口は日本全体でも減少が続いている。外国人労働者の流入は一助となり得るので一定程度の期待をしたいとは思うが、本質的な課題解決にはならないと考えられる。 人手不足は課題ではあるが、人手不足になる“人手”がたくさん必要な収益構造にあることが真に課題があると捉えている。“人手”依存率を下げることのできる高付加価値商品開発やITやテクノロジーを活用した省労働力化、または収益改善の見込める自社商品開発や販路拡大(toC展開など)が必要と考えられる。

経営者にそのような領域に対するアプローチが思考の中にないわけではないが、中小企業において人手不足の状況において、既存社員は既存事業以上に取り組める余裕も意欲もなく、経営者自身が動ける範囲も限られている。そのために、経営改善に長期的に取り組める「ミギウデ」の存在が必要である。

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若者にとって最初のキャリアを地域中小企業でミギウデとして働くことの意義

「キャリア自律」とは、独立行政法人 労働政策研究・研修機構 藤本真氏(主任研究員)によって次のように記されている。

「めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む、(個人の)生涯に渡るコミットメント」と定義され、企業の観点からは「従来組織の視点で提供されていた、人事の仕組み、教育の仕組みを、個人の視点から見たキャリアデザイン・キャリア構築の仕組みに転換するもの」として捉えられる。

 そして21世紀のキャリア論 (高橋 俊介 著)にも次のように記されている。

21世紀のキャリア環境は、20世紀のそれとは大きく異なる。想定外変化によって予期せぬキャリアチェンジが生じ、一方で専門性の細分化深化という、2つが同時進行するからである。20世紀のキャリアデザインには有効であったOJTは弱体化し、一方でMBAによる学び直しも掛け声倒れの状況にある。このような新しいキャリア環境においては、企業・社会・教育機関、さらに個人は、自分で自分のキャリアを切り開く「キャリア自律」の考え方をベースにスキルを磨かなければならない。 そこで求められるのは、専門性と普遍性を自分らしく組み合わせてキャリアを切り開いていくことであり、可能性を「絞るキャリア教育」ではなく、「広げるキャリア教育」へと再構築することが求められている。

キャリア自律の観点からも、新入社員として、会社の組織の一員として最適化された研修を半年から1年受け、全体ではなく一部の業務に専属的に携わるキャリア形成は、変化の早いこれからの時代に即していないと考えられる。そうした時に、ファーストキャリアとして、経営者のミギウデ として、変化も早く、不確実性も多い社会の中で、専門性と普遍性が組み合わさった多岐にわたる業務やプロジェクト(新商品・新規事業開発、既存事業の販路拡大戦略、広報戦略、採用含む組織開発など)に携わることは、キャリア自律の観点から、相応しい可能性が高いと言える。

これらのことから、事業面・組織面の変革パートナーとして今後の地域中小企業にとっても、社会変化に応じたキャリア自律の観点から若者にとっても、「ミギウデ」が必要不可欠な時代が到来している。

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中小企業にとっても必要であり、若者にとっても適していると言える「ミギウデ」というローカルキャリアがあることをこれからも示していきたい。現在はまだ112名しか数えらえる範囲にはいない。しかしながら、今後ローカルキャリアが注目されていく中で「ミギウデ」というキャリアも存在を認められ、ファーストキャリアから地域の中小企業へ飛び込む若者が増えていくことで地域中小企業たちの経営革新が促進されることで地域経済にも好影響を及ぼし、1つの良いキャリアモデルとしての「ミギウデ」がたくさん輩出され、それが若者にとってもこれからの時代を生き残っていくためのキャリア自律へ繋がっていく。そんなことが起きて行くことに期待をし、引き続きそういった社会の実現のため、地域パートナー、CAREER FORメンバーと出来ることを実行していきたい。

ミギウデが取り上げられた記事はこちら。
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