[8分短編小説]CIRCUS[完]-享楽と演劇と開演と貴方となら道化師でもいい-
CIRCUS-享楽と演劇と開演と貴方となら道化師でもいい-
2025年──芸術国家、アルス、首都、郊外、オドルの、公園で、10歳の、癖毛の、少年、アウルムと、同じく、10歳の、ナチュラルウェーブの髪の、少女、アルガーリータが遊ぶ。アウルムは、アルガーリータの、隣で、ブランコに乗る。アルガーリータが、前後に揺れる、アウルムに、疑問を呈する。
「何で、サーカスの、トップスターに、なりたいの?」
アウルムが、返事する。
「俺たちには、国が無い。自分で、生きていきたい。トップスターになれば、お金だけではなく、地位も、名声も、手に入る。俺たちは、自分で、生きていていける様になる。」
アウルムが、質問する。
「君の夢は?アルガーリータ」
アルガーリータが「内緒だよ」とはぐらかすが、アウルムが、問い続け、ついに、回答する。
「アウルムのお嫁さん、だよ。」
アウルムが、頬を、赤くする。
2040年──アルス、首都、コンプタで、世界最大の、サーカス団、circus社が、公演し、アナウンスが流れる。
「トップスターの、アウルムと、アルガーリータの、登場です。」
同時刻──公正取引委員会の、40代半ばの、ナチュラルストレートの、女性の、カジノ・賭博分野審議官、ウェヌスタと、カールした、癖毛を、眉の上で、切り揃えている、30代半ばの、女性の、カジノ・賭博分野審議官、ヴァニタスは、学問都市、ドクトゥスを訪れる。ウェヌスタが話し出す。
「先日、亡くなった、レベリオー教授の、弟子たちが、話が、あるらしい。」
2025年──アウルムと、アルガーリータは、アルス、公演中の、世界最大の、サーカス団、circus社、テントを、訪れる。歩き回る、少年と、少女を、不審に思った、パフォーマーが声をかける。
「どうした?僕ちゃん、お嬢ちゃん。」
アウルムが、言葉を発する。
「団員に、なりたい。」
パフォーマーが戸惑い、返答する。
「家族の、同意が、必要だよ。」
アルガーリータが、返す。
「私たちは、施設育ち。家族は、いない。」
パフォーマーが、暫く沈黙して、回答する。
「少し待って居て。」
ウェトゥスタース団長が来て、2人に、問う。
「覚悟は、あるか?」
アウルムと、アルガーリータは、頷く。
1ヶ月後、練習生となった、2人に、ウェトゥスタースが、説明する。
「circus社は、ドラマ、アクロバット、アート、ダンスを組み合わせた、サーカス団だ。本社、営業(現場)、営業(開催地先発隊)、パフォーマー、音響、照明、アルバイト(接客)の、職種が有る。パフォーマーも、ショーの練習だけでなく、接客・掃除も、担当する。テント設置・解体も、皆で、行う。」
3年後、circus社の、公演中に、嵐が、来る。雨風の強まる中、公演を止めるわけにはいかない。各人交代で、テントの、警備をする。まだ、13歳の、アウルムは、1人で、テント前に、立つ。雨が、頬を、打ちつける。強風が、アウルムの、体を、吹き飛ばしそうになる。アウルムは、仁王立ちで、直立し続ける。どんな天候にも、負けない。アウルムの、強い、決意が見えた。強風の中、アルガーリータが、ホットミルクを持って来て、アウルムの、顔色を、伺う。
「寒くない?」
アウルムが「大丈夫だ」と、回答する。
「君の、担当時間も、俺が立つ。俺に、任せろ」
アルガーリータが質問する。
「何故、そんなに、頑張るの?」
「君は、俺の、たった1人の、恋人だ。それに、俺は決めた。circus社の、トップスターになると。だから、どんな強い、風が来ようが、嵐が来ようが、俺は、負けない。俺の、魂の火は、こんな雨嵐に、消されはしない。君は、テントの中で、嵐が過ぎるのを、ゆっくり待てば良い。俺に、任せろ。」
アルガーリータは「頑張って」と言うと、アウルムの、頬に、キスをする。
2040年──50代の、短髪ダンディー、な男性の、審議官パッシオ、80代の、男性の、審議官、クレーメンス、20代の、熱血漢の、男性の、審議官、ウィースは、アルス、首都、コンプタの、ガラス張りカジノ、glass casino®︎を、訪問する。このカジノでは、ロイヤルフラッシュが、立て続けに出るなど、最近、妙な運が、続出しているという噂が、出ていた。いずれも、世界最大の、サーカス団、circus社、元団長という、異色の、経歴の、カジノマネージャー、ウェトゥスタースが、携わったゲームだ。この、強運の、理由を、探る必要がある。潜入捜査だった。glass casino®︎に入ると、一層、賑やかな台に、ウェトゥスタースがいた。ウェトゥスタースが、カードを携え、クレーメンスに、誘いかける。
「お客様、トラント・エ・カラントは、如何ですか?」
クレーメンスが、回答する。
「アルス発祥の、カードか。貴方が、名物ディーラー、ウェトゥスタースか。貴方を、探していた。」
「左様にも、私が、ウェトゥスタースです」とウェトゥスタースが答え、トラント・エ・カラントを、説明する。
「トランプ52枚×6セットを使います。」
「数字カード(A、2、3、4、5、6、7、8、9、10)は数字通り数え、絵柄(J、Q、K)は10とカウントします。」
「最終的に31を超えるポイントまでカードがノワール、ルージュエリアに分け配られ31ポイントに近いエリアが勝ちとなります。」
「同数だった場合は引き分けです。」
「各プレイヤーの行動は(i)から(iv)まで4種類あります。」
「(i)ノワール。ノワール(黒)エリアが勝つ方に賭ける。」
「(ii)ルージュ。ルージュ(赤)エリアが勝つ方に賭ける。」
「(iii)クルール。最初に配られたカードと、同色カードが勝つ方に賭ける。」
「(iv)インバース。最初に配られたカードと、反対色カードが勝つ方に賭ける。」
「このゲームの、醍醐味を、シンプルに言ってしまえば、ノワール(黒)か、ルージュ(赤)どちらの合計が、31に近いかを、予想して、どちらかに、賭ければ良いだけです。運が、ゲームの醍醐味です。黒か赤か、どちらが勝つか、これは、完全なる運です。しかし、既出カードからカウンティングする事で、勝利する確率を、高める事も出来る。テクニックが、ゲームに、華を添えます。」
第1ゲームが、始まる。
パッシオが、宣言する。
「俺がやろう。50,000モネータ、ルージュ。」
ウェトゥスタースが、パッシオを、チラッと見て、微笑む。
《幸運》
ウェトゥスタースが、配る。
❤︎Q、♦︎J、♠︎K、❤︎2。ノワール32ポイント(最強札の31ポイントまで1ポイント差)。
♣︎5、❤︎8、❤︎J、♦︎8。ルージュ31ポイント(最強札)。ルージュの勝ち。
「配当2倍。100,000モネータリターン。」
パッシオが、考える。引き分けは、ほぼ無い。黒、赤、どちらかが、勝つ。勝率は、50%。順当な結果だと、言える。だが、幸運が、2度も続くとは、考えづらい。ゲームを降りる、潮時だな。ビギナーズラックは、此処までだ。
第2ゲームが、始まる。
ウィースが、名乗り出る。
「俺が賭ける。30,000モネータ、ノワール。」
ウェトゥスタースが、配る。
♠︎5、♣︎6、♦︎Q、♣︎J。ノワール31ポイント(最強札)。
♦︎K、♦︎A、❤︎Q、♠︎10。ルージュ31ポイント(最強札)。引き分け。
珍しいな...ウィースが、考える。
第3ゲームが始まる。
ウィースが、強気で、告げる。
「20,000モネータ、インバース。」
ウェトゥスタースが、配る。
♣︎3、♦︎8、❤︎Q、♠︎Q。ノワール31ポイント(最強札)。
❤︎J、♣︎K、♣︎4、♣︎7。ルージュ31ポイント(最強札)。引き分け。
ウィースが、動揺し、考える。引き分け確率は、10%も無い。2連続は10%×10%=1%。偶然にしては、あまりに、出来すぎている。何か、種が、あるのだろうか?
第4ゲームが、始まる。
ウィースが、やや焦って、回答する。
「20,000モネータ、ルージュ。」
ウェトゥスタースが、配る。
♠︎9、♠︎K、♣︎2、♦︎J。ノワール31ポイント(最強札)。
♣︎6、♣︎J、♠︎5、♠︎Q。ルージュ31ポイント(最強札)。引き分け。
ウィースが、考える。3回連続引き分け確率は、10%×10%×10%=0.1%。流石に、何か、おかしい。だが、種が分からない。どういう、テクニックなのだろうか?クレーメンスが、考える。使用しているカードは、52枚×6セット=312枚だ。ディーラーが、312枚、全ての、カードを、カウンティングするのは、難しい...何故、こんな芸当が、出来る?
第5ゲーム。
クレーメンスが、声を出す。
「わしが賭けよう。80,000モネータ、クルール。」
ウェトゥスタースが、クレーメンスを、一瞥する。
《不運》
ウェトゥスタースが、配る。
♠︎Q、❤︎J、♦︎2、❤︎J。ノワール32ポイント(最強札の31ポイントまで1ポイント差)。
♣︎2、♠︎Q、♦︎9、♣︎K。ルージュ31ポイント(最強札)。ルージュの勝ち。
「残念だ。」
クレーメンスが「どうも」と、言葉を添え、3人は、テーブルを、去る。glass casino®︎バーで、クレーメンスは、対象を見付けた。ドラコー、エレパース、ワスティタース、パンテーラ高官が、静かに飲んでいた。クレーメンスが、話しかける。
「負けてしまった。」
エレパース高官が、返事をする。
「それは残念だ。我々は、仕事の話をしよう。」
新産業分野の、協議をする。クレーメンスが、説明する。
「此方が、許可を得てきたのは、市場が、拡大し続けている、睡眠業界の自動照明sleep light®︎、仮眠アプリspot sleep®︎の技術特許の一部開示だ。」
多神文明の国、エレパース高官が、返事する。
「ロボットは、ITと組み合わせて、我が国の、基幹産業の、1つになりつつある。生活業界の配膳ロボットmeal machine®︎、分身ロボットcopy machine®︎の資本提携をしても良い。」
漢文明の、東の、超大国、ドラコー高官が、回答する。
「我が国は、14億人から、精神状況のデータを、取っている。心理分析業界のラーニングアナリティクスlearn®︎、幸福度計測happy®︎の技術を一部公開しても良い。」
砂漠の国、ワスティタース高官が、質問する。
「核融合業界は?」
クレーメンスが、回答する。
「ソルとドラコー、エレパース、ワスティタース、パンテーラは、2030年代から、各国政府50%・ソル企業50%利益シェアの、共栄資本主義で来た。他の、業界同様、共栄資本主義で、協業しよう。」
パッシオ、クレーメンス、ウィースが、感謝を告げ、席を立つ。クレーメンスが、2人に、告げる。
「1人で、少し、用がある。」
トラント・エ・カラントのテーブルに、戻って来た、クレーメンスに、ウェトゥスタースが問いかける。
「再び、賭けますか?」
クレーメンスが、宣言する。
「イカサマだ。何かが、おかしい」
ウェトゥスタースが「ほぅ」と首を傾げ、答える。
「何の決めつけでしょうか?カジノ・賭博分野審議官の、名が、廃りますよ。」
クレーメンスが、返答する。
「場所を、変えよう。」
2人は、glass casino®︎入口から、カジノ前の、夜道に、出る。
ウェトゥスタースが、返す。もう、店内の、敬語調の、言葉遣いでは、なくなっていた。
「気付いたか?運の、アンバランスさに。そして、私の正体にも。私は、『絵柄』の組織、♣︎8、"運管理人"ウェトゥスタース。」
クレーメンスは「やはり、『絵柄』の組織の、関係者だったか。見当通りだ。」と声に出すと、スマート弾拳銃、smart handgun®︎を構える。ウェトゥスタースも、smart handgun®︎を構える。クレーメンスが、撃つ。
《幸運》
クレーメンスが、放った、スマート弾が、ウェトゥスタースの、左肩に、逸れる。クレーメンスが、連射する。自動運転トラック、smart truck®︎が、横断し、全弾、smart truck®︎に当たる。ウェトゥスタースは、無傷だ。ウェトゥスタースの、運を、操作する能力は、ナノマシンによるものだ。この時代、一部の、人間は、ナノマシンを、注射することで、固有の、特殊能力を発揮出来る。ナノマシンとは、0.1-100nmの極小の、機械装置、の事だ。クレーメンスが唸る。
「ナノマシンか...!!」
《不運》
ウェトゥスタースが、地面に向け、撃つ。跳弾が、横に飛び出した、クレーメンスの、右肩を、掠める。glass casino®︎の、看板にあたり、看板が、クレーメンスの、頭上に、ずり落ちて来る。クレーメンスが、前方へ、飛び込む。クレーメンスの、右肩に、看板が当たり、クレーメンスは、地面を転がる。ウェトゥスタースが「分かったかね」と前置きし、宣告する。
「イカサマでは無い。私は、運を、操れるんだよ。君の、不運は、1人で、私に勝てると思って、単騎で、突っ込んできた事だ。さようなら、カジノ・賭博分野審議官クレーメンス」
ウェトゥスタースが、smart handgun®︎を、クレーメンスに向ける。クレーメンスの、元に、パッシオ、ウィースが駆け付ける。ウェトゥスタースが「幸運な男よ」と呟く。
《超幸運》
遥か、遠くから、1台の、smart helicopter®︎が、ウェトゥスタースの、元に、降り立つ。ウェトゥスタースが、smart helicopter®︎に、退避する。
搭乗していたのは、『絵柄』の組織の、最高幹部、カードジョーカー♠︎、❤︎、♦︎、♣︎たちだった。
メンバーは、クレーメンスの、1番弟子だった、直毛アップバングの、ソル人の、男性の、カードジョーカー♠︎フォルティトゥドーと、空席を埋めた、北の、超大国、グラキエース人の、男性の、新カードジョーカー♦︎クブルム。
そして、後の、2人は、ウェトゥスタースが、率いていた、サーカス団、circus社の、トップスター、癖毛の、男性の、新カードジョーカー♣︎アウルムと、ナチュラルウェーブの髪の、女性の、新カードジョーカー❤︎アルガーリータだった。新カードジョーカー♣︎アウルムが、口を開く。
「助けに来た。ウェトゥスタース元団長。」
◇
その頃──島国ソルの、首都空港、ウェントゥスに、1人の、女が、到着し、部下が、報告する。
「レベリオー教授の、弟子たちと、カジノ・賭博分野審議官たちが、接触。我々は、教授の、9つ目の、パスワードファイルを、未入手です。」
女が、問いただす。
「執行官テネルは?」
部下が、返す。
「フォンス郊外の、病院で、治療中です。」
女が、フォンス郊外の、病院を、訪れ、呟く。
「酷い、やられようね。」
執行官テネルが、言葉を、発する。
「長官。」
西の、超大国、ベルルム諜報局の、長官マグニフィクスが、返答する。
「私が、引き継ぐ。」
ドクトゥスで、ウェヌスタと、ヴァニタスは、レベリオー教授の、弟子たちから、説明を受ける。8番弟子、オクトー博士が、話し出す。
「来校は、僕だけで、他は、オンライン参加です。教授の、9つ目の、パスワードファイルが、見つかりました。渡された技術は、超小型核融合炉nuclear energy®︎です。」
6番弟子セクス助教授が、ログアウトする。8番弟子オクトーが、続ける。
「伝統的方式、トカマク式核融合発電技術で、発生した、ドーナツ型磁場中に、超高温・高圧プラズマを、閉じ込め、核融合を起こします。燃料は、重水素(D)と、三重水素(T)、点火温度は、摂氏1億~数億度です。一方で、ファイル流出痕跡があります。この技術が、流出したら、超小型の、新型水素爆弾が作られる可能性があり、大変危険な、状況です。」
7番弟子、セプテム助教授と、4番弟子、クァットゥオル准教授が、ログアウトする。ウェヌスタは、審議院仮庁舎のホワイトハッカーの、17歳の、少年、ウィンクルムに、連絡する。
「送付したパスワードファイルの、ハッキング履歴確認を、宜しく。」
ウィンクルムが、暫く間をおいて、返事する。
「グラキエースから、ハッキングされています。」
1番弟子、ウーヌム教授と、5番弟子、クィーンクェ准教授、2番弟子、ドゥオ教授が、ログアウトする。ウェヌスタが、質問する。
「他の方々が、次々に、ログアウトして居るのは何故?」
審議院仮庁舎から、ウェヌスタに、通信が入る。
「ベルルム諜報局、長官、マグニフィクスより、教授の弟子たちを拉致した。返して欲しければ、ペクーニアエ・コンメリクムの、王立競技場アレーナで、レベリオー教授の、9つ目のパスワードファイルを渡せと、通達です。」
ヴァニタスが、唸る。
「ベルルムの、諜報機関のやり方だわ...!!」
2人は、王立競技場アレーナへ、向かう。
アルスの、誰も居ない、circus社テントで、アウルムが、空中ブランコショーの、練習をする。空を飛び、ロープに捕まり、方向転換する。命懸けの、ショーだ。落ちれば、大怪我は、免れない。集中力を、保ったまま、アウルムが、次々と、大技を、決めていく。見守る、アルガーリータが「どうか彼に神の加護を」と、息を呑み、祈る。
公演プログラムは(i)から(x)まで、10章ある。
(i)ロープショー。(ii)ハンドスタンディングアクト。(iii)ローラースケーティング。(iv)猛獣ショー。(v)オートバイショー。(vi)ダブル空中ブランコショー。(vii)空中大車輪。(viii)空中アクロバットショー。(ix)空中リングショー。(x)演劇。
アウルムが、全ての、大技を、無事成功させる。アルガーリータが、呟く。
「上手くなったね。」
2030年──15歳の、少年、アウルムと、15歳の、少女、アルガーリータは、合同演習して居た。アルガーリータは、早くから、才能を見出され、トップスターたちと、共に、練習する事が、許されていた。
一方で、アウルムは、プログラム水準に、達しない。このままでは、お客さんに、見せられる、ショーとしての、クオリティを、保てない。ウェトゥスタース団長は「アルガーリータを、見ろ。彼女の、完成された、演技を。お前は、そんなものか」とアウルムに、檄を、飛ばす。
先輩パフォーマーは、アウルムを「才能がない」と冷笑したが、アルガーリータは、アウルムの、才能と、努力を、信じていた。この5年間、ずっと、アウルムと、共に、練習してきたのだ。雨の日も、雪の日も、炎天下の日も。
アルガーリータは、2人の動き・タイミングを合わせる為に、テントの、アウルムの、部屋を訪れ、話しかける。アルガーリータの、提案は、意外なものだった。
「私の部屋で、一緒に暮らそう。」
アウルムは、驚き、戸惑う。
「え?今何て言った?」
アルガーリータが、冷静に、回答する。
「貴方と、演技を合わせる為に、貴方の、間と、呼吸を掴みたい。それに私たちは、幼馴染。私は、貴方の事を、もっと知りたい。嫌なの?」
アウルムは、照れながらも「嫌とかじゃないよ」と告げる。2人は、共同生活を始める。
春、2人は、体を、作り直す。体作りの、基本は、食事だ。2人は、食生活を、見直した。2人は、一緒に、朝食を、作る。アルガーリータが、robot speaker®︎で、音楽を流す。筋肉トレーニングは、闇雲にすれば良いというものではない。明確な、目的と、方法を、必要とする。2人は、体幹・インナーマッスル強化の、ウェイトトレーニングをする。アウルムの、体は、目に見えて、筋肉質になっていった。アルガーリータの、体も、引き締まっていく。夕方の、スクワットと腹筋、スタビライゼーションを終え、アルガーリータが「疲れた」と、答え、2人は、夕食にする。
夏、2人は、アルス南部リゾート地、リートゥスの、海に行く。白い、砂浜に、2人は、出来たばかりの、足跡を付ける。海辺で、アルガーリータが、アウルムに、水をかけ「ほら、お兄さん。元気出して」と揶揄う。アウルムは、アルガーリータに、水を、かけ返す。2人で、砂浜に、寝転がり、サングラスをかけ、ココナッツジュースを飲み、空を、見上げる。アルガーリータが「貴方と来る、初めての海だ」と声を出す。アウルムは「白い砂浜に、冷たいジュース、押し寄せる波、最高だ」と返す。
秋、2人は、筋持久力を、高める。2人で、一緒に、公演地の、テント周辺の、街を、ランニングし、屋内プールで、水泳をする。覚えたての、水泳が、たどたどしいアウルムとは、対照的に、アルガーリータは、スイスイと、泳いでいく。やはり、アルガーリータは、筋肉の使い方が上手い。アウルムは「君に負けてたまるか」と言うと、泳ぐ速度を、早める。アルガーリータが「呼吸を、大切にして。がむしゃらに、泳ぐのではなく、全身を、水と、一体化させる、イメージよ」とアドバイスをする。泳ぎ終わった2人は、アルスの、秋季恒例の、収穫祭の、準備をする。ウーウァという、葡萄に似た、植物を、畑から、収穫する。夕日が、ウーウァ畑を、照らす。アウルムが「内緒で、2人で、ワインを飲もう」と言いアルガーリータが「良いね」と頷き、微笑む。
冬、2人は、空中ブランコ捻り技の、練習をする。「間と、呼吸を、合わせて。私の、タイミングと、貴方の、タイミングを、合わせて」とアルガーリータがアウルムに、告げる。アルガーリータが、手を、滑らせ、空中ブランコから、落下しそうになる。アウルムが、左手で、空中ブランコを、掴み、右手で、アルガーリータの、左手を、掴み、助ける。アウルムが「俺を信じろ。この手を、絶対離さない」と宣言して、アルガーリータを、引き上げる。アルガーリータは、空中ブランコを、掴み、事なきを得る。練習の、帰り道、2人は、手を繋いで、テントに、戻り、晩酌をして、お互いの、ベットに入る。暗闇の中、アルガーリータが、アウルムに、囁く。
「私たち、一緒に暮らし始めて、1年が経つわ。貴方のこと、もっと知れた気がする。アウルム、私、貴方が好き。優しくて、強くなった、貴方を、愛してる。私の、ベットに、来て良いよ。」
アウルムは、アルガーリータを、抱きしめる。
2040年──ウェヌスタと、ヴァニタスは、ペクーニアエ・コンメリクムの、王立競技場アレーナに、到着する。トラックの、中央に、1人の、女が、立って居た。ヴァニタスが、声を出す。
「マグニフィクス執行官。」
マグニフィクスが、口を開く。
「もう長官よ。久しぶりね。元執行官ヴァニタス。」
ヴァニタスが、問いかける。
「教授の弟子たちを、拉致したわね?」
マグニフィクスが、返答する。
「流石。良く分かって居る。ベルルムは、レベリオー教授の、極小核融合炉技術で、新型の超小型水素爆弾が作られ、核の拡散が、起こるのを、危惧した。我々の手で、9つ目のパスワードファイルを、消去したいのよ。教授の、弟子たちは、その人質。」
ヴァニタスが、提案する。
「これが、9つ目のパスワードファイルのUSBメモリースティックよ。これを、渡すから、レベリオー教授の、弟子たちを解放して。」
マグニフィクスが頷き「うーん」と口に、手を当て、答える。
「貴方の回答は、50点ね。私を、倒せたら、が抜けているわ。私に、勝てたら、レベリオー教授の弟子たちを、解放してあげるわ。」
《霧》
マグニフィクスが、昇華し、霧状になる。マグニフィクスも、ナノマシン注射を、受けている。ナノマシンパワーは、霧。自らの、肉体を、昇華して、気体化する事だ。煙の様になった、マグニフィクスに、通常の、銃弾や、スマート弾は、通用しない。ヴァニタスが「やっぱりね」と舌打ちし、回答する。
「ウェヌスタ、彼女に銃は、分が悪い。私に、任せて。」
ウェヌスタが、頷き、退避する。
《透過》
ヴァニタスも、ナノマシン注射を、受けている。ヴァニタスの、固有の特殊能力は、透過。透明になる事だ。ヴァニタスが、姿を消す。
審議院仮庁舎から、通信が入る。
「レベリオー教授弟子たちは、拉致されて居た模様。全員、救出しました。」
ヴァニタスが、消火器を、トラックに、円形に、並べる。
《霧銃》
空気弾が、ヴァニタスの、頭部を、掠める。ヴァニタスが、空気弾方向の、消火器をsmart handgun®︎で、撃つ。消火器が、連鎖爆発する。ヴァニタスが、宣言する。
「粉末消火器の主成分は、リン酸アンモニウム(ABC)、炭酸水素ナトリウム(Na)、炭酸水素カリウム(K)。気体化していようとも、吸引すれば、有害よ。」
マグニフィクスが、ゴホゴホと、咳をし、堪らず、気体化を、解除し、姿を現す。
《音透過》
ヴァニタスが、足音を消し、マグニフィクスの、背後から、背中を、撃つ。マグニフィクスが、苦渋の表情で、言葉を発する。
「この交戦力の高さ。相変わらずね。分かったわ。手を、引くわ。」
ヴァニタスが、頷く。
アルスの、circus社テントで、新カードの女王、プルイーナが、出迎え、口を開く。
「カードジョーカー♠︎フォルティトゥドー。新カードジョーカー❤︎アルガーリータ、♦︎クブルム、♣︎アウルム。♣︎8ウェトゥスタース。『絵柄』ナンバー外。良く集まってくれた。」
新カードジョーカー♦︎クブルムが、説明する。
「10章の、演劇プログラム『天使と悪魔の聖戦』演目で、市街地へ、侵攻する。己の、体には、超小型水素爆弾little nuclear bomb®︎が、入っている。島国ソルの、レベリオーという教授が、開発した、極小核融合炉技術をハッキングし、グラキエースが開発した、新型体内埋め込み水素爆弾だ。俺が、万が一、死に、俺の、生体反応が、無くなれば、起動する。」
サーカス団員が「演劇じゃ無いのか?」と驚き、声をあげる。
クブルムが、宣言する。
「違う。演劇ではない。次の、公演地は、東の、島国ソルだ。」
◇
2035年──アルスで、20歳の、青年、アウルムと、20歳の、少女、アルガーリータは、circus社の、テントから、脱走する。度重なる練習と、公演で、2人の、ストレスは、限界を超えていた。2人だけの、逃避行だ。アウルムが、問う。
「何処まで、逃げる?」
アルガーリータが、返す。
「貴方となら、何処までも。」
2人は高速鉄道、land speed®︎で、酒造都市、スピーリトゥスに行き、葡萄に似た、果実の、ウーウァという、植物の農園を歩く。老婦人が、彷徨い、疲れ果てた、2人を、助ける。農家アグリコラが、2人に、提案する。
「此処に、居れば良い。農園を、手伝ってくれないか?」
2人は、ウーウァ農園見習いになる。
3月、今期が、幕開けし、ウーウァ木の、剪定をする。アグリコラが、解説する。
「ワイン造りは、ウーウァが8割だ。唯一の、原材料品質・味がワインに、結び付く。」
蔓性、何処までも、伸びる、樹勢を、管理し、高糖度の、ウーウァを、実らせる為に、重要な、剪定、をアウルムが、手伝う。老婦人クーラが、話しかける。
「来年は、この芽から育つか、予測しながら作業するのよ。」
アルガーリータは、ワイヤに、絡む、蔓を、剥がすのに、苦労し、楽しそうな声を出す。アルガーリータにとっては、アウルムと、2人で過ごせる、貴重な時間だ。何をしていても、楽しくてしょうがない。
「取れないね。」
アウルムが「俺が取ってやる」と返事し、蔓を取ってあげる。
6月、三寒四温を経て、最高気温は、安定し、新芽を摘む、芽かきをする。1度摘むと、2度と出ず、遅霜で、芽がやられるリスクも有り、慎重に摘む。老婦人クーラが、指導する。
「数年先を見越し、良い芽を、ちゃんと残すのよ。」
アルガーリータは、新芽摘みに、心痛め、呟く。
「ごめんね。」
アウルムが、微笑み、口を開く。
「優しいな。君の、優しいところが、好きだ。あと、モデルの様な、その美貌も。」
アルガーリータが「急に、何言っているの」と返答し、笑い、照れながら、アウルムを押す。アウルムは、アルガーリータの、手を取り、抱き寄せる。2人は、抱きしめ合いながら、笑い合っていた。
7月、ウーウァは、雨に弱く、雨・水滴由来の病原菌で、病弱になる。アグリコラが、言葉を発する。
「ベト病、灰カビ病、晩腐病は、不治で、木全体を侵す。対抗策は、予防だ。」
土地の生態、気候・地理・土壌のテロワールを意識し、減農薬を使用し、雨除け使用で、散布薬剤量を減らす。アグリコラが、続ける。
「害虫も、大きな脅威だ。」
アグリコラが、雨対策農薬散布を、自動走行農業車agriculture car®︎で、散布する。4人は、雨除けを、房を覆う様に、設置し、樹冠管理で、葉・幹の異変を、確認する。アルガーリータが、虫を、嫌がる。アウルムが「男の出番だ」と言い、進んで作業をする。アルガーリータが「頑張れ。お兄さん」と応援し、アウルムに、手を振る。アウルムは、親指を立て、グッドサインを出し、アルガーリータに答える。クーラが「熱々ねえ。若いって、良いわね」と2人を、微笑ましく、見つめる。
8月、雨と、30℃超えの暑さが続く。
枝を、ワイヤ内に入れ、上へ伸ばす誘引、副梢整理を皆でする。クーラが、指示する。
「アルス産の、ウーウァは、皮が薄く、粒が詰まっていて、病気になり易く、粒も割れ易いわ。丁重に、扱うのよ。」
9月、残暑が、厳しい。アウルムがagriculture car®︎で、草を刈る。ワイン造りに良いとされる礫質土は、草も、沢山生え、慣れてきたアウルムは、ウーウァ木すれすれまで走る。アルガーリータは、アウルムの為に、蜂蜜レモネードを作ってあげる。「どう?お味は?」とアルガーリータが、アウルムに、尋ねる。「君の優しさの味がする」とアウルムは、笑顔で、返答する。
10月、定期的な、果汁分析で、糖度・酸度を、測定し、成熟度を、チェックする。収穫後、直ぐ始まる、仕込みに向け、収穫予想量に合わせ、タンク・樽使用の割り振り、醸造機器の整備・洗浄を、アウルムと、アルガーリータが手伝う。瓶詰め直前の、ワインを、アウルムとアルガーリータは、テイスティングする。アルガーリータが、笑い、口を開く。
「澄んだ色で、芳醇な香り。」
1年が過ぎ、2人は、アグリコラと、クーラに、礼を言い「とても良い時間が、過ごせました。そろそろ、本業に戻ります」と告げ、アルス郊外、オドルの、circus社テントに、戻る。
2024年──クルクス教、アルボル教、ルーナートゥム教の、聖戦が始まる。聖地プローミッスムを巡る、争いだ。
2025年──世界大戦が始まる。10歳の、アウルムと、10歳の、アルガーリータは、戒厳令下で暮らす。原子爆弾、水素爆弾、中性子爆弾が、使用される。核の冬が、来る。泣きじゃくる、アルガーリータの、手を、アウルムが取り「必ず、お嫁さんにしてあげるから、泣くな」と励ます。
2040年──ペクーニアエ・コンメリクムで、circus社が、公演し、10章の演劇、『天使と悪魔の聖戦』演目になる。クライマックスで、花火と、共に、カードジョーカー♠︎フォルティトゥドー、新カードジョーカー❤︎アルガーリータ、♦︎クブルム、♣︎アウルムが飛び立つ。♣︎8とスートナンバー外の者たちも、ソル市街地に出る。
『絵柄』の組織の、浸透諜報部員たちが、ペクーニアエ・コンメリクム各地で、武装発起する。
ウィースと、クレーメンスは、カードジョーカー♠︎フォルティトゥドーと、新カードジョーカー♦︎クブルムを追い、空飛ぶタクシー、fly taxi®︎に乗り込む。
パッシオは、新カードジョーカー♣︎アウルムを追い、空飛ぶ2輪車、fly bike®︎に跨る。
ウェヌスタは、新カードジョーカー❤︎アルガーリータを追い、空飛ぶ車、fly car®︎に乗る。
空中戦に、なる。
ウィースと、クレーメンスに、対峙した、カードジョーカー♠︎フォルティトゥドーが、新カードジョーカー♦︎クブルムを撃ち、クブルムが、墜落する。フォルティトゥドーが、解説する。
「奴が、死ねば、奴の体内の、超小型水素爆弾、little nuclear bomb®︎が、爆発する。俺たち、全員、死ぬ時が来たんだよ。俺からの、ハッピーバースデーだ。皆で、一緒に、死のうぜ。」
クレーメンスが、答える。
「何だと...!?」
クレーメンスが、パッシオ、ウェヌスタに量子暗号通信secret message®︎で、連絡する。
「敵勢力の、仲間割れで、超小型水素爆弾、little nuclear bomb®︎が起動した模様。直ちに、退避を。」
パッシオが、新カードジョーカー♣︎アウルムに、疑問を投げかける。
「此れも、予定通りか?」
アウルムが、顔面蒼白で、呟く。
「アルガーリータ...そんな...」
ウェヌスタが、新カードジョーカー❤︎アルガーリータに、話しかける。
「武器を、置きなさい。水素爆弾を、解除すれば、貴方と、恋人の、アウルムは、見逃してあげる。このままだと、敵味方問わず、全員、水素爆発で、死ぬわよ。」
絶望した表情の、アルガーリータは、少し沈黙した後、無言で、頷き、スマート弾マシンガン、smart machine gun®︎を捨て、クブルムの、落下地点に、向かう。アルガーリータが、瀕死の、クブルムに、寄り添い、手を当てる。
《干渉》
アルガーリータたち、カードジョーカーたちは、干渉という、共通の、ナノマシンを、注射している。あらゆる、電子機器を、操作する事が出来る、特殊能力を有している。自らの、体内の、ナノマシンに、干渉すれば、空を、飛ぶ事も出来る。アルガーリータの、命令で、クブルム体内の、little nuclear bomb®︎が、止まる。ウェヌスタが、パッシオ、クレーメンス、ウィースにsecret message®︎で、連絡する。
「水素爆弾起爆を、停止した。退避解除よ。」
パッシオが、アウルムに、問う。
「まだやるか?」
アウルムが「もう良い」と回答し、首を振り、smart machine gun®︎を、捨てる。クレーメンスが、目下の、横断歩道に、ウェトゥスタースを見付け、ウィースに、指示する。
「わしを、あの、横断歩道へ、降ろせ。」
fly taxi®︎が、ウェトゥスタース前に、着陸し、クレーメンスが、下車し、宣言する。
「決着を付けよう。運の男よ。」
ウェトゥスタースが、微笑む。
ウィースが、fly taxi®︎で、フォルティトゥドーと、向き合う。フォルティトゥドーが、質問する。
「また逃げるか?」
ウィースが、否定する。
「此処で、終わりだ。」
クレーメンスが、smart handgun®︎をウェトゥスタースに、撃つ。
《幸運》
車が、左後方より、飛び出て来て、クレーメンスの放った、スマート弾に、当たる。
《不運》
暴走車の、左前輪タイヤが、外れて、吹き飛び、クレーメンスの、左足に当たる。クレーメンスが、転がる。
《超不運》
ウィースが、搭乗していた、smart taxi®︎が、墜落して来る。クレーメンスが、叫ぶ。
「そんな馬鹿な...ウィース!!」
空を飛ぶ、フォルティトゥドーに、首を掴まれた、ウィースが、空中に、宙ぶらりんに浮かんでいる。フォルティトゥドーが、ウィースの、首を、掴みながら、宣告する。
「手を離せば、お前は落ちる。終わりだ。逃げ回っていれば、良かったんだよ。愚かな、2番弟子よ。」
「何度も、逃げるかよ」と言葉を捻り出すと、ウィースが、smart handgun®︎をフォルティトゥドーに、押し付ける。
《電磁パルス装填発射》
《干渉》
干渉出来ない。フォルティトゥドーたちのナノマシンは、スマート弾に、干渉して、弾道を、自由に変えられると、知ってから、ウィースは、元カジノ・賭博分野審議官、マレの父親、ヒエムスに、電磁パルス装填弾を貰っていた。ヒエムスも、ナノマシンを、注入しており、固有の特殊能力は、波動。あらゆる、電子機器を、操作不能にする。ナノマシンも、極小の、電子機器なので、フォルティトゥドーは、ウィースが、放った、電磁パルス装填弾に、干渉して、弾道を変える事が、出来なかった。フォルティトゥドーが「お前も、墜落するぞ。馬鹿か」と呟き、ウィースの、首の手を、離し、ウィースと、フォルティトゥドー、2人が、墜落する。
fly bike®︎に、搭乗した、パッシオが、ウィースを、受け止める。審議院仮庁舎より、連絡が入る。
「武装発起した『絵柄』ナンバー外の、鎮圧完了。」
《超不運》
あらゆる方向から、自動運転車、smart car®︎が、飛び出して来て、通行車両に、衝突する。空飛ぶ車、fly car®︎が、次々と、クレーメンスの方へ、墜落して来る。クレーメンスは、自動運転トラック、smart truck®︎の下に、隠れ、避難する。
多重交通事故が起きる。
クレーメンスが、足を、引き摺りながら、苦虫を、踏み潰した表情で、言葉を、捻り出す。
「何人殺せば、気が済むんだ。なんという男だ。逃がすか。」
《不運》
暴走smart taxi®︎が、右前方より、飛び出し、クレーメンスに、突っ込んで来る。
パッシオが「させるか」と言い、smart taxi®︎前輪を、smart handgun®︎で、撃つ。smart taxi®︎の、軌道が逸れ、ウェトゥスタースに、激突する。クレーメンスが、告げる。
「運が、自らに帰って来たのだ。不運じゃな。」
circus社テントで、ヴァニタスが、新カードの女王、プルイーナに、宣言する。
「もう、駒は無いわ。」
プルイーナが、返答する。
「子がいなければ、産めば良い。駒がなければ、作れば良い。私が居れば、何度でも、蘇る。重要なのは、女王の存在。また、必ず、新軍団を組成して、ソルに、侵攻するわ。その前に、元カードの女王、ヴァニタス、貴方を、始末しないとね。」
ヴァニタスが「物体を停止させる、ナノマシンの、お前の、弱点は、分かっている」と冷静に、告げると、通常の銃を、取り出す。
プルイーナが、返す。
「私は、ナノテクノロジーで、宝石を、体内に、取り込んで居る。私の、ナノマシンパワーには、もう1段階、上の、ステージがある。それが──結晶化。」
《灰簾石》
プルイーナの、体が、灰簾石で、宝石のように、結晶化する。
《灰簾石銃》
プルイーナ結晶体が、指先から、灰簾石を、発射し、ヴァニタスの、右脹脛を、撃ち抜く。灰簾石の、大きさは、アサルトライフル弾より、大きい。あまりにも、威力が強い。ヴァニタスは、右足の感覚がない。歩くのは、おろか、立てなくなる。
《透過》
ヴァニタスが、姿を消し、這いずり周り、プルイーナ結晶体を、撃つ。
《灰簾石盾》
プルイーナ結晶体が、灰簾石の、盾で、銃弾を弾く。
《灰簾石銃連射》
プルイーナ結晶体が、ヴァニタスの、血痕の方向に、灰簾石を、連射する。ヴァニタスが、伏せ、回避する。ヴァニタスが考える。このままでは、殺される。宝石には、核がある。プルイーナ結晶体の、核を、見つけない限り、どんな攻撃をしても、結晶体は、直ぐに再生してしまう。無敵だ。しかし悠長に、核を、探している時間は、ない。右脹脛からの、出血が、激しい。何もしなければ、失血死する。ヴァニタスは、スーツの内の、ポケットから、瞬間冷凍弾、スマートアイス弾を取り出すと、驚く事に、自分の、右脹脛に、撃ち込んだ。ヴァニタスの、右脹脛が、凍りついて、出血が、止まる。ヴァニタスは、ある事に、気付く。プルイーナは、ナノマシンで、スマート弾を、停止出来るが、目視した対象を、石化して、停止している為、弾丸を、透明にすれば、停止出来ない。
《透過》
ヴァニタスが、スマート弾を、透明にして、瞬間冷凍弾、スマートアイス弾を、プルイーナの、核があるであろう、心臓部分にめがけて、撃つ。
《灰簾石盾》
プルイーナ結晶体が「くだらない。停止出来なければ、盾で、防げば良いだけよ」と呟き、灰簾石の、盾で、銃弾を防ぐ。プルイーナ結晶体が、瞬間冷却される。プルイーナが、吐き捨てる。
「直ぐに、冷却は戻るわ。びっくり弾丸ショーも、これで終わりよ。」
ヴァニタスが、宣言する。
「次の、弾丸を、避けなければ、貴方は、死ぬわ。」
プルイーナが、相手にせず、鼻で笑う。
「最後はブラフ(はったり)ね。くだらない。」
ヴァニタスが、瞬間高温弾、スマートヒート弾を、プルイーナに、撃つ。
《灰簾石盾》
「ガードしたわ。貴方に、灰簾石を、撃ち込んで終わり。死になさい...」
プルイーナが、言い終わる前に、異変が起こる。瞬間冷凍弾、スマートアイス弾で、冷却されていた、体が、瞬間高温弾、スマートヒート弾で、一気に、温められて、温度差で、プルイーナの、体に、ヒビが入る。ヴァニタスが、告げる。
「だから言ったでしょう。私は、ブラフ(はったり)を、言わない」
ヴァニタスは、瞬間高温弾、スマートヒート弾を、もう1発、プルイーナに、撃つ。プルイーナ結晶体が、温度差に耐えられず、砕け散る。
1週間後──アルスで、高速鉄道、land speed®︎に、アウルムと、アルガーリータが乗り、アウルムが、アルガーリータに、話し出す。
「これからの、演目だけど、空中ブランコは、危険過ぎる。落ちたら、大怪我か、再起不能、最悪、死んでしまう。僕は、君を、失いたくない。だからこそ、今後は、夫婦関係が、モデルの、道化師の、恋物語をして、生きていこう。寸劇、アクロバット、ダンスだ。道化師は、嫌か?」
アルガーリータが、回答する。
「貴方となら、嫌じゃ無いよ。人に、笑われたって良い。見せ物の、道化師でも良い。貴方と、いられるなら、それが、私の幸せだから。人から、どう思われようが、どうでも良い。私は、貴方が好き。貴方といられるなら、そこが、私の天国。アウルム、私たちは、国を持ってない、流浪の民でしょう?国がなくて、いつも、不安で、夜も、眠れなかった。これから、何を頼りに、生きていけば良いのか、答えは、自分以外に、見つからず、何時も、不安で、孤独だった。でもね、分かったんだ。桃源郷が、何処にあるのか。それは、貴方と、幸せに過ごせる、場所にある。道化師でも、良いの。何気ない、日常の一瞬、一瞬、それが、貴方と、一緒なら、輝く。どんな些細な事も、貴方となら、かけがえのない、思い出に変わる。桃源郷ってね、きっと此処に、あったんだ。貴方と、一緒なら、そこが、桃源郷だから。私は、笑い者でも良い。貴方が、いるから。私が、子供の頃から、結婚するって、決めてた人だから。私たちは、ずっと一緒にいた。これからも、貴方の、そばに、私は、ずっといる。それが、私の、生きる理由。この高速鉄道で、何処まで行くの?」
アウルムが、返答する。
「君となら、何処までも、行こう。2人で、道化師になろう。一杯、笑われよう。人から、馬鹿にされよう。それでも、2人だけが、分かっていれば良い。そこが、2人の、桃源郷であり、最高の、ショーだと。これからも、僕たちの、道には、困難がある思う。人生は、楽しいことだけではない。辛く、悲しい事も、起こると思う。でも、君となら、乗り越えていける。君となら、どんな道端の、石ころも、宝石の様に、輝く。やっと、見つけたんだ。2人だけの、桃源郷を。君といる場所が、永遠の、桃源郷だ。」
2人が乗る、land speed®︎の横で、ウーウァ農園を、優しい風が、吹いて行く。そこに、アウルムは、幻影を見た。まだ子供の頃、2人で、生きていくと、決めた、アウルムと、アルガーリータの影。20歳の頃、アルガーリータと、共に、サーカス団、circus社から、脱走して、農園で、ウーウァの、ワイン作りをして、過ごした事。その時の、葛藤と、焦りと、将来への不安。唯一の、希望が、隣で、笑ってくれる、アルガーリータの、笑顔だった事。今は、もう、現実から逃げる、子供ではない。2人の、旅は、逃避行ではない。道化師であろうとも、確かに、2人の、桃源郷へ続く、希望の、旅だった。アウルムは、アルガーリータの、手を、握る。その手が、これからも、ずっと、そして、永遠に、離れない様に、強く、優しく、アルガーリータの、手を、握りしめた。アルガーリータが、握り返す。細く、柔らかい感触が、アウルムの、心を、満たす。アウルムは、思った。君こそが、神様が、帰る場所のない、自分に、与えてくれた、天使だと。そして、君と、沢山、幸せな、思い出を作っていこうと。何に、代えても、守りたいと。アルガーリータは、そっと、アウルムに、寄りかかった。2人は、キスをする。2人を、乗せて、高速鉄道、land speed®︎は、暗闇を、照らしながら、光の、向かう方へ、走り続ける。