【難易度3】Barlow type severe MRの治療方針


45歳男性
健康診断でMRを指摘され紹介。
Dd/Ds 65/46でEFは54%、LAVI(左房容積係数) 40ml/m2、MADとBarlow type のsevere MRを認めた。BNPは20で、フルマラソンを走っても症状はなし。
ホルター心電図ではAfはなくPVCを3%認めた、冠動脈有意狭窄はない。経食道心エコーでは僧帽弁の弁葉が大きく、billowing prolapseを認め、収縮後期に吹くSevere MRを認めた。
治療方針検討目的に入院となる。

Barlow type MRとは?

Barlow type MRとは?
1次性MRは分類がいろいろあるけど、その一つがBarlow type MR。
他の結合組織疾患との合併が疑われており、MRの重症度と無関係に左室拡大をきたすことが知られる。
逆流箇所が複数におよんだり、余剰弁尖が多いため形成術の難易度が高く、術後の再発が他の一次性MRよりも多い。

問題

問一 Barlow typeでなく、P2などの形成可能なMRであれば適応はあるか。MRの病態と左室の関係を交えて答えよ。
問二 本症例の場合は左室拡大、左室機能低下をどうとらえるべきか?
問三 他にやってみるべき検査は?
問四 治療方針は?

問一 Barlow typeでなければ適応はあるか。

Barlow type でなくMRであれば、左室拡大(Ds>45)を認めており、EFも低下しているため治療適応である。MRでは左室の血液がMRにより左房へ逃げるため、左室にとってはより低い後負荷となるためLVEFは本来の実力よりも高くなる(LVEFは60%の健常人が突然MRになるとLVEFは70%程度になる)。そのため、通常LVEFは50%未満がLVEF低下とされるがsevere MR患者ではLVEF60%未満がLVEF低下とされ、手術適応の一つとされる。
本症例がもしP2逸脱などであれば左室拡大とLVEF低下を認めるため、治療適応となる。

問二 本症例の場合は左室拡大、左室機能低下をどうとらえるべきか?

Barlow type MRはM弁がびろびろにのびて、びろびろになって隙間が空いたところからMRが吹く。つまるところ、M弁がびろびろになることが病態の本態といえる。びろびろになるということはやはり、何かしらの結合組織疾患が背景にあるのではないかと考えられており、MRが軽症や中等症の患者においても左室拡大をきたしたり、左室収縮能の低下をきたすことがある。
この症例においては、左室障害をきたしたタイミングとMRを生じたタイミングがどちらが先なのかは不明であるが、一概にMRの影響で左室拡大をきたしたは考えにくい。

問三 他にやってみるべき検査は?

運動負荷エコー、LVG、右心カテーテルなどが考慮されるが、いずれも必須というわけではない。
本症例は左室拡大はMRの影響とはいいきれず、症状もないため、運動負荷エコーでPHが誘発されるかどうかをみてもよい。PHがでればある程度手術を考慮してもよいかもしれない。
LVG、右心カテーテルはやや古典的な検査であり、必須とは言えないかもしれない。しかし、Barlow type MRは逆流ジェットを吹く時間が収縮後期だけで短く、他のMRと同様に重症度を到達度や吸い込み血流の大きさで判断すると過大評価となる可能性がある。そのため、やや古風な方法ではあるが、LVGで重症度評価することも一考される。右心カテーテルについてもかなり古風ではあるものの、その時点でPCWPのV波をみることは一つの指標になるのでBarlow typeのように重症度が単一の検査だけでははかりにくい症例においては考慮されるかもしれない。

問四 治療方針は?PVCに対する治療は?

左室拡大はMRの影響と断定はできず、運動負荷PHも認めなかった。外科とも相談し、形成が大成功する可能性が高いとは言えず、術後数年で再発し弁置換術となる可能性もあるため本症例においては手術はpendingとした。

Barlow type MRでは僧帽弁腱索に負荷がかかることがあり、腱索由来のPVCやVTを生じることがある。1%程度の割合で突然死する症例を認める。そのため本症例においてもΒブロッカーを少量内服した。また左室拡大も認めており、心臓保護薬は一式導入した。

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