おもしろTシャツを考える

 俺は普段から、なるべくなら一緒にいる人に笑ってほしいと思っている。もっと露骨に言うと、「ウケ狙い」で生きている。だから面白くなりたいし、面白いと思われたい。

 高校生の頃、クラスで好きな女の子がいて、俺のことをどう思ってるか風の噂で聞いた。「うるさい」とのことだった。そうなんだ。そうな。俺を「音」として捉えると「うるさい」って話になってくるよな。俺は好きな子に「不快な音」だと思われていたんだぜ。みんなも元気でやっていこうな。

 中学の頃は「笑いをとるのに必死」とか、どストレートに「スベってる」と言われた。いずれも女子だ。ひどくないですか。必死で笑いをとりにいって、スベっててうるさいという、もうそうなったら俺が悪いだろって話なんだが、もうちょっとさあ、オブラートに包んでくれよ。

 でも塾講師だった頃に受け持ったクラスで「うるせえお調子者」がいたんだが、そこそこウケてるように見えるんだよ。こっちから見ると。授業中に俺の話に茶々入れてきたりする。昔の俺を見てるみたいで可愛いから俺も乗っかったりしてた。

 あれって生徒の親から普通に苦情来るのな。「〇〇くんがうるさいって娘が言ってます」って電話が来たときは「こういうことだったんだ」って思った。ごめんな。各位。

 「面白い人」にもいろんなタイプがいる。なんの説明も無くひたすら面白い人も中にはいる。逆に舞台裏を色々説明してしまうタイプもいる。手品を覚えたらタネ明かしまでしてしまうタイプだ。

 憧れるのはもちろん前者だ。説明しない方が絶対にかっこいい。でもどうしても「こっちも苦労して頑張って笑いのこと真剣に考えてる」みたいなこと言いたくなってしまうものだ。そんな相手に「うるせえ」とか「スベってる」とか言いづらくなるだろ? なるべくなら言わないでほしいわけよ。そうなわけよ。

 あとは「日常生活から常に面白い人」と「ふとした瞬間、ぶっ刺してくる面白い人」がいる。これはタイプによる。明るい人は前者に向いてる。「ふとした瞬間、ぶっ刺してくる面白い人」っていうのは刃物を隠し持ったクレイジーサイコ・ピエロのことではなく、普段は物静かだが、たまに言う「一言」がすごく面白いタイプだ。これはこれでかっこいい。

 俺は「陽気なデブ」なんで、選ぶ余地なく前者で行くしかない。昔から憧れてるのはラーメンズの小林賢太郎さんとか、デビューしてすぐの太田光さん、リーゼント時代の松本人志さんなどなど、後者の「カリスマ的存在」だが、陽気なデブがその枠に行くのは多分不可能だ。「陰気なデブ」になるだけだ。それはまずい。「陰気なデブ」は大変な騒ぎだ。

 そこで「おもしろTシャツ」だ。おもしろTシャツほど見下げられたおもしろグッズも無いものだ。「馬のお面」とか「鼻メガネ」みたいなドンキホーテのバラエティグッズコーナーに置いてあるものを使って笑いをとるのは「つまんねえ奴の代表的行動」と見なされているが、おもしろTシャツも同じ枠に入れられている。

 だがちょっと待ってくれ。たとえば白無地のTシャツ、黒いズボン、普通の腕時計、普通のスニーカー、七三分け、中肉中背、普通の顔。そんな感じの人がいたとする。キャラクリエイト画面のデフォルトの奴みたいな奴だ。俺は愛知県で一回見たことがある。

 で、そいつは、たとえばボーリングで名前入力する場面で普通に「たかし」とか入れるわけだ。こんなところで安いボケはしない。カラオケでも普通にバンプとかミスチルとかを歌う。バッティングセンターに行けば「100km/h ストレートのみ」のブースに入る。で、どういうわけかUFOキャッチャーは謎に上手い。

 趣味も「カレー屋めぐり」とかで、得意料理は「煮込みハンバーグ」だ。そういうなんでもない普通の奴がいたとする。そいつがたまにボソッと面白いことを言う。これが刺さりまくるとしよう。

 そりゃかっこいいよ。そういう「地味に面白いやつ」はかっこいい。でもそんなん無理だよ俺たちには。ボーリングで名前入れるなら「クソデブ」とか入れたいし、カラオケで「君が代」歌ってシラけさせるんだよ。ちょけて「140km/h 変化球あり」に入って全部空振りするし、UFOキャッチャーはお金全部吸い取られるんだよ。

 人生が漫画だったら全部のコマでボケてたいの! 安くてもスベっててもいいの! だからおもしろTシャツを着させろ!! 白い目で見るな!!! 「とにかく笑いをとりたい」という心意気を買ってくれ!! ひょうきん者だなあって思ってくれよ!!

 というわけで全員がおもしろTシャツを認めてくれたということでね。ありがとうございます。二度とおもしろTシャツを白い目で見ないこと。いいですね。

 で、俺はおもしろTシャツをよく着るんだが、これが本当に不評だ。「がっかりした」みたいなことを言われたこともある。俺はもうちょっとセンスが良いと思っていたらしい。上記みたいなことを言って弁明したんだが、本当にシカトされた。笑いに厳しい人多くないですか?

 色んなおもしろTシャツを着てきたが、お気に入りだったのは「Pornhub」って胸にでっかく書いたTシャツと、「ムー」のTシャツだ。

 「ムー」は「月刊ムー」という、存在自体がギャグの雑誌の公式グッズ(?)で、「ハードコアチョコレート」というサブカル系アパレルブランドから出ている結構しっかりしたTシャツだった。おもしろTシャツというより「バンドTシャツ」的な存在でもある。
 「天気の子」の主人公が着ていて知った人もいるかもしれない。

 「ムー」は特に5枚ぐらい持っていて、夏場は色とりどり、毎日「ムー」を着ていた。夏コミ(夏のコミケ)に着て行ったら「SF」コーナーで死ぬほど話しかけられた。コミケの帰りに紙袋下げて電車に乗っていたら高校生の集団に「あいつ絶対コミケ帰りだよ」って陰口を言われたりした。そんな「ムー」だ。

 工場勤務の頃、会社の寮でそんな感じで「ムー」を毎日着て歩いていた。俺はぶっちゃけ「月刊ムー」を買ったことはない。オカルトマニアだがUFOとかUMA(未確認生物)には興味ないのだ。ただふざけて着ていた。

 寮には300人ぐらいいただろうか。同じ会社でも直接関わりがあるのは20人ぐらいなものだ。あとは全然知らない人だったり反対直(2交替勤務で逆側の勤務の人たち)だったりする。反対直には寮内で毎日すれ違う。こっちが退勤のときに向こうが出勤なのだ。

 そうして毎日すれ違う人の中に、「ヤバそうな人」も何人かいる。「関わるな」と本能が告げてくるような人だ。そういう人は大体すぐいなくなる。

 あるとき、そのうちの1人が明らかに俺に目を合わせてきた。俺はちらっとだけ見て、目を逸らした。その次の日も俺に目を合わせてくる。その次の日も。

 なんだろうなあの人、どうしてそんなに俺に熱視線を送ってくるんだろうと思っていると、あるとき、休日だった。また向こうから彼がやってきた。寮の50mぐらいある長い渡り廊下だ。俺とその人しかいない。知らん顔で歩いていると、やっぱり視線を感じる。確実に俺を見ている。チラッと見ると、ニタァっと笑っている。

 やっべえ。おっかねえおっかねえ。マジでなんなんだあの人は。ジッと目を合わせる。笑いながら近づいてくる。目はずっと合ったままだ。向こうは何か言いたげだ。俺とコミュニケーションが取りたいのか?

 ふと視線を下にやると、そいつのTシャツのガラが目に入った。

 「ムー」

 お揃いじゃねえか! うお。うお。ひええ。どんな顔したらいいの? 碇くん! 教えてくれ! 笑ったら友達になっちゃうぞあいつと。「ムー」読んでる奴と友達になりたくはないな!(笑) 俺は目を逸らして、何事も無かったかのようにやり過ごした。「ムー」を着ることは二度と無かった。

 俺も最近はちょっと丸くなっていて、普通にゲームのTシャツとか着てお茶を濁している。しかしそろそろ俺も「ajidesu」(adidasのパロディ)とか「美豚」(ヴィトンのパロディ)とかそういうド直球のおもしろTシャツに手を出す時期が来ている気がしている。

 おもしろTシャツは特に女性ウケが非常に悪いらしいな。知ったこっちゃねえよな。どっちみち悪いんだから。どっちみち悪いんだから! ……泣いてるの?

 ダサいしスベっているしセンスが無いという社会からの白い目を全身に浴びながら、必死で安っすい笑いをとりにいきたい。つまんねえ(笑)って笑ってほしい。

 おっさんが披露する「親父ギャグ」もそういうつもりだったのかな。親父ギャグ言うようになったら人間終わりだよな。何が違うの? うるせえ!

 終わり!

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