南洋を巡る旅のはじまり

2022年の夏。
当初、奄美大島に行くあては何もなかった。この旅の大きな目的は、九州地方での身内の集まりに参加すること、それから奄美大島のお隣にある喜界島という島で、サンゴ礁に関わる人類学系のフィールドワークに参加することだった。ただ、鹿児島市内から喜界島に向かう頃、市内のビーガンカフェ「ベジタス作楽」に偶然立ち寄り、そこでの出会いが予定を変えることとなった。

「ベジタス作楽」の店内に入ってみると、木と煉瓦でつくられたカウンター、次に温かないくつかの照明が目に入った。店内は広く、どこの地域・文化圏とも区別できないようなさまざまなデザインの工芸品やアンティークが静かに空間を包んでいた。お店のオーナーご夫婦は、30年以上もこの菜食レストランを営んでいるという。ランチセットを注文してから、鹿児島の地元の信仰や宗教、文化について、ご夫婦に色々と質問し始めた。色々と教えてくださるうちに、話は日本における宗教のあり方や政治、環境問題などへゆっくりと流れたが、あっという間に数時間が過ぎていった。

このカフェにこれまで訪れてきた様々な人の名を聞いて、とても驚き縁を感じた。写真家ユージーン・スミスの元妻アイリーンさんや、'92年のリオ・デジャネイロでのスピーチで名を知らせた環境活動家のセヴァン・スズキさん。その他にも、ポリネシア各地域に文化復興の影響を与えている伝統航海カヌー「ホクレア」を指揮するナイノア・トンプソンさん。なんと面白い方たちが、この同じ空間で過ごしたことだろう。国内外から様々な人がここへ行き着き、お茶を交わした。

ここでオーナーご夫婦は私に、全国でも珍しい自然の海岸を誇る奄美大島の嘉徳(かとく)という場所と、この集落で起きていることについて教えてくれた。そしてこのお店を出る頃には、予定を変更してフェリーで奄美大島へ行くことに決めていた。

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