夕暮れ

ひぐらしが鳴いている。
虫の声と、スピーカーから流れるジャズピアノの音が、
森の中夕暮れの空へと吸い込まれていく。
猛暑と言われる今年の夏も、山の中だと随分と涼しい。
お盆休みのちょうど中盤に、
風子は恋人の清水と愛犬のなるを連れ、山小屋へ一泊のキャンプへ来ていた。

タープを立て、家から持ってきたターンテーブルとミキサーをテーブルに置く。
それを清水が真剣な顔でいじっている。
ミュージシャンである彼は、こと音楽に関しては少しうるさいのだ。
スピーカーの位置を丁寧に調節して、
一番いい音が自分の耳に届くようにセッティングをする。
満足がいったのか、キャンプ用の椅子に腰掛け、一服をはじめる。

「カラスも帰っていきよるな」
夕暮れの空、聞こえるカラスの鳴き声に、清水はくすりと笑いながら呟いた。


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