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混沌と一人で戦う男

テムテムアニメ、めちゃくちゃいい。

テムテムアニメとは、YouTubeで定期的に投稿される短編アニメのことだ。最近暇つぶしによく見ている。すでに200話以上の動画が投稿されており、かなりの数再生されている。
特徴的なのはその話の構成だ。200話以上あるのにもかかわらず、話のほとんどが「主人公である滝社長がお金を減らそうと目論むも、因果関係が不明な現象に遭遇し、失敗する」というものだ。滝社長は一億円など端金レベルの大金持ちで、自分が大量の金銭を保有していることに嫌悪感を抱いている。そのため、自分の資産を減らすことを目的として仕事しているのだ。彼が資産を減らすために行った活動は例えば以下のようなものだ。

  • 細かいことだけ気にするが肝心なものを持ってこない人間を雇う。

  • 贈与税を大量に支払う。

  • 無能なコンサルタントを採用する。

  • 小学生に社長をやらせる。

  • 自分の寝言のみを収録した本を出版する。

  • 潰れかけの銀行に大量の金を預ける。

  • アル中に電車の運転手をやらせる。

  • 必ず当たるパチンコ屋を運営する。

  • バブルを崩壊させた貧乏神を取り憑かせ、パチンコをする。

  • ジェット機をドライヤーにする。

  • 水風呂のないサウナを経営する。

滝社長は資産を減らすことを目論んでこれらの活動を行うが、必ず失敗する。どんなことをやっても必ず儲けてしまうのだ。例えば上にあげたジェット機をドライヤーにする「何気ない日常を超高額にしたのに千億円稼げてしまうやつ」の回では、ジェット機で髪を乾かしていたらたまたま芸能人がやってきて、芸能人が実は禿頭のかつらであることが判明するという出来事が起こる。その結果、芸能人の秘密を暴いたお礼として滝社長は多額の謝礼を受け取り、ジェット機で使ったはずの金銭がそのまま帰ってくる。

滝社長はどんなことをしてもお金が帰ってくる状況に適応して、自分でもさらに変な方法を使ってお金を減らそうとしてくる。一見して狂人の戯れとしか見えないようなことを真剣に行うのだ。だが、滝社長が手段を選ばないように、世界の側も手段を選ばない。どのような因果を曲げても滝社長はお金持ちになる。

滝社長は完全に狂っているが、一般社会に存在する高潔な人々の存在よって金を稼いでることがあるのが面白いところでもある。「見るからに入りたくない店を作ったのに、数千億円稼げてしまうやつ」の回では、滝社長はいかにも怪しい呼び込みをしている病院を設立し、お金を減らそうと試みる。これなら患者は来ないので、お金が減らせるだろうとの思惑だ。呼び込みがしつこいので、人からはけなされ、迷惑がられる。

しかしそんな環境でも、滝社長に雇われた医師は最大限のパフォーマンスを発揮する。突然の急病に倒れた通行人に手術をし、生命を助ける。通行人は恩義を感じ、滝社長に多額の謝礼を渡す。

滝社長には優秀な人間を見極める目がある。何気に準レギュラーキャラとして登場している「秘書」「高橋君」「一二三さん」を始めとして、彼の周りには優秀な人間が多い。

高橋君

滝社長が金を減らすために変なことをするも、高橋君や周りの人間がそれを滝社長独特の作戦であると考え、必死にリカバリーするのもよくある展開だ。

これだと単にアンジャッシュみたいなコントにも見えるかもしれないが、私は厳密にはそれとは違うと思う。社会が良いと思っていることと、滝社長が良いと思っていることが違う。それを巡る壮大な話なのだ。しかもこの世界は、因果律を曲げても滝社長に稼がせる。良さに抗う話でもあり、言うなれば神に抗う話でもあるのだ。そこに滝社長の良さを感じる。

狂ったようにお金を減らそうとする滝社長、なぜそんなにもお金を減らしたいのか。その理由が明確に述べられることは少ないが、少し伺えそうなシーンはある。

滝社長が散財を初めて行った動画「子供にお金残したくないから資産減らしたいのに、何やってもお金増える」だ。この動画の最初の方に、滝社長が今後の方針を語るシーンがある。

「いやーなんだかんだでお金が増え続けている。この額なら一生かけても使いきれないだろう。とはいえ子供に一円もお金を残したくない。ダメ人間になってしまうからな」

「子供にお金を残してしまうと、ダメ人間になる」と明確に言っている。この妄執! 

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