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この槍を彼女に撃ち込むと 最終回
「行きたくないところがある。それが旅の目的なんだ」
彼女は山岳の裾野でそう言った。旅館を出て、バスで30分移動する。そこからさらに10分ほど歩いた。
山の道はまるで地震が起きたかのように荒廃している。よっぽど使われていないのだろうと思った。
森の中に、5mくらいはある木製の鳥居があった。山の神に不敬にならないように、鳥居の端を通りすぎる。山には、樹木と墓があった。墓場は斜面にへばりつくよう
この槍を彼女に撃ち込むと 7
マネージャーが君を紹介する。君は、居酒屋の薄暗い人工的な光の灯るカウンターの奥で、まるで子供のように現れた。
皆が忙しいと思いながらジョッキを一度に10杯も運んでいる途中で、空気を読めずにトイレに行ってしまう。足運びは不安定でジョッキをいつ溢すかわからなかった。その心配をよそに、自分は人並みに働いているという風な顔をしている。そのことを腹立つと言う人もいた。
私は丁寧に仕事を教えた。君の物覚
この槍を彼女に撃ち込むと 6
圭介は彼女と旅行に行くことにした。とはいえ、一泊二日の箱根旅行である。圭介は遊園地でも行った方が楽しいのではないかと思ったが、彼女の熱烈な希望で近場で済ませるということになった。
新幹線の車内は満員だった。二人が座った席の隣にもう一つ椅子があって、そこにフィクションの老人みたいな髭を生やした老人が座った。
「おじさんはどこにいらっしゃるんですか」
彼女が聞いた。彼女が旅の道中で行き合った
この槍を彼女に撃ち込むと 5
小野田は圭介の通っている学部の修士学生だった。彼にも彼女がいて、圭介はそれを一度だけ見たことがあった。小野田の彼女は無限に延長のある牛丼屋で働いていた。
小野田はその時いなかった。松浦が同行者としていて、たまたま牛丼屋に経由して大学へと行こうとしていたところだった。
松浦はここは小野田の彼女が働いている場所だ、と一瞬で気づいて気まずい顔をした。こうして見ると、牛丼屋が本屋のBLコーナーのよう
この槍を彼女に撃ち込むと 4
商店街には、潰れた店と閑古鳥が半分ずつある。彼女の家に近い方の端から、大学に近い方の端までおよそ500m。その中間地点に喫茶店セオリーがあった。
松浦は急いで圭介の家をさった後、全身から滝のような汗を流した。家の中では平然を装って普通にしていたのだが、家から出て三分ほど歩いたところで、自分の命が危なかったことを思い出し、自分が存在していることを確かめた。
圭介の彼女は、一番恐ろしかった。南米
この槍を彼女に撃ち込むと 3
「おい、圭介」
大学で唯一喫煙が許されている場所で話しかけられた。サークルの先輩の松浦だ。
松浦は水色の珍妙な頭をした男で、町田の居酒屋でワインボトルを一気飲みしたことで学部の英雄となった。留年生にもたいへん尊敬されている。
「お前にも彼女ができたんだって? いいじゃないか。男として一皮剥けたって感じだ」
「いやいや。彼女がいると大変ですよ」
「メンヘラか何かか? そういう時はビシッとや
この槍を彼女に撃ち込むと 2
彼女は、次の日平然と大学に来ていた。「生化学の講義は出席しないとテストの点数から差し引かれるから」と彼女は言った。
圭介は槍を彼女に差し込んで、血を流しているところをよそにそのまま帰宅したのだった。怖くなって、思わず目の前の惨状を無視してしまった。思えば、圭介の人生にはそういうのしかなかった。
彼女は体にいかなる傷もなく、そしていかなる動揺もなかった。圭介の方が動揺していた。変わらないものは
この槍を彼女に撃ち込むと
この槍を彼女に撃ち込まねばならない。「槍」とは言うが普通の槍ではない。丈の半分が竹製の持ち手である。先端はまるで今熱されているかのような鈍い赤色で、返しがいくつかついている。これを差し込むと、獲物に上手く絡みついて引き抜けないだろう。
これを彼女に撃ち込まないといけない。その理由は定かではない。しかし圭介はそれを直感した。
圭介が大学2年の春、人生で初めての彼女を作った。アルバイト先でたま
プラトン『国家』がまどマギと同じという話をしたい
タイトル通りです。プラトン『国家』と魔法少女まどか☆マギカのアニメ版の物語の構造は、世界観とその提示の仕方について類似性を見出すことができると思います。その話をしたくてたまらなかったのですが、あらゆる人に話しても全然共感を得られなかったので、今からその話をします。この話をしたいと思った私にはいくつかのハードルがありました。そもそも国家がよくわからない書籍だし、それとまどマギの関係性を見出している
もっとみるキドナプキディングの遠と盾
キドナプキディングが良かったという話をします。ネタバレを容赦なくします。
良く言うのが、西尾維新の主人公は世界に絶望を抱えており、腐れ縁のヒロインが存在し、唐突に現れて物語を終局に迎えさせる《敵》がいるということです。割とそんなことはないと思いますが、キドナプキディングの主人公とヒロインの関係性はそのような雰囲気漂う西尾維新作品の中でも強烈な新しさを放っていたと思います。
このインタビューにも