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乳歯のまま大人になった私たち ②

そして

私の右上の乳歯は、いよいよ限界を迎えていた。

私は必死にネットで歯医者を探していた。
今回また乳歯を抜くのであれば、この現状を踏まえた上で、今後の私のお口の中を総合的に相談できる歯医者がいいと思った。

もし私に、良い歯医者について口コミなど教えてもらえるような地域の付き合いがあればよかったのだが、残念ながらなかった。歯に詳しい友人もいなければ、知人もいなかった。

すなわち、インターネットに頼るほかなかったわけだが、さまざまな歯医者のネットの口コミを見たところで、私のこの生まれつき永久歯がないという点について書かれている口コミなど見つからなかった為、果たしてそれらが参考になるかどうか、私には分からなかった。

なにしろ、ずっと目を背け続けてきた問題である。これまで、こんなに真剣に歯医者を探したことがなかった。正直、何を基準に探せばよいのか、まったく分からないのだった。

私は、まず、『生まれつき永久歯がない』ということについて検索した。

私の抱える問題の全てはこれに端を発しているのであり、同じ境遇の人がどのような治療をしているのか、先達にならいたかった為である。あるいはまた、どのような治療が一般的なのか、知りたかった為である。

しかし、これにはたくさんのページがひっかかったが、どれもこれも子どもの為の記事で、予防と対策の話ばかりであった。

  • 知っていますか? お子さんの歯で……永久歯が足りない子どもが十人に一人……早めの発見が必要……

こちとら四十である。予防とかいう問題ではない。すでに二本失い、これから三本目の乳歯を失おうとしている。

また、子どもであれば矯正などの方法もあるようで、生まれつき永久歯が六本以上なかった場合には、保険も適用されるようだった。

私は子どもでもなければ、もう歯を失っているので予防ができるわけでもない。永久歯がないまま大人になってしまった人間は、いったいどうすればよかったのか。乳歯のまま大人になってしまった私は、いったいどうすればよいのか。検索したページの、どこにも答えを見つけることはできなかった。

私は、この方面から検索することを諦めた。

今はもう閉院している、二本目の乳歯を抜いた歯科医院を仮に、A歯科医院とする。

A歯科医院を失った今、近くでかかりつけの歯医者がほしいとも思っていた。もし、その歯医者が病院と提携している歯科医院であれば、そこで扱える以上のことに関しては、病院を紹介してもらえるかもしれない。A歯科医院では叶わなかった悲しい夢を、叶えてもらえるかもしれない。

私は近くの歯医者をネットで検索しまくった。
ホームページを見漁った。

私の心の支え、頼みの綱であったA歯科医院を失ったことで、危機感が募っていた。もし今度かかりつけの歯医者を見つけることができたならば、今度こそ腰を据えて問題解決に取り組みたいと思っていた。どうにかしたかった。破滅へ向かうゆるい坂道以外にも、私には道があると知りたかった。

そうして検索してたどり着いた、その歯科医院のホームページには、『大学病院と提携している』ということと『幅広い治療に対応している』ということが記載されていた。いいかもしれない、これなら、私の歯のこれからについて総合的な相談をすることができるかもしれない。ホームページの『できるだけ歯を残す』といった文章にも、グッときていた。

私は、ホームページに記載されている番号に電話をかけ、B歯科医院の予約を取った。

平行して他の歯医者も検討していたことはしていたのだが、このB歯科医院の予約が取れたことによって、私は他の歯医者の検索をやめてしまっていた。

ホームページを見てもなかなか良さそうだし、このままここに決まるかもしれない。何はともあれまずは行ってみて、本当に良かったらそのまま通えばいい。よろしくなければそのときまた他を探そう。

なにしろ、長年抱え続けてきた問題について、私はついに解決への第一歩を、なんと自ら踏み出したのである。私はそのことにすっかり満足した。

そうして私は予約当日を迎えた。

(つづく)

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