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お帰りと山が言った。

5月の末から日本に二週間ほど行った。「行った」と言うようになって、かなり年月が経つ。自分の現時点の「Home」は、うちの連れ合いがいるところだと定義してから、「日本に行く」と言うのが抵抗ない。

今回、日本に行くと決めた決定的な出来事は、靴。

高知在住のデザイナー、梅原真さんが手がけている River Projectの年間会員(年会費1万円)になって、その会報誌で紹介されていた靴作りのワークショップをしているBase worksさんのところで、靴を作ろう!と、見た瞬間に決めた。

もちろん、他にも用事はあったのだけど、何はともかく、行くためのモチベーションとして、この「靴」っていうのが大事だったわけである。

日本に着いてから4日目に、東京の代々木上原のスタジオで、まず足の形を取って、パターンを起こして、その後の作業は高知で、ということになった。

その高知の場所というのが、えらい山奥だというのは、ググッてわかった。慄きながらもワクワクしてしまうのは、小さい頃から冒険少女だった魂がそのままの証拠である。

果たして、JR土佐山田駅から、アンパンマンバスに乗り、入梅前の南国高知の田舎道をトコトコと一時間、大栃という終点に着く。そこから更に山の中に入っていくバスに乗る。

最初、レンタカーしようかなと思ったが、10年以上、日本で運転していないし、山道とか、土地感ないところは不安だなあ、逆走したらどうしようと、Base worksの勝見さんに相談したら、「大丈夫ですよ、途中から車線なくなるから」って。辞めてよかった。こんな道、対向車来たら、絶対、谷底に落ちる by 私の運転技術。というような、山の中だった。

山が深くなって、この辺かなというところで、目的地を運転手さんに告げると、「じゃあ、大西の入り口まで行ってあげよう」と、バス停を通り越して、三叉路で降ろしてくれた。

携帯のネットが使えなかったので、そこからは、勘で山道を登っていく。

ま、考えてみると、昔、山歩きをしていた頃は、この勘だけで歩いてて、迷子になるのさえ楽しんでいたわけで、とりあえず、集落がある空気感だけでも、全く不安はない。

二つ目のバスに乗るまで降っていた雨もほぼ止んで、360度の山の緑からは、蒸気が立ち上っていた。バスの音が聞こえなくなった山道で、ひとり、しばし、霧雨に身を任せて、山と対峙する。

オ カ エ リ。

と、山が言った。 私は何も言わずに、その言葉を全身で受け止める。自分が還って行く場所を確かめるように。




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