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Aftersun(考察)

【あらすじ】
11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。

https://eiga.com/movie/98881/

『大人になった今の私なら、あの頃の父親を救えたかもしれない…』

所々に挿入される父親の闇を感じる部分を書いていく。ネタバレ⚠️





①母親からの電話

一見ソフィはただ休暇を父と楽しむ為にバカンスに来たと思われるが、「父の様子はどう?」という母からの電話により、ソフィは近頃様子のおかしい父の偵察に来たことを伺える。ソフィが「監視役として来た」と言っている場面からも。恐らく、うつ病により精神に異常を抱えている父を心配してこのバカンスは企画されたものであると思う。


②バイクゲーム

ソフィがマイケルと対戦してるバイクゲーム。ワンシーンだけ『GAME OVER』の文字だけが浮かび上がり、死を彷彿とさせている。

③護身術

父がソフィに「もし腕を掴まれたらこうしろ」と護身術を教え込んでいる。近い将来死のうとしている父。娘に何かあっても自分はこの世に居らず、助ける事ができない為、自分で身を守る術を不器用な父なりに教え込んでるように思う。

④鏡に唾を吐くシーン

ソフィの「楽しい事があった後、気分が落ち込んで骨が動かなくなる」という言葉。躁鬱状態の時によく陥る現象の為、父はこの気持ちが痛い程わかる。しかし「楽しいならそれでいい」とフォローをする父。その後、鏡に映った自分に唾を吐く。父自身、ソフィをフォローしたのにも関わらず、同じ感情を持っている為、自分が許せなくなってしまったのではないかと思う。

⑤絨毯

節々に出てくる父がそんなに裕福では無いことを彷彿とさせるシーン。

『無銭飲食をしたこと』『1番安いホテルに泊まっていること』『ソフィがお金を気にしていること』

しかし、父は旅行地で高級な絨毯を購入する。ソフィに残す為の形見なのでは無いかと推測。後に31歳になったソフィのベットの下にはこの絨毯が敷かれている事から、彼はもうこの世には居ない。ソフィは形見としてこの絨毯を使用しているのだろう。

⑥自殺を彷彿とさせる

1、父がベランダの塀に登って手を広げるシーンだけが映し出される。

2、夜の海、波の中に父は真っ直ぐ歩いて行き消えていくシーン

3、バスに向かって止まりもせず突き進んでいくシーン

4、腕、肩を怪我している父←自分も記憶が無い間に何かしていたのではないか。

この様なシーンが挿入し、父の暗い心を表現しているのだろう。

⑦母と父の電話

父は母との電話の最後に「愛してるよ」と言って電話を切った。ソフィが「どうして別れてるのに愛してるよって言ったの?」と質問するシーン。父自身きっとこれが最後の電話になる事を分かって別れた母にこの言葉をかけたのだろう。

⑧スキューバダイビング

スキューバダイビングのスタッフと父の会話。父が20歳の時にソフィが産まれたことがわかり、父の過去が淡く描写されている。父が鬱になってしまうきっかけが過去にあったのだろうと想像できるシーンは他にも幾つか出てくる。

⑨Losing My Religion – R.E.M.

父がお気に入りの歌をソフィがカラオケで歌うシーン。深く刺さる歌詞。父自身を卑しめているよう。

『人生は大きい』
『あなたが言うよりずっと。』
『あなたは私じゃない』
『私が歩む道のりは、あなたの視界の遥か向こう。』
『あぁ、話し過ぎた、余計だった』

⑩手紙

父が泣きながらソフィに向けて書く遺書のようなモノ。『ソフィ、愛してるよ。忘れないで』と。このカットの後、レストランにてポラロイドカメラでソフィと写真に映る。このカットの配置から自分自身の事を覚えていて欲しいという思いを強く感じさせる。

⑪太極拳

父が時折する太極拳。うつ病を患っている人に医師はよく深呼吸を勧める。精神の安定を図る為に繰り返しこの行動をしていたのではないか。

⑫大人

大人になりきれていないソフィを感じさせるシーンが多くある。バカンスで知り合った若者。キスをする宿泊者。父の精神状態を完全に理解できない年齢である事を強調したい様に思う。

⑬フラッシュ

映像の中で所々映るダンスホールの中で悶える父の姿。最初のカットでは1人苦しむ父の姿だけだったが、最終的に31歳になったソフィが彼に抱きつく。当然、空想世界の描写だが、父と同じ歳になり当時の彼の心情をようやく理解できたことを指している様に思う。最後のシーンに流れる曲の歌詞もかなり刺さる。

『もう一度だけ 試せないのか』
『もう一度だけ 愛にチャンスを』
『なぜ愛を与えられない』



『これが最後のダンス』
『これが最後のダンス』
『これは僕たちの姿』

⑭最後のカット

ムービーが終わり、31歳になったソフィが映し出され、画面がスクロールし空港にいる父の姿。スクロールという演出を加えた事により、父は31歳になったソフィを今でも見守ってくれている様に思えた。

最後に

あくまで予想に過ぎないが、1つ1つのシーンに意味がある。1回目はホームビデオを観る感覚で、2回目以降にこの映画の良さを知っていくのがオススメ。監督の実話も入っているだけあって感情をかなり揺さぶられる良作。


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