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バレエ感想㊶「白鳥の湖」パリ・オペラ座バレエ団

パリ・オペラ座バレエ団の白鳥の湖を見てきました。私が行った回は、セウン・パクとジェレミー=ルー・ケールが主演した千秋楽でした。
客席にはかつてのエトワール達が沢山いるとネットで噂になっており、目を皿のようにして探しましたが、アニエス・ルテステュは見つけられませんでした。が!ジョゼ・マルティネスは見つけることができ、相変わらずの格好良さに目がハートになりました😍

プロローグは白鳥になる前のオデットが出てくるのですが、白鳥姿ではなく、王女用のドレスを着たパクさんの歩き方がとてもエレガントで、ものすごくドキドキしました。

パリ・オペラ座のヌレエフ版「白鳥の湖」はビデオやシネマでは何度も見ましたが、改めて1幕を生で見てみるとオペラ座の衣装はクリーム色、薄紫、黄土色、薄いピンクなどをうまく使った不思議なグラデーションが綺麗で、刺繍も凝っており、派手な色ではないのに舞台に華を添えていたことがとても印象的でした。

印象に残ったダンサーが1人いて、コールドの最前列に踊っていたラム・シュンウィンさんです。動きに何とも言えない粘り気があり、あくまでもコールドの1人なのですが、早い音も遅い音もシュンウィン自身が自由自在に操っているかのように見えてとても印象に残ったダンサーです。踊りも上手だし、朗らかで明るくて楽しそうで、これからも注目し続けていきたいと思いました。

1幕を見て私がふと思ったのは、このハイレベルかつ粒揃いの美しさを持つオペラ座ダンサー達の中で、二山治雄さんや中島映理子さんが活躍されてたんだなぁということです。
時代が変わり、以前は考えられませんでしたがパリオペラ座にはアジア人のダンサーがかなり増えました。またアジア人だけではなく、フランスというお国柄もあってか、アフリカ系の方も増えており、まるでロイヤルバレエ団のように色々な人種の方が踊っていたのがとても印象的でした。肌の色が違ってもオペラ座ダンサーのレベルは全員かなり高く、統一感も素晴らしく、やはり世界一のバレエ団だなと思います。団員として踊られている日本人も何名かいらっしゃいましたが、今日本で活躍している二山さんや中島さんがこの中にいたということは、素晴らしいことだと思いますし、この中にいた方が今日本で踊ってくれていると言うありがたみを改めて噛み締めながら舞台を見ていました。

ヌレエフ版は全4幕なので決して短いわけでは無いのですが、休憩は1回と非常にスピーディーに進むのでテンポ良く楽しめました。1幕と2幕の間には休憩がなく、王宮のセットはそのままで背景の模様だけが湖に変わります。

主演のパクさんは出てきた時は、腕で軽やかなふわふわの羽を表現しているかのような感じで、あまりに軽やかで羽のように飛んでしまいそうでした。それだけでなく、踊り出したら彼女の表現力に心を打たれました。白鳥の解釈は色々あると思いますが、パクさんの白鳥は運命に抗えず、すがるものがジークフリート以外ないと言うような悲痛なオデット像だったことが印象に残っています。あまりにも悲惨で痛々しく、とにかくジークフリート以外にすがるものがなく、希望がない絶望的なな感じでした。「私はあなたのほうに行きたい。あなたのほうに引き寄せられたい」と願いながらも、ロットバルトの引力には抗えず苦しんでいる様子を感じました。
さすがだなと思ったのが歩いて出てくる時などにスーッと出てくるのですが、その時の手と上半身がまるで白鳥が皆泳いでるかのように、水面を移動するかのように見えたことです。踊りで白鳥の羽の軽さや、悲痛で絶望的だっただけでなく、歩いて出てくる時も白鳥そのものだったことがとても印象に残りました。
この公演ではパクさんの腕の使い方がとても印象に残りました。フワフワした羽を表現していただけではなく、王子の方に飛ぼうとしている白鳥を表現し、全身全霊でロットバルトを拒否している様子は今でも印象に残っています。

ちなみに今回の舞台では東京バレエ団のダンサーたちがエキストラとして出演していて、来日公演とはいえ、オペラ座の舞台に立てるなんて東バのダンサー達は凄い経験をしているなと思いました。

ただし3幕のパーティーのシーンでは、花嫁候補たちを東京バレエ団のダンサー達がエスコートをしていたのですが、正直ただ立っているだけで演技面が追いついておらず悪目立ちをしていたので、この起用は考えた方がいいと思いました。アジア人がいる事は否定しませんし、既にオペラ座にもいます。出演するからにはきちんと演技面でも訓練をして、オペラ座の舞台に溶け込める水準のダンサーを起用して欲しいと思いました。

3幕では黒鳥オディールを演じたパクさんはとても力強く、視線の使い方が面白いと思いました。
白鳥の時はあまり客席に視線を向けることがなく、上下もしくは王子の方だけを見ていたような気がしますが、黒鳥はとにかく客席にガンガン視線を向けるのです。それによりまるで私たちも悪に加担しているかのような気持ちにさせてくれました。

そして白鳥の時は王子の方に行きたい、王子に縋り付きたくてしょうがないけれども、どうしてもロットバルトの引力の強さには抗えず、王子のほうに行けないと言うような感じでしたが、黒鳥では王子に「こっちに来なさい。もっとあなたはこっち来なさい」という呼び寄せる感じで、王子を引き寄せようとしていたのが印象的でした。オディールのときには王子をもっと引き込もうとしているというような様子が伺え、とても面白い役作りだと思いました。

そして王子のジェレミー=ルー・ケールですが、正直パクさんに比べると印象は弱いかなと言う気はしましたが、美しい見た目にスタイル、間違いなくこれからのオペラ座を担っていく人材になるのでしょう。
正直千秋楽と言うこともあり、コールド含め全員若干疲れていたのかなと感じる部分がありました。コールドの白鳥の最前列の女の子に至っては結婚指輪を外し忘れており、おいおいと思いましたが、まぁそういうこともあります。

パクさんやラム・シュンウィンを始め素晴らしいダンサーもいますが、何かオペラ座の底力としてはもう少し迫力のある舞台を期待していたので、ちょっと肩透かしを食らった感じがありました。ですがとても綺麗でしたし、この回のチケットを買って本当に良かったと思います。

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