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結婚への想いが込められた《ダヴィッド同盟舞曲集》作品6

前回の続きです。

クララに捧げた《ピアノ・ソナタ第1番》をクララの演奏によってその「叫びへのこだま」を聞いたシューマンは、その夜すぐに手紙を書きました。

「苦しみと希望と絶望に満ちた長い沈黙のあとで、この手紙を昔の愛情を持って受け取ってください。
もしも、もう昔の愛が失われていたら、開封せずにお返しください。」

ふみくら書房『シューマン 愛と苦悩の生涯』


封筒の表にそう書かれた手紙が花束とともにクララに届けられました。

「あなたは今でも以前と変わりなく、しっかりとし、誠実ですか。
私はあなたを信じていますが、最も強い人といえども、この世で最も愛する人から全然便りが来ない時には迷いが生まれます。
もしあなたが、9月のあなたのお誕生日にお父様あての私からの手紙をご自分で渡していただけるのでしたらただ「ハイ」と書いてください。
お父様は今では私を良く思っておられるので、あなたがお願いすれば拒絶なさらないでしょう。
『私たちが望んで行動すればきっとそのとおりになる』ということを心にとめておいてください。」

ふみくら書房『シューマン 愛と苦悩の生涯』



翌日クララの書いた返事は

「私はハイと言います。そして私の内なるものも永遠にあなたにハイとささやくことでしょう。
おそらく天命によって私たちは間もなく語り合えることでしょう。
あなたの計画は、私には危険なように思われます。しかし、愛する心は危険をもかえりみません。」

ふみくら書房『シューマン 愛と苦悩の生涯』


こうして二人はお互いに結婚を誓い合ったのでした。
そしてここから1839年末までに二人が交わした手紙は275通にも及びます。

この時のクララからの手紙を受け取って数日後、高揚した気分の中で《ダヴィッド同盟舞曲集》が作曲され、翌年1838年1月にクララあての手紙でこの曲について『結婚への想いが込められています。』と書いています。

18曲からなる《ダヴィッド同盟舞曲集》の冒頭には、クララの作品《音楽のたそがれ》から取られた和音のひとまとまりが使われ、作品全体を統一しています。

(ダヴィッド同盟とは音楽上の保守派に対抗するために結成された、架空の団体のことです。)

シューマンとクララの将来の結婚式の前夜に集まった同盟員たちの様子を描いています。

そしてこの曲集の最初のページには、結婚式のお祝いの言葉のような格言が記されています。

「いつでも喜びと苦しみは結びあわされている。
喜びにあってはつつましく、苦しみには勇気を持って。」

ふみくら書房『シューマン 愛と苦悩の生涯』

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