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音楽と美術の感性には、発生学的な起源?

音楽の好き嫌い、ありますか? たぶん、ほとんどの人にはあるのでは。そしてもし「この曲、どこがいいの??」などと言われたら、かなり絶望的な気分になりませんか。音楽の良さのポイントは(口で)説明しづらい! 

一方、美術などの視覚的なアートの場合はどうでしょう? 好き嫌いは、たぶんある。けれども、「この絵のどこがいいのかわからない」と言われたら、「うーん、そうねぇ、まずはこの緻密な描き込みかな。強いエネルギーや精神力を感じて、すごいよね。あと何と言ってもやっぱりその根底にある、デッサン力だよね、プロポーションの正確さが卓抜。けど、そもそもこういう手法でこのモチーフを描くのはとても斬新な発想で、作家はおそらくひねりを効かせて既成概念に挑戦うんぬん、そのあたりの発想力がなかなか常人ではどーたら」などと、説明や会話がはじまる気がします(※話の中身は想像です)。

このような会話における、音楽(聴覚作品)と美術(視覚作品)の紛糾度、もしくは噛み合いぐあいの違いは、なんなのでしょうか。今日はその理由について考えます。――僕がたどりついた仮説は、「音楽は、美術よりも言語化がむずかしい」からではないか?。さらにはその理由を、発生学的な知見と結び付けて考えるなど試みました。

音楽のほうが、美術よりも言語化むずいのは確か! 

まずは、音楽と美術の言語化のむずかしさを比べてみましょう。

たとえば、弦楽四重奏曲があったとして、その中で登場するある上行形を説明しようとしたら、急激か?緩いか?くらいで、あとは口で旋律を歌わないかぎりは、なかなか具体的に伝えるのはむずかしいでしょう(音楽を想像させるためには)。

ところが、絵や写真の場合だと、何かが立ちのぼっている様子ならば、「右上に向けて、水蒸気がモクモクと立ち上っている」とか、そうではなくて「右上に向け、水流のような太いビームが、ねじりをかけながら高速に放出されている」など、かなり具体的な説明ができますよね。そしてわりと伝わりますよね…?いま、ぼくの思い描いたヴィジュアルが。

このように、音楽は、言葉ではうまく伝わらず/伝えられずに感情的になりやすいのだが、美術は、言葉で伝えやすいので理性的な会話が成立しやすいのではないだろうか。

その理由を、発生学的に推測する

このような、言語化のむずかしさや簡単さの違いというのは、じつは、おのおのの感覚を人間が獲得する時期によって違うのかも? …もちろん単純には、遅くに成熟する感覚ほど、言語化が容易なのではないか、と思われるわけです。なぜなら、ことばと結びつきやすそうだから。
――つまり「音楽のほうが、より感覚的な芸術であり(←聴覚の原始性のため)、逆に美術は(視覚で対象をとらえるのがやや後天的能力なので)言葉による説明がしやすい≒より理性的な芸術」なのでは?? 

そこでまず、感覚が成熟していく様子を、補遺として下にまとめました。[1]からの引用です。

それを見ながら、成熟する順に五感を並べてみると… 触覚、味覚、聴覚と嗅覚、視覚、の順のようです。やはり、聴覚(と嗅覚)のほうが、視覚よりは成熟が早いらしい。

ところが、チェックのためにほかの感覚も全部見てみると、たとえば触覚は、成熟がいちばん早いのにけっこう言語化できることに気づきます。そうですね、「左腿の裏をタワシでうすーくこすられている」とか、「右肘をゴム製トンカチみたいなのでコンコン叩かれている」とか、「首の後ろが焼けるように熱い」とか。かなり伝わりますよね? 

というわけで、言語化の難易度を成熟の順番に結びつける仮説は、残念ながら棄却されました。(なんやねん 

そのかわりと言っちゃなんですけど、むしろ発生が早い感覚のほうが言語化は容易かも?、と思い始めました。視覚、触覚、嗅覚と味覚、聴覚、の順です。――視覚と触覚の言語化はすでに説明しましたよね。そして味覚は、甘さ・しょっぱさ・苦さ・辛さ・酸っぱさ・うまみ・食感、に分解すれば、けっこう説明できる。嗅覚もけっこういけます…まぁゆずの香りの説明はかなりむずかしいですけど。そして最後に、聴覚の果てのないむずかしさ。

どうでしょう?? 

まとめにかえて

まあこのように、科学というのは、仮説をつくっては壊しつくっては壊しするものです。以前も話に出ましたが、「科学理論とは暫定的な仮説にすぎない」という指摘は、ここからきています。

今日の話は中途半端ですけれど、このへんにしておきますね。いまいち確かめ方がわからないし…。ただ、感覚の種類によって言語化が簡単/むずかしいの違いがあることだけは確かだと思います。

今日もおつきあいありがとうございました。サイエンス・エバンジェリスト、かのわさびでした。


補遺: 感覚の発達のようす

以下に五感の発達の様子をまとめます。すべて[1]からの引用要約。 

1. 触覚(※7~8週ごろに形成、9週ごろにはできあがっている) 

触覚は五感の中で一番早い感覚としてあらわれ、妊娠7~8週頃には口元の刺激に対して顔を向ける反射を示すことがわかっています。妊娠9週頃には手足の感覚ができあがっているため、足裏に物が当たった感覚に対して足の指を丸める動作が見られます。…… 

2. 味覚(※14~15週ごろに形成、32週ごろに成熟) 

舌乳頭ができはじめるのは妊娠7週頃からで、妊娠14~15週頃には味蕾が形成され、味覚を感知する能力が発達します。妊娠8ヶ月頃になると、胎児は味蕾が成熟し、味を識別する能力を身に着けているという研究結果もいくつか報告されています。

3. 嗅覚(※12週ごろに形成、28週すぎに機能し始め、生まれたときには成熟) 

鼻の初期は口と咽頭とつながって発生…… 妊娠4週の終わりから5週にかけ鼻の隆起が始まり、鼻腔が形作られていきます。12週頃になると鼻孔があき、胎児の顔面は生まれるときの外見に近づきます。鼻の形が作られた後、鼻腔の奥では嗅細胞(きゅうさいぼう)が発達してきます。嗅細胞が成熟し、においをかぎ分ける機能を持ち始めるのは妊娠7ヶ月頃から10ヶ月頃にかけてです。生まれてくるときには嗅覚が成熟している

4. 聴覚(※16~20週ごろに形成、28~31週頃に機能し始める) 

音を伝える耳小骨が成長をはじめるのは、蝸牛が完成する妊娠16週頃から20週頃にかけてです。内耳が完成した後、音を認識できるほどに脳が発達すると、胎児の聴覚も目覚めます。妊娠週数で言うと、28週から31週頃になります。この時期には、外からの音の刺激に反応するように赤ちゃんが動きます。 

5. 視覚(※ほぼ形成されるのが8週ごろと早いのだが、機能の完成は一番遅くて、生後) 

眼球……の組織は、妊娠超初期から段階を経て徐々に形成されます。……そして生後も発達…… 着床し妊娠が成立するころには、「眼溝(がんこう)」と呼ばれる溝が出現します。視覚器は3~8週に急速に発達……8週頃には、私たちが認識している「眼」の形がしっかりとできあがってくるのです。[いったんまぶたを閉じて]28週頃までにまぶたが開き、まばたきする仕草をみせてくれます。この時期に、光を当てると目を閉じる「瞬目反射」があらわれます。一方で……形や色を識別する細胞は生後2ヶ月を過ぎてからはたらきはじめます。見え方を大きく左右する黄斑部(おうはんぶ)は生後半年たってやっと完成します。視力が1.0になるには、3歳頃まで時間を要する

参考文献: 

[1]赤ちゃんの視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の不思議な発達!「お腹の中でもわかるよ!」 | ままのて (2018/10/30)。



理数系の教養は国力の礎。サイエンスのへヴィな使い手の立場から、素敵な科学の「かほり」ただよう話題をお届けしたいと思っています。