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映画「いつくしみふかき」リピートしていくとどのように感想が変わっていくか(ネタバレあり)

先日のテアトル新宿での最終上映を観た。5回目のいつくしみふかきだった。スクリーンでちゃんと見るのは、思い出す限り3回目。観賞後帰宅して思わずnote IDを作成するくらい、今回のいつくしみふかきは、衝撃的に面白かった。まずは1回目の視聴から感じたことを振り返っていく。

初回、2回目は「映像美と物語」を楽しんだ

1回目は、編集段階(8割完成)のいつくしみふかきデータをうちのテレビに繋いで、大山監督と脚本家のふみやさんと一緒に見た。その時はただただ、インディーズ映画だなんてにわかには信じられないような映像クオリティの豪華さと、ラストシーンのエモーショナルさに驚き、感激した。この人たちと知り合っておいてよかったと思った。上からタライが落ちてくるような演劇を作ってきた人たちの作品とは思えなかった。

2回目は清Pの家のテレビ(うちよりデカい)で完パケを観た。初見では心情が追い切れなかった「浩二」「義孝」の抱えていた思いを理解し、より深く物語を味わうことができた。

特に浩二なんか、なんて切ない役なんだろう。

↓ここからネタバレまみれになります↓

1回目の感想は「なんで殺しちゃうんだよこいつ!」だったんだけど、2回目は「家族みたいだと思っていたもの」に引き金を引くまでの彼の物語をちゃんと追って行けた。(一回では親切に説明してくれないけど、追ってみると筋が通っている、というのがこの映画の不気味な魅力である。)

何より、父広志の見方が変わった。1回目は血も涙もないクズ人間として見てしまうのだが、物語を最後まで知った上で見る2回目からは、胸がキュッとなるシーンが格段に増える。オムツを見て手が止まる瞬間、アリサの「お父さんがいないなんて可哀想タヨ」に対するキレ、アリサの家で机に向かう姿(あの広志の姿が一番「お父さん」っぽい)。進一と会話をする広志のつっけんどんさ、歯切れの悪さ、落ち着かない表情のなかに「子供に対しての戸惑い」があるように感じた。そして舞台挨拶でも監督が触れていたが、最期の「生きたい」。

あれは死への恐怖ではなく、今まで生きてきたどんな一日よりも明日が楽しみだったということなんだ。

3回目は「テーマ」を考えた

3回目は忘れもしない、初めてスクリーンで見た夕張映画祭だった。お客さんに初めて見てもらっているという感動もあったが、それも合間ってかこの日のいつくしみふかきは格段に面白かった。

テーマというと勿論「親子」ということなんだけども、でも3回目にして新しく感じたのは「これは過去に固執している人たちの話だ」ということだった。(当時はそう感じたが、もっと良い言い回しがありそう。タテタカコさんでいうところの「どうして僕の心は何かに縛られているんだろう」みたいなことなんだけど)

一丸となって一人の青年を村八分にする村人達や、悪い血がと狂ったように泣き喚く加代子、あの手この手で進一を陥れる義孝の行動原理。平穏に生きている私たちには一見理解し難いほどの「そこまでさせる何か」。また、その中で生きてきた進一そのもの。

その正体が「排他的な村だから」ではなくて、「過去への固執」なんじゃないかと思ったのだ。過去の広志に固執し、恨んでいる。みんなが、うまくいかないのをずっと広志のせいにしている。そうやって進まないでいる。

そんな仮説をクローズアップさせながら映画を追うと、大ラス、進一がバスを降りて歩き出すシーンが更に胸を打って映る。過去への固執(「時間が止まったまま」の状態)から、抜け出して歩き出す姿だ。

だって、どうだろう、これまでの進一の行動原理だったら、「よりにもよってこんなタイミングで死にやがって、俺の人生はやっぱり最悪だったんだ。結局何をしても報われない。あいつのせいだ」と不貞腐れて母に守られながら逃げ回っていたかもしれない。(今思ったけど、浩二も最後「全部あんたのせい」と言って広志を殺すんだよなぁ)
しかしもう違う。この後進一がどこに向かうかは語られていないが、どこに向かおうと、前とは決して違う。

何よりも、進一が歩く方向がバスの進む方向と一緒、っていうのがいい。
人のせいにしていた頃に後戻りをしないという意味でもそうだし、目的地がそっちなのなら、バスに乗ったままの方が絶対にいいのに、現に、バスは早々に進一を追い抜いて走って行ってしまうのに、でも進一は、自分の足で歩いている。それがいい。
行き先は変わらないかもしれない。到着が遅れるかもしれない。それでも、小さな、アリ一匹くらい小さな非力な人間の、結局また報われないかもしれない未来へ向かっての、非効率的な「歩く」に生命力をめちゃくちゃ感じる

あと細かいけど、「バス降りた後一回止まる」あそこの1秒がこの映画の中で一番好き。

4回目は「外側」に気付く

4回目は知り合いと一緒にテアトル新宿に観に行った。正直な話、この時期はLINEスタンプを作る為に映像を資料として何度も観ていたので、新たな気付きは特別多くなかった。コロナ禍にスクリーンで観れたのは嬉しかったが。

この回でやっと気が付き震え上がったことは一つある。加代子の家族の中ではずっと義孝に目が行っていたのだが、実は加代子の父と母がめちゃくちゃ陰険じゃないか、ということだ。義孝は笑顔で嫌味をいう。その後ろで、お爺ちゃんお婆ちゃんは何も言わないで、ただ睨みつけている。前者と後者、逼迫しているのはどちらだろう。よく考えてみれば、「姉ちゃんを裏切った」と「我が子を裏切った」どっちの恨みが強いだろうか。今まで気づかなかった分、ゾッとした。

余談だが私の母は一回観ただけで、義孝や村人達が進一を追い出そうとする心理について「リニア開発を見据えていたから」と推測していた。なるほど、すげぇ。

ちなみに、実は自分の中では3.5回目の鑑賞なるものがある。これはLINEスタンプの時のように鑑賞を目的として観た訳じゃないから例外の勘定なんだけど、少し触れさせてほしい。ロケ地長野県飯田市での先行上映に向けて、深夜に映画館でサウンドチェックをしていた。その時に初めて、「あの完全版のエンドロール」がスクリーンに流れるのを観たのだ。嗚咽を漏らして泣いた。あれはとんでもない光景だった。山頂まで登ったものにしか見えない絶景のようだった。

5回目は「解釈を膨らませる」

さて、ここからである。

5回目は、製作者側が意図しているかもわからないところまで深掘りして楽しみ出してしまう領域にまで来た。鑑賞時の私のコンディションがたまたま仕上がっていたのかもしれない(東京上映ラストの日だったという思いもある)。最近ハマって観ていたピース又吉のYoutubeチャンネル「インスタント・フィクション」シリーズが面白かったのでその影響を受けていたせいな気もする。

①川を流れる進一

冒頭10分間、加代子が分娩室で悲鳴を上げている中、浩志のとんでもない裏切り、家族や村人たちの怒り、暴力、とんでもなくシリアスで痛々しい場面がド派手に展開され、オーケストラの盛り上がり絶頂のところで「いつくしみふかき」のテロップが入る。

そしてその直後、長閑で美しい川の流れと共に全裸の進一が下流に流されていくあのシーンに切り替わる。あれが「あの時産まれた子はバカな子に育ちました」の説明のための笑えるシーンだと、思ってはいないだろうか。

あの川は産道だ。進一の出生時、周囲は、まさに冒頭のような騒動の真っ只中だった。産道をくぐり抜け産声をあげた時、彼は誰からも歓迎されなかったのだ。だから、体だけ大きくなった今でも、何か逃げ出したいことがあると、服を脱いで息を止め産道(川)に流されて、「もう一度産まれたら今度こそ祝福されやしないか、歓迎されやしないか」と、一人繰り返しているのである。おそらく日常的に。

加代子が口にする「大きい赤ちゃんだな」とは、まさにそういうことなのだ。彼には産まれた実感がないのだ。

ちなみに、これ言っていいのかわからないが、脚本の初稿?では、凛が「いつまでやっとるんな!」と言って進一にキスをするシーンは、当初は川に飛び込んで行われる設定だったらしい。(その後色々改定されていくうちに、その設定もなくなった)…となると、その飛び込んだ川も産道だ。その展開もアツい。

②シーツを畳むという作業

源一郎の企みにより進一と広志が教会で親子と知らず共同生活していく。ついに親子であるということがわかり、進一は当然戸惑い、広志を受け入れようとしない。

家事雑用を続けながら、進一が広志に「許したわけではない」と話すシーンがある。その時に二人が畳んでいるシーツが、いいアイテムになっていると思った。シーツはどう考えても、2人で1枚を畳んだ方がいいからだ。進一と広志はそれぞれが一枚ずつのシーツをやりにくそうに畳んでいる。おそらくこれは意図された演出なんじゃないかと思う。もしこれがタオル的な何かだったらこの妙な味は出ない。シーツは、二人がお互いのことを(客にも)いやが応にも意識させてしまうアイテムだ。二人のつながりの歪さが浮き彫りになる。

③父が息子を抱きしめる

進一と広志の初めての接触は、「モップ越し」である。ソファで寝ている進一は広志に無情にもモップを使って叩き起こされている。(そんな広志が、源一郎に「金持ちの息子でな」と言われた途端手のひらを返して優しく肩をゆすり起こすのは面白い)

二人が直接触れ合うのは、あの駐車場のシーンである。広志が浩二にボコボコにされ血まみれの状態で、親子関係を拒否する進一に対して「お前にも同じ血が流れてるんだに?」と悪魔の誘いのように抱き寄せて自分の血を塗りつける。

あれが生まれて初めて広志が進一を抱いた瞬間なのだと思うと、総毛立つ。だって、進一は生まれたその日に父親がいなくなっているから、父親に抱き上げられたことがないのだ。

で、生まれて初めて父親に抱かれた進一はどうするかというと、「首を絞める」。悪魔の血にまみれて。なんという「親子」の表現だろうか。もともと物凄いシーンだけど、そう考えるととんでもなく残酷なシーンである。殺せ、と囁くのは、俺と同じところに来い、というねじ曲がった思いなのだろうか。

▲奥にあるのが川?だとしたら夢想と残酷な現実のコントラストだ

④凛の感情

完成当時、大山監督が話していたことで印象的だったのは、「俺は全部の登場人物の気持ちが説明できる。唯一わからないのは、凛が泣き出す感情。」というようなことを言っていたことだった。私も、たしかに言われてみれば、あのシーンはわかるようでわからない、と思っていた(私は凛以外の人物の気持ちも全然説明できないが)。だが、今回は少し捉え方が違った。

「いつまでやっとるんな!」のあの涙は進一への叱責でも、全力の慰めでもなく、女のヒステリーと捉えてもいいんじゃないかと思ったのだ。

職場では気が強く絡みづらい上司なのだが、その日の凛はひどく緊張している。恋人の実家に初めて挨拶に行くからだ。頑張って気を使って、お母さんにも気に入られて、進一に「来てよかった」と囁きかける。ひとときの二人だけの世界である。とんでもなく至福な瞬間だったはずだ。

だが、その時の至福の凛を進一は取り合わない。目の前の凛ではなく、過去を観ている。おめかしして普段着ないような女性らしい服を着た私が、目の前にいるのに、だ。

進一のクローゼットに貼られている張り紙をめちゃくちゃに破り、「いつまでやっとるんな!」と泣き叫ぶことは、作品にとって、進一にとってとても重い出来事のように見える。進一が辛いものを抱えていればいるほど、それは力強いメッセージのように感じられる。だが、あれはただの女の子のヤキモチであり、ワガママでいいんじゃないか。でなければ、進一はキスされた時にあんなにすぐに凛の背中に手を回さないと思うからだ。「凛、ありがとう」ではなく、「ごめん、わかったわかった」なのだ。いちゃつきだ。いい話だ。

つまり、大山監督が「凛のあの時の気持ちがわからない」と言っていたのは、単純に「ああいうときの女の気持ちってわからないわ〜」という意味だということになる。全女に殴られたらいい。

⑤広志は極悪非道なのか?

最後に、広志という男について、「次に観る機会があればこんな風に物語を追ってみたいな」と思うことがある。

広志は極悪非道の詐欺師として描かれている。「悪魔」と呼ばれているくらいだ。実の子が生まれるその日に金を盗んで逃げようとするし、我が子のように可愛がっていた(ように振舞っていた)浩二をいとも簡単に手放す。全く改心する様子もなく、裏切りを繰り返す。

しかし先にも触れたシーンだが、何年も不動産の家賃を払っていながら、息子と再会した時には何も言わず、目も合わせず、無骨な態度で帰る様子、その要所要所に感じられる「戸惑い」を見ると、「あれ。」と思うのである。

これしかできない人なんじゃないか、と。向き合い方がわからないんだ。したいこと(息子と不動産)があるのに、伝え方がわからない。不器用。不完全。

最初から裏切るつもりで近付いたのだとしても、わざわざ子供が生まれるその日を裏切る日に選んだことには、何か理由があるんじゃないかと思うのだ。いよいよ今日、自分の子が生まれてくる。もしかしたら、子供から逃げ出したんじゃないかと。それを単に極悪非道と片付けて本当によかったのだろうか?

性善説か性悪説かみたいな話しだが、そういう視点でまた見返してみるのは面白そうだ。

さいごに

リピーターが多いことで評判の映画「いつくしみふかき」。10回、20回と観ている人もいるそうだ。観るたびに味が代わり、そして絶妙な緩急によって「何度見ても飽きない」のが魔法みたいにすごい。もちろん、人それぞれ捉え方は違うし、見る人によって、しかも見ている人の状態によってさえ、感じ方が変わるのは面白い。

残念ながら、テアトル新宿アンコール上映は終わってしまいました。また東京で見られるのかな、と思っていたのだけど、ここで朗報です。

2020/12/26(土)11:00〜
秋葉原UDXシアター

にて1日だけ上映されるようです。この記事を読んで「もう一回見たい」と思ったなら、これは相当なチャンス。早く席取っちゃえ!

チケットの予約はこちら

【東京都:12/26上映】
「いつくしみふかき」復活上映!!@秋葉原UDXシアター:ドリパス
https://www.dreampass.jp/e2819

その他、全国の上映情報は公式HPをご覧ください。

あと、先ほども触れましたが「いつくしみふかき」のLINEスタンプを作りました。映画の名シーンが日常で使えます。この記事をここまで読んでくれたような強者は、まだ買っていないなら絶対に買うべきです。

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売り上げの一部が映画活動費に当てられます。

おしまい。自分の出てるシーンについて一切触れてないのがいいでしょ。あそこだけ「一回見たらいいわ」っていう、うっすいシーンだよね。

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