私の好きなひと その1 杉良太郎さん

 保育園児だった頃、母親によく言われたことがあります。

「杉良太郎は、中年の女性が好きになるものなのに、どうして保育園児のあなたがそんなに好きなの?」

 そう、私の初恋は杉良太郎さんでした。

 当時、杉良太郎さんは「杉さま」と呼ばれ、中年女性に人気でした。漫画『パタリロ』にも、「杉さま」のチケットに興奮するおばあさんがパロディとして描かれていた程、「杉さま」のファン=中年女性と認知されていました。そのため、母親が危ぶむのもむべなるかな、です。

 そして、私が初めて歌えるようになった歌謡曲は杉良太郎さん主演の時代劇『遠山の金さん』の「すきま風」でしたしね。

 当時から、周りから浮いた子だったのでしょう。

 「杉さま」の影響なのか、私の元々持って生まれた嗜好なのか不明ですが、後年私が好きになるものの原点が「杉さま」には、ありました。

 まず、男性の顔の好み。

 杉良太郎さんのように、目が切れ長であごの尖った三角形の顔の形。

 その後、好きになる人はほとんどがこのタイプでした。

 俗にいうイケメンでも、この法則に当てはまっていないと、好きにならないし、カッコいいと言われてない人でも、この法則に当てはまっていると私にはカッコよく見えるんですよね。

 例えば、私にとっては、小栗旬より、「スプーンに写った小栗旬」と言われる粗品の方がかっこいいのです。

 次に私の「萌え」ポイントが「窶し(やつし)」なこと。

 「窶し(やつし)」というのは、「本来の身分を隠してみすぼらしい姿にすること」、「姿を変えること」といった意味があります。

 大学生になってから、私は歌舞伎にはまるのですが、好きになるのは女形の役者さんばかりでした。男の役者さんが女に身を窶すということにときめいてしまうんですね。

 保育園児の頃、杉良太郎さんのドラマをほとんど見ていた筈なのに、内容を覚えているのは、『遠山の金さん』、『大江戸捜査網』の二つ。

 主題歌を覚えているので『新吾捕物帳』、『江戸の黒豹』も観ていた筈ですが、内容の記憶はないのです。

 『遠山の金さん』、『大江戸捜査網』はいづれも普段は町民に身を「窶し」ているのが、いざという時はキリッとしたお武家さまに変わるというという点が私の歌舞伎の女形に夢中になった原点な気がします。

 まぁ、こんなに影響を受けた杉良太郎さんなのですが、学生時代はちょっと、見くびっていた時期もありました。

 その見くびりが終わる時が来ました。

 社会人一年目の頃、友人から杉良太郎さんの舞台を一緒に観に行かないかと誘われました。貰いもののチケットということで、「タダならいいか。子どもの時、好きだったし。」と軽い気持ちで観に行きました。友人もチケット貰ったからそんなに興味がないけど、行ってみようかなという感じでした。

 結果、二人とも大号泣でした。

 演目は『無法松の一生』。友人も私も題名は知っていたのですが、内容は全く知らなかったせいもあるとは思いますが、ラスト、無法者と言われた松が死んだあと、彼の無償の愛が分かり、そのことを畳み掛けてくるように他の出演者が叫ぶ演出(演出も杉良太郎さん)に声をあげて泣いてしまいました。

 その後、坂東妻三郎さん主演の映画版も観る機会がありましたが、ラストの畳み掛けはなく、これは杉さまオリジナルのようでした。

 そんなに興味なく観に行った人間二人を、号泣するほど感動させる芝居と演出ができる「杉さま」を好きになるなんて、保育園児の私、母親には心配されたけど、見る目があったじゃん。

   


 

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