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静物画、という空間

お初にお目にかかります。鹿の子といいます。

本当は別の文章でnoteデビューしようと思っていたのですが、今日観たとある演劇作品が胸の中でザワザワと残り続けており片思い中さながらの落ち着かなさを感じているので、いつも通りの心に戻ってしまう前に感じたことを文章にしてみることにしました。

作品の名前は「静物画」。
作・演出は戯曲家であり小説家の柳美里さんです。

高校の文芸部が舞台のこの作品に出演する役者の方々は、実際に殆どが現役の高校生。
作中もずっと制服を身に纏い、教室の中で各々の机に腰掛け、時に黒板に向かう彼らの姿から久々に感じる「学校」の雰囲気に何とも言えない懐かしい動悸を感じるような気持ちになりました。
それぞれどちらかの性別の生徒しか出演しない「男子版」と「女子版」に分かれた演目のうち、今回は「男子版」にお邪魔したのですが…

私がこの作品を観に行ったきっかけはあまりにも単純で。
役者の方々の中に、自分の幼馴染がいたからでした。
といっても、少し距離の離れたところに住んでいるので今回会うのは本当に久しぶり。

小学校3年生から家族ぐるみでお付き合いをしている幼馴染一家の3人兄弟(優しい長男、エネルギッシュな次男、素直な長女)が私は大好きで、9歳(!)の頃から毎年のように一人で新幹線に乗って彼らに会いに行っていました。

私と長男が高校生になる頃には段々三兄弟は彼らなりに、私は私なりに忙しくなってきて、段々と会う頻度が減って行く中で、
「次男が高校で演劇部に入った」
というビッグニュースが我が家に飛び込んできたのが、一昨年のことです。

小学生だった頃の彼は結構血の気が多いイメージで、長男とボッコボコの喧嘩をしているところを(年に1回しか会わない私が)何度となく見ていただけに、まさかこの人が文化部に、演劇に足を踏み入れることになるとは…!と驚くと同時に、いつかこの目で彼のお芝居を見るぞ!と決めていました。


つまり今日はそんな数年越しの夢が叶った日だったのです。
だからある意味、劇中は10人程度の役者の中で彼を贔屓目に見てしまうだろうなと思っていました。

でも実際に劇が始まると、まあ俳優の方々が一人一人魅力的なこと。
お芝居を観ている、というよりも一人一人の実在する高校生たちの一日を(どういう訳か)文芸部の部室の隅っこから覗かせてもらえているというような感覚でした。

覗き魔の私たちにはピンと来なくても、彼らの中では定番の暇つぶし遊び。なんか部活の中の誰かが張り切って突然始まる部活の朝練。いきなり先生が様子を見に来ちゃったりして部室に一瞬走る緊張。他愛もない会話。

そんな愛おしい場面の中でも多くの人が釘付けになったであろうシーンが、幼い頃のある一日の思い出を部員一人一人が語るという箇所。

それは彼らが小学校3年生の、とある春。金曜日のこと。
私の幼馴染の彼を含めた彼らは、その日、別々の町にいました。
福島県の中の、どこか小さな町に。

ついこの間、その日から8年が経ちました。

福島、東北、これらの言葉はあの日から部外者によって「記号」にされてしまったけれど、実際は「福島の人たち」「東北の人たち」なんてとても括れない別々の、生々しい経験が彼らの中にはそれぞれ刻み込まれています。

一人一人の口から絶叫の如く吐き出される、故郷の名前。
福島県~市、以降の住所なんて、ニュースでは読まれることはありません。
だからこそ耳にすると、「~町」「~郡」といった語句が心臓にズブズブ刺さってくるんですよね、本当に。

津波を経験した人、そうじゃない人。
原発が近くにあった人、離れていた人。

住んでいた町によって全部違う。安易に彼らを一括りにすることなんて、本来誰にも出来ない。

三兄弟の家は津波にも、放射能にも呑まれませんでした。
そのことを知った時はもう安堵で崩れ落ちたのを覚えています。
だから「よかったね」とかそういう話では全くない、全然よくない。
それでもただ、生きていてくれたことが、どんなに東京の人間にとっても救いだったか。

2011年の夏にいつも通り彼らの家に一人で泊まりに行って、車に乗せてもらい、朝ご飯としてラーメンを食べに行く道すがらに見た、道路の真ん中に乗り上げた船のことを思い出しながら、その場面をじっくり観させて頂きました。


それと同時に描かれるのが、思春期のいのちのこと。
誇張表現としてごく自然に「死」という言葉を普段口にしながらも、身体は力に溢れ、目いっぱいに「生」を営もうとする矛盾を生きる時期。

学校と家を往復しているうちに一日、また一日と削られて失われていくような若さと青春。そして薄っすらと遠くに、時々近くに見える人生そのものの終わり。
高校生の時、まさにこういうことよく考えてたなあと思い出します。

そして何よりも、物語の中心に一人で佇む高校生「はる」が、性別、生死、集団と孤独の間をふわふわと漂う姿の美しさが印象的でした。

劇中で表れる、胸がいっぱいになるような純愛、誰にも言えない秘密、幼い頃の思い出全てに死が絡みついてくることの生々しさ。甘美とも言えてしまうんじゃないかというくらいのあの感覚は、舞台に足を運んであの空間に居合わせないと体感できないんじゃないでしょうか。

劇が終わる頃には役者の高校生の皆さん一人一人が家族のように愛おしくさえ見えてしまったのは私だけではないはず(セクハラとかじゃないんです…本当なんです…許して…)

この傑作を生みだした柳美里さん、演じきった役者の方々、裏でそれを支えたすべての人たち、誰よりこの作品と出会うきっかけをくれた次男の彼に最大の敬意を表します。

明日、当日券あるみたいです。
忘れられない日になることは私が保証するので、これを読んでくれた方で可能な方は足を運ばれることを強くお勧めします。再演の予定は今のところ発表されていないので…

青春五月堂「静物画」公式HP、Twitter
http://gogatsutou.info/index.html
https://twitter.com/gogatsutou

稚拙ながら今日中に文章に出来て良かった…読んでいただき本当にありがとうございました。おやすみなさい。

鹿の子

スキすると鹿の子の無責任占いがついてきます