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トーハクで震えた話「焔」上村松園

昨日は東京国立博物館で開催中の「やまと絵」展に行ってきたが、今日はそのトーハクの思い出を語ろうと思う。

1996年、渋谷Bunkamuraで開催された上村松園回顧展を観に行った。松園の代表作が網羅された見応えのある展覧会だった。ただ「焔」の展示期間が終わっていて観られなかったのが心残りだった。
「焔」は、源氏物語に登場する嫉妬に狂う六条御息所の生霊を描いた、松園には珍しい負のオーラを放つ異色作だ。所蔵は東京国立博物館。ただ所蔵はしていても普段展示しているわけではない。いつかまたどこかで松園展が開催されて、観る機会があるといいなと思っていた。

その後私は出産、子育てで美術館からはすっかり遠ざかった。お出かけといったらもれなく子ども連れの、子どものためのお出かけだった。
子どもが成長して一緒に美術館にも行けるようになった頃、今度は自分が更年期で常に具合が悪く、どこにもお出かけしない日々が続いた。
ようやく更年期が明けて、お出かけする気になってみると、更年期前と違って子連れじゃなくていい、一人で出かけられるということに気づいた。
そんなタイミングでTwitterから「東京国立博物館で今、松園の「焔」を展示している」という情報が飛び込んできた。

「焔」を観たいと思ってから、いつのまにか20年以上の月日が経っていた。
2018年5月28日、国際博物館の日で無料のトーハクへと向かった。もちろん上村松園の「焔」を観るために。
ずっとずっと観たいと思っていた。
展示室に入ると、広い空間の向こうに、「焔」がいた。



他に誰もいなかった。
松園展なら人だかりになっているはずの「焔」の前に、誰もいなかった。

上村松園「焔」

独り占めだった。
穴のあくほど眺めた。
描かれている「怨念」とは真逆の「浄化」を感じた。


生涯忘れない、トーハクの思い出である。

東京国立博物館


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