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すべて忘れてしまうから

先日、いつもの友人3人で夜のパトロールをしていた時の話。
みんなの都合があった土曜の、たいてい18時集合で宴がはじまる。
一軒目は、市役所職員の彼が市中での評判を聞いて予約してくれた地産地消が売りのお店のコース料理。
二件目は、新しく開店すると噂を聞いていたセルフ式のパブ。
三件目は、バーでお洒落な飲み物を軽く流し休憩。

すっかりできあがった我々は、誰からとなくカラオケがしたくなり、以前に行ったことのあるクラブへと足を向けた。
その店舗は一階で、食べた後おしっこが黄色くなるラーメン屋の奥隣りに位置し、ビルの二階ではよっぽど盛り上がっているのか歓声が階段の下にまで漏れ聞こえてきていた。
入店の可否を確認し、ドアが開いて中に通されると、唯一のキャストであろう2名のフィリピン系女性が明るく声を掛けてくれた、30~40人は座ることができるであろう店内も、コロナが明けたとはいえまだ客足が戻らず閑散としていた。

あれはコロナ時代が到来する前の12月の週末。我々は忘年会と称してフグのコース料理に舌鼓を打った。
美味しい料理で、ついつい日本酒へと手が伸びてしまい…ぐずぐずラストオーダーまで粘った末ベロベロとなり、このクラブに流れついた。
初めてのこの時は、こんな寂れた街にしてはたくさんの若い女の子がいて感動した。
日本やハーフのキャストたちが、いやらしすぎない絶妙な加減の胸元とミニスカート丈の何とも男心をくすぐるポップな衣装に身を纏い、男の欲望とともに交互に模様をつくっていた。
クリスマス前の雰囲気も手伝い、店は満席で、我々の後の客は入らずに断られていた。
私がback numberの熱唱で拍手をもらっていた頃、不意に我々の腰かけた席の少し離れた向かいの席から、瓶ビールが2本差し入れられた。
後で聞くところによると、主は『健さん』という。市役所の友達の消防団の大先輩。50代独身で、ゴリけんさん似のナイスミドルだった。


時は戻り、かつて華やかだったのが嘘だったかのような店内の薄暗い省エネ照明の中に先客が一名あることに気づいた。
目を凝らすと、数年前、我々にビールをおごってくれた時と同じ座席に、
健さんが変わらず飲んでいた。

二日酔いの床の中、燃え殻さんのエッセイみたいな出来事が、何だか温かかった…。



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