椅子が倒れる家
今にして思うことだが、長女は本当に手がかからなかった。一人遊びが上手だったし、お気に入りの本なんかは飽きずに何回も眺めていたものだった。ところが、2歳になったばかりのB型の次女は、すぐに違うものへと興味が移り、じっとしていられない…つまり猪之助タイプなのだ。
普通の幼児であれば、転んだりぶつけたりして泣き出すような衝撃にも5回までは耐えられるという強みがある。アクションゲームなどでいうところの5機(×5)なので助かりはする。ただ困るのは、マリオやルイージと同じようにモノに上ってしまう特性である。食卓の椅子。ピアノの椅子。姉の勉強机の椅子。はたまた、おもちゃや荷物を倉庫番のように引きずってきてはそれにも上ってしまうという登山家の本能をこの子は持ち合わせていた。だが、残念なことにこの未熟なアルピニストは下山をすることができないし、大抵、「子供の手のとどかないところ」というのは、小さな子供にとって禁忌が置いてあったり、ご家庭にとって大切なものや貴重品が置いてあることも多い。
そこで、我が家では、次女の足場となりうる椅子に関して、使用後には必ず倒すべしというルールができた。しかしなかなかどうして、これが忘れてしまうもので私は何度も長女や奥さんに指摘されるのだった。
先日、寒くなってきたこともあいまって、水炊きをすることとなった。土鍋をガスコンロにかけて、夕食を愉しんだあと。私は、またもややってしまった…。自分の食器をシンクに運んだところまでは良かったのだが、椅子を倒し忘れていたのだ。
500mLの缶ビールを片手に、うちにしてはやけに静かだなぁと振り返れば…織田裕二でも石黒賢でもなく。次女が倒していない私の椅子を見つけた!ところ。まさにその瞬間だった…。食卓の上には、まだ土鍋が不安定なコンロの上で絶賛、湯気をたちのべている。
「駄目ぇ―!!」と大きな声をだす私。
洗い物をしている奥さんと、テレビを見ていた長女が異変に気づく
私と次女の間にはソファーが立ちふさがっている。
椅子に手をかける次女。
みなが固唾を飲む中、
コ・ト・ンと倒れこむ椅子の背。
どうやら次女のあたまの中では「椅子はのぼるもの」→「椅子は倒すもの」へとアップデートがなされていたらしい。
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