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嵐のあとのニノ

 先日、小2の娘が奥さんにあまりに一生懸命話していたので、耳をそばだてていると、どうやらその日の給食に並んだ「からし和え」が、教室の近くの男子のトイレで吐かれた状態で発見されたことを受け、学級で犯人探しをされている…という内容だった。

 そういえば小6の時分、ある事件があったコトを想い出した。小学生時代、一番仲の良かったサッチの家は、小学校の真ん前にたたずむ「しみず屋」という駄菓子屋さんだったため、我々は学校中でも一番に下校し、お互いの家に上がり込んでは暗くなるまでファミコンをやり倒す仲だった。

 残念ながら小4になる際のクラス替えで別々の組になるものの、二人の家族ぐるみの関係はそうかわらなかった。私の担任がアラサーの女性の教師だったのに対し、サッチの担任は「このたぁけ‼!」が口癖の大柄な男で、例えば苦手な女の子の座布団を指でつまむような男子生徒がいれば、容赦なく鉄拳の制裁が下り、その彼の身体は教室の端から端まで吹っ飛んだという。きっとサッチもうちの娘同様にこの惨劇をおうちの人に事細かく報告したことだろう…。それからというもの、我々民たちからこの絶対的な力は世紀末最強の拳法になぞらえ『北斗神拳』と言われて恐れられた。

 小6も二学期になり、ラオウ伝説も遠い昔のことのように人々たちから忘れ去られようとしていた。そんな晩秋の頃、事件は起こった。ゴミ当番になったS君が掃除終わりに焼却炉へゴミ箱を運んでいたところを用務員のおじさんに引き留められた。当時、どういうわけか「学校でこっそりと風船ガムを食べる」という趣向がサッチのクラスで流行っていた。口の閉まりの悪いS君はクッチャクッチャと噛みながら、ご機嫌にゴミ箱を振って歩いていたのだろう。

 瞬く間に噂は駆け巡り、掃除の終了後、全校生徒へ対象を広げ、ガムをやっている者、所持している者、またその入手ルートなどが大規模に調査され、見つかったブツは現行犯の証拠として押収された。そして、重罪と判決された者は、自分の受け持つクラスを中心に常習者が出たという怒りにより通常の何倍もの威力になった北斗神拳で罰せられることとなった。



 その日、公文の帰り道、時間を潰してきたサッチと私は、職員室に人影がいないのを確認し、二宮金次郎の銅像を目印に埋めた、サッチが自分ちの店先から拝借してきた箱入りの風船ガムたちとクラスメイトたちにさばいて得た売上金を、無事回収したのだった。夕暮れの帰路、二人で当たりつき10円ガムのコーラの味を噛みしめた…

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