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太陽の見えぬ昼下がり

冷えて音もなく降り積もる灰、被りて真白く浮かぶ墓標。星の見えぬ夜、眠れる街は陽炎の夢を見る。

灼熱の眼差しに上気する肌、女は光のシャワーを浴びている。木洩れ日踊るアスファルト、女は消えては現れて。やがて見えなくなる。吹き抜ける風に感じる女の息遣い、耳許で囁く、別れの言葉も告げぬまま、繰り返す名前。行かなければと思うが、動けない。

そこで汗をかいていることに気付く、悪夢は、楽しかった思い出となって現れる。失われていることの絶対、相対的に在ることを思う。見つめる掌、線が途絶える日を待つ、指折り数えて、予言が証明される日を。

落ちる太陽、影が長く伸びるとき、シャッターで切り取られた姿。逆光で見えない。光を掌で遮って、見えてくる刻限、約束の日、大洋に沈む彼女。一斉に羽ばたく鳥。掴み損ねた掌を、繰り返し翻して。向こう岸へと、太陽の街へと、立ち並ぶ摩天楼へと、乱反射する鏡の国へと、喧騒の最中へと……、

見付からないものは無いものだろうか。街を闊歩する幽霊、それとも街が蜃気楼なのか。

二重写しの掌、彼女のものか、私の手を引いて行く。振り返れば静寂の木立、空洞の古城、剥き出しの骨、血の通わない女の姿。死化粧して佇む、女は手を振っている。

私は渦に呑まれ、目を覚ませば雑踏の中にいる、太陽の街で。私は彼女を探す、しかし見当たらない、存在は満ち溢れているというのに。誰も気付かない、私が幽霊なのか、他が幽霊なのか、次元が異なるものを幽霊と呼ぶなら、お互い様か。

重ねられた街の姿、時間軸に貫かれて、存在できるのは一通り。他の可能性は消失する。

果たして、この世界は存在するのか。

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