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硝子箱(ガラスケース)の開け方

透明な嘘を吐く、硝子箱の中で蠢く何ものか。開け方が分からないので、壁に叩き付けて壊す。砕け散った破片が瞳に突き刺さり、見えない。床に手を這わせれば、ザリザリした感触。手を引っ掻いて傷を作る、流れて止まらない痛み。クラクラするのは頭なのか世界なのか、グルグル回るのは世界なのか自分なのか、自分が世界なのか世界は自分の中にあるのか。とすれば開けるまでもなく硝子箱の中のものの正体は知れているのだし、知るために知らない状態があるとすれば、何を思い知る必要があるのか、閉じ込められている。壊せないなら壊されるのを待つしかない、叩き続けて誰かに気付かれるのを。雛が卵の殻を破るように内側からは壊せない弱い個体、気管支がゼイゼイいうのを聞きながら、助けて欲しいと訴える。外は雨。聞いてくれているのだろうか、揺れる草木、風の噂に惑わされてざわめく影のないものたち。影はこちらにあるのだ。光源はどこだろう。蝋燭を灯せば夜、鏡に映れば昼、逆さまに映れば時は近い。近付いてくるものと一つになるとき、更に大きな箱の中に放り出される。開けようと画策する、窓を叩いても割れないので、先程散らばった破片で硝子を傷付ける。悲鳴を上げる窓、血を流し始める。水位は次第に増していき、溺れそうになる。その前に壊さなければと思うが、動けない。呑まれる。爆発――。飛び散った欠片、誰かが拾って硝子に叩き付ける。痛い痛い。映り込んだ瞳は見えないのだろう、血を流している。開くことはない、壊してしまったのだから。

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