正夢
彼はものすごく怒っていた。わたしは訳が分からず困惑していた。けれど不意に思い至った。彼から借りていた本を、古本屋で売ってしまったこと。その本を彼が見つけたこと。間違えた、と弁明したけれど、彼は電話を切ってしまった。という夢を見て、今年一の悪夢だ、と思った。
ガールズバーに勤めはじめたことがバレたのだ、だから夢の知らせなのだ、と理解した。辞めたいなと漠然と思っていたのが、辞めなくちゃ、という使命感になった。辞めるための算段を考え、思い立ち、彼に連絡した。「辞めたいけど辞められなくて困っている」と。
彼は相談に乗ってくれた。けれど、どこか噛み合わない。果ては「他のひとがボロボロと辞めているのに、どうしてあなたが辞められないのか分からない」みたいなことを言われてしまった。わたしは、他のひとがどんどん辞めてしまうから自分が辞められないと感じていたので、青天の霹靂だった。
彼に彼氏のフリをしてもらって、彼氏が嫌がっているから辞めたいのだ、とオーナーに話して穏便に辞め、ついでにホントに付き合いたい、という甘い算段を話せずにいた結果、そういう方向に話が転がってしまった。甘い考えとは裏腹に、彼にそんなことを話してしまって失礼じゃないだろうか、迷惑じゃないだろうか、という遠慮があったために。
結局、ほかの人にも相談して、その結果辞めることができた。そのことを報告すると、ぱたりと彼からの連絡は途絶えた。たぶん、とても怒っていたからだろう。
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