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灯火

闇の中に浮かぶ光。
それは、たった一つの灯火だった。
手を伸ばして触れてみたら、
パチンと割れて消えてしまった。
どこへ行ったのかな。
周りを見渡してみたけれど誰もいない。
真っ暗な穴が口を開いているだけ。
そっと覗きこんでみた。
底の見えない、深い、深い穴。
手を伸ばしてみた。
すると穴の奥からにゅう、と白い手が突き出してきた。
触れそうになって、慌てて手をひっこめた。
その手の主は穴の縁に手をついて、這い上がろうとしていた。
少しずつ、少しずつ白い肌は露わになっていき、
やがて穴の中から抜け出した。
目隠しをした少女。
闇の中で白い肌がぬらりと光った。
そのとき、ふと違和感を感じた。
何だろう。
少女はコトリと首を傾けた。
それは何も分かっていないような表情だった。
手を伸ばしてみたが、
少女は差し出された手に気付かないようだった。
当たり前だ。目隠しをしているのだから。
少女は感触だけを頼りに、この穴を這い登ってきたのだろうか。
光もなく、この深い穴の中から。
そうだ。ここには光がない。
ならば、どうしてこの少女の姿が見えるのだろう。
そう考えた時、ぴし、と少女の背中に亀裂が入った。
少女は苦しそうに顔を歪ませた。
けれど悲鳴は聞こえなかった。
ただ唾液が口の端から零れていくのが見えた。
亀裂はなおも広がっていき、やがて全身を覆うほどになった。
少女はまるで泣くときにそうするように、手で顔を覆った。
そして、割れた。
元の形が分からなくなるほどに、完膚なきまでに。
はらはらと、目隠しの包帯が落ちた。
その中から、ひゅう、と小さな光が現れた。
そっと手を伸ばしてみたが、
光はすり抜けてどこかへ飛んで行ってしまった。
探しに行こう。
そう思って立ち上がった。
ここは暗い、暗い、闇の中。
それは、たった一つの灯火だった。


2011.1.1

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