見出し画像

「食道がん」になった要因とは?

還暦を目前に「食道がん」ステージⅢを宣告され、経過観察中のオッサンです。統計によれば、

食道がんと新たに診断される人数は、1年間に10万人あたり17.9人です。男女別でみると、男性では1年間に10万人あたり31.0人、女性では5.6人と、男性に多い傾向がみられます。年齢別でみると、50歳代から増加を始め、70歳代でピークを迎えます(国立がん研究センターから引用)。

日本の人口を1億2千万人として単純計算すると、10万人当たり「胃がん」で112.5人、「大腸がん」で131.7人、「肺がん」で104.2人、「すい臓がん」で34.2人、「肝細胞がん」で32.2人ですから、「食道がん」は、「日本人に多いがん」の内でも少ない方です。

そもそも、日本人の2人に1人は一生涯で何らかの「がん」に罹り、その内の3人に1人は「がん」で亡くなります。また、男性に限れば65.5%の確率で「がん」に罹ります。なので、僕が「がん」に罹ったのも統計上は不思議でも何でもありません。

一般的に「食道がん」の要因は、「飲酒」と「喫煙」と言われています。僕は、これまで生涯で「10本」くらいしかタバコを喫ったことのない「非喫煙者」ですから「喫煙」の要因は除外するとして「飲酒」が主要因ということになります(※ただ、チェーンスモーカーだらけの環境で数年間働いていたことがあり、副流煙はかなりの量を吸い込んでいます)。

でも、「肝細胞がん」や「大腸がん」の因子として「飲酒」が挙げられていますから、より罹患しやすいこれらの「がん」にならずに何故、「食道」だったのかは分かりません。

「飲酒」が「がん」の発生要因となるのは、アルコール自体にも発がん性があるようですが、アルコール代謝の副生産物の「アセトアルデヒド」の要因が大きいようです。

理系「酒飲み」の性癖としてアルコール(エタノール)の代謝については、調べたことがあります。

大雑把な説明では、エタノールは、まず「アルコール脱水素酵素(ADH)」の働きで酸化されて「アセトアルデヒド」になり、次に「アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」によって無害の「酢酸(いわゆる、お酢ですね)」に分解され、更に「水」と「二酸化炭素」に分解されて体外に排出されます。

このALDH2は、誰でも持っている酵素ですが遺伝子型(DNAの配列)が異なるタイプがあり、アセトアルデヒドの分解能力が異なります。能力の低い遺伝子型の場合、毒性の強いアセトアルデヒドが体内に長く留まることになります。そのため、顔が赤くなったり、動悸や嘔吐といった不快症状が現れます。

「お酒に弱い」タイプというのは、このALDH2の活性が低い遺伝子型を持っている人で、アセトアルデヒドに曝露される時間が長いため発がんリスクが高くなるのでしょう。ちなみに、この「お酒に弱い」タイプはアジア系の稲作農耕文化圏の人種に多いと言われています。この辺りも興味深かったので、調べたことがありますが割愛します。

さて、僕もこの活性の低い遺伝子型のようで、直ぐに顔が赤くなりますし若い頃はビールの中瓶を1本も飲めば気持ち悪くなったほど弱かったです。でも、気持ち悪くなって吐くことが多くても、何故かお酒は好きで適量(医学的な意味ではなく自分の酒量として)を把握しながら飲んでいました。

こうして、飲酒の習慣が付くと身体も反応するのかアルデヒド分解酵素の別の型である「ALDH1」(アセトアルデヒドが高濃度になると出てくる酵素)がより働くようになるのか、少しずつ酒量も増えてきました。1本飲めなかったワインが飲めるようになり、2本くらい飲めるようにもなりました。

本人は大好きなワインや日本酒、シングルモルトを飲めるようになって喜んでいましたが、酒量が増えるにしたがって「がん」の発症リスクは高くなって行ったのでしょう。

ちなみに、僕の父は若い頃から大酒飲みでヘビースモーカー(呑んでいたのは缶ピース)でした。母も父程ではありませんが喫煙者で、お酒も付き合う程度には飲みました。父は、僕と同じで直ぐに赤くなり飲み過ぎて吐くこともしばしばありました。母は全く顔色が変わらず悪酔いする事もありませんでした。

統計通りであれば、アルコールに関して父は「がん」に罹りやすく、母は罹り難い体質のはずです。特に父は、「お酒に弱い」+「飲酒」+「喫煙」のトリプルで「食道がん」リスクは高いはずです。

しかし、91歳で亡くなるまで父は「がん」に罹患しませんでした。

また、分子生物学者の福岡伸一教授や他の多くの文献によると、「がん」に罹るもっとも大きな因子は「時間」だそうです。健康な細胞が「がん化」するには長い時間が必要だそうです。結果的に「がん」に罹らなかった人は、細胞が「がん化」する前に他の原因で亡くなっているだけと言うことだそうです。

食道がんの「リスク要因」でも、「時間」でも僕よりも高リスクと思われる父が発現せず、還暦前の僕が発現したのは納得が行きません。納得できませんが、現実として僕は「がん」に罹ってしまいました。結局のところ、統計とは最大公約数、或いは最小公倍数であって、個々人に当てはまるとは限らない、という事なのだと思います。だからと言って、統計が無駄だとは思いませんけど。

入院中から今でも、考えるとはなしに「なんで、がんになんか罹ったかなぁ」と思います。全部、夢だったら良いのに、これは夢で目覚めたら元の健康な自分に戻っている、などとバカなことも考えます。

まだ、十分に咀嚼できていませんが、結局のところ「何故?」を考えることは無意味だと思い至りました。医学者・研究者や、まだ罹患していない人には「何故(原因)」は有益でしょうが、罹患者には意味はないと考えます。

それよりも、これからの人生をどう生きるかのほうが、遥かに重要です。食道がんは予後が他のがんに比べて良くない、と統計上は言われています。でも、統計は数字上のことですから参考程度に考えて、どう生きるかを考えたいと思っています。

ただ、結論がなかなか出ないのが、悩ましいのですが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?