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アンサングシンデレラを観て

石原さとみ主演のドラマCX「アンサングシンデレラ」は、これまでの医療ドラマでは主役にならなかった薬剤師にスポットを当てている点で目新しい。原作は漫画で現役の病院薬剤師(静岡県・焼津の病院に勤務されている)が監修をしているから医療情報に間違いは無いのだろうと思う。

ちなみに「アンサング」は英語で「unsung」、直訳で「歌われない」という意味で「称賛されない」というニュアンスの単語。「unsung hero」という熟語があって和訳で「縁の下の力持ち」。薬剤師の職務を指していると思われるが、この熟語をもじったタイトルだと思う。

最初はセンス良いなと思ったけど、よくよく考えると「シンデレラ」って「縁の下の力持ち」ではないよね。シンデレラは物語の主人公だから、「アンサングシンデレラ」って単語は自己矛盾している。「歌われないシンデレラ」っている?

原作は読んだことはないので、ドラマ化にあたり設定も変えられている可能性があるのでドラマを観ての感想としては、これまでの医療ドラマで医者や看護師が演じていたことを薬剤師がやっているだけって感じで、設定は目新しかったけどストーリーは従来通り。

そもそも、これまで薬剤師がドラマの主人公にならなかったのは、現実の医療現場で医師や看護師、あるいは救命救急士のように活躍しないから。ドクターXのように超絶技法の手術をするわけでもないし、石原さとみが昔演じていたナース葵のように患者と長時間接する訳でもない。ドクターヘリに乗ることも、たぶんないと思う。

派手さがないからドラマになりにくい。でも、それだと作品にならないから、このドラマのように本来なら医師や看護師がやることを薬剤師にやらせて盛り上げようとしている。

言ってしまえば、相当に無理をした設定だと思う。

僕は食道がんの治療で最近三回入院したけど、ドラマほど薬剤師さんと関りを持つことはなかった。ドラマでは、毎日病室を訪れているけど、薬剤師さんは入院した時と退院する時、それ以外に週一で来たくらいで、薬に関して突っ込んだ話はしなかった。

治療の方針は医師が立てるし医師の指示でしか看護師は対応できない。薬も医師が処方箋を書き、それに従って薬剤師さんが処方する。抗がん剤も薬剤師が製剤を処方するけど、医師の処方箋の通りに作っている。薬剤師さんが医師に「この患者さんには、ドセタキセルよりパクリタキセルの方が良いですよ」なんて言っているとは思えない。

また、抗がん剤の効能や副作用などを薬剤師から説明を受けることはなかった。全て、医師が行った。

実際、僕が抗がん剤の副作用で口内炎が出来たときに、どの薬を処方するかについて、病室にたまたま来ていた薬剤師(他の薬を持ってきた)と看護師が雑談しているのを聞いていた(詳しく書くのは止めておきます)。

口内炎の薬だから、いくつかある選択肢のどれを選んでも良い(たいして効能に違いはない)と思うんだけど、それでも薬剤師が(看護師も)口を出すことはない雰囲気だった。

ドラマのように薬剤師さんが医師の治療に口を出すようなことは現実にはないだろうし、病室に毎日顔を見せることもないし、薬の説明を全て行うわけでもない。

患者との関りと言う点で医師や看護師と比べて大きく違っているから、医療ドラマの主人公になりにくい。これまで、ドラマが作られなかったのも当然だと思う。

だから、フィクションとして絵空事として観るものだろう。ただ、医療ドラマだから、あまりにも現実と乖離した内容だと視聴者に誤解を与えるかもしれない。その場合は、あからさまにギャグがパロディにするしかない。

薬剤師を主人公にするなら、「こんなの、ありえないよ~、バカバカしい」って笑い飛ばすくらいの内容にするか、現実の医療課題(課題があるのなら)の一つとしてシリアスに描くか、どちらかだと思った。

このドラマは、いまのところどちらでもない。せっかく、陽の当たらなかった薬剤師さんを主人公にしたのだから、もっと挑戦的な脚本にしたら良かったのに、と思った。

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