ドアの向こう側(小説)

日曜日の朝、ファミレスでコーヒーを飲んでいた。大便がしたくなってトイレへ向かった。トイレに入ると唯一つある大のドアは閉まっていた。トイレの中の洗面所ではなぜか中年の男性が歯磨きをしており、私はその場にいるのが気まずく感じてトイレの外へ出た。しかし外に出ても仕方がない。私はもう切羽詰まった状態であり、もう一人誰かがやってきて大の順番待ちなどされたらエライことである。私は再びトイレに入った。歯磨きをしている男性の後ろで私は大の閉ざされたドアとも小便器とも適当な距離を取って待っていた。私は爆発の危険を感じながらしばらくの間そうして待っていたが、突然特に大きな音も立てずに非常にスムーズに大のドアが開き「すみません」と言って中から男が出てきたのである。そのスムーズさに私はある種の不自然さを感じたが、そんなことよりも便意が限界に来ていたので私はすぐに中に入ってドアを閉め、ドアの内側上部にあるバッグをかける器具にバッグをかけた。そうして大便器に向き合った。そこには大便が流されずに残っていた。そうなのである。男が大便を流さずに出てきたから当然流す音もせず、突然ドアの外へ男が出てきたので違和感があったのである。こうなると男が言った「すみません」も待たせて「すみません」ではなく、流さなくて「すみません」だったのかとも思えた。そもそもトイレの個室が開くのを外で待っていた人に「すみません」などと言うだろうか。男はまだ洗面所で手を洗っているかもしれない。もうトイレから出て行ったかもしれない。歯磨き中年もいるので気配ではよくわからない。しかしまだドアの外にいるとしてもドアを開けて「流してないんですけど」というわけにもいかないし、言っても仕方がない。私は不条理を感じながらも流さなかった人物を特定できる大便を本人に代わって流した。そうして自らも切羽詰まったものを排泄したのである。

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