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CAMRの流儀 その2

 前回、CAMRでは人の運動システムを構造や器官の働きではなく、運動システムの作動の特徴から理解すると説明しました。今回はこのことを少し詳しく説明します。
 人の運動システムには,運動を生み出すときにいくつかの作動上の特徴が見られます。ざっと以下に簡単に説明します。
①課題達成の方法は状況に応じて適切に変化する
 オモチャのロボットの歩行を見ると,基本的に同じ運動の形で歩行します。そして平らなテーブルの上では「歩いている」と表現できますが、床面が傾いたりデコボコがあったりすると簡単に転倒します。そして先ほどまで「歩いている」と表現した運動を倒れたまま繰り返します。ロボットは単に同じ運動を繰り返しているだけで、状況変化に対応して「歩く」という運動を適応的に変化させて維持している訳ではないのです。
 一方で人の歩行には決まった歩き方や形というものがありません。平らな床は普通に歩いていても一本橋にさしかかると横向きにバランスをとりながら進みます。砂浜では膝を高く挙げて足を砂から引き抜きながら歩きます。氷の上ではヨチヨチとバランスをとりながら小刻みに進みます。人混みでは立ち止まり,急に横にステップを踏み,時には立ち止まり,後ずさりしながら進んでいきます。水溜まりではつま先立ちで浅いところを探しながら不規則に進みます。失恋すると肩を落とし、背中を丸めてトボトボと歩きます。逆に嬉しいことがあると弾むように歩きます・・・・
 つまり人の運動システムでは、ある環境や状況内でもっとも相応しい歩き方が「自然に生まれ、変化する」わけです。
 行為者の身体能力や運動システムの特徴とそれぞれの環境や状況の中で自然に課題達成の方法が生まれて修正されます。これが人の運動システムの作動上の特徴の一つです。
 だから元々「正しい歩き方」という「運動のやり方や形」はないのです。敢えて「正しい歩き方」を言うなら「状況変化に応じて、その人の運動システムの特徴によってもっとも相応しい歩き方を生み出し,修正しながら歩くこと」ということになります。
 やり投げの北口榛花さんは、外国選手が力強い動きでいきんで投げるのに対し、身体の柔軟性が特徴なので、全身のしなやかな体の動きでやりを投げますよね。
 同様に柔軟性の高い体は、デコボコ道を進むときに揺れやブレを体幹の柔らかさで吸収しながらバランスを保ちますし、筋力の強い人は、下肢を広げて踏ん張ったりしながらバランスを保持する傾向がみられます。どちらも倒れずに歩くという課題を達成しているわけですが、人によってやり方は違うのです。
 だから麻痺があればそれなりに安全に進めるように、痛みがあれば痛みをなるべく軽減するようになんとか工夫しながら運動システムは歩行のやり方を生み出して修正しているのです。
 この「課題達成の方法は状況に応じて適切に変化する」特徴はCAMRでは「状況性」と呼ばれています。
 教科書に載っているような健康な若者の歩き方や形を「正しい」と見做してモデルにし、「健常者は左右差がないから左右同じように脚を振り出せ」とか、「分回し歩行はダメ、まっすぐに振り出して」とかを目標にするのはそもそもこの「状況性」という作動の特徴を無視というか理解していないのです。まるで人を機械のロボットの様に見て「正しい歩き方がある」と信じてしまっているのです。
 障害があるとこの「状況性」という特徴は低下して目立たなくなってしまいます。だから状況性を改善する方向へとアプローチを進めることがCAMRでは一つの目標になります。
 そのためには、「健常者の運動システムが状況性という特徴を持っているのはなぜか?」を考えてみます。そうすると健常者の運動システムは「無限の運動変化を生み出す仕組みを持っているから、様々な状況変化に適応的に運動を変化させることができる」と分かります。
 詳しくは次回に!(その3に続く)
※毎週火曜日にCAMRのフェースブック・ページにオリジナル・エッセイを投稿しています。最新のものは「脳性運動障害の理解を見直す(その1)」
https://www.facebook.com/Contextualapproach

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