人の運動システムの理解の仕方(その6)
前回、CAMR(カムル)では、人の運動システムの作動の特徴の一つは、「状況性」であると述べました。
「状況性」とは「状況変化に応じて、その状況を理解し、適切で柔軟な運動変化を起こす」作動です。機械には見られない人独特の作動の特徴です。
この特徴を支えるのが人の運動システムの「予期的知覚」と「無限の運動変化を生み出す能力」です。
では今回はこの二つの能力について考えてみます。
CAMRでは、この仕組みは「豊富な運動リソースと柔軟で創造的な運動スキル」によって無限の運動変化を生み出すと説明します。
運動リソースとは運動に使われる資源のことで、身体リソースと環境リソース、情報リソースに分類されます。
身体リソースは、身体そのものや身体の持つ性質である筋力、柔軟性、持久力などです。また痛みや感覚異常、感覚脱失なども運動にマイナスに影響するので負の運動リソースと呼んだりします。
環境リソースは、環境内にあるものや道具、構築物、大地、水の塊(海や川など)、動物、他人などや環境の持つ性質(重力、明るさ、温度など)が含まれます。
人は重力と大地の間で体を安定させ、大地や水の塊を利用して移動します。人の運動活動とは身体リソースを基に環境リソースを利用して必要な生活課題を達成することです。
一方、情報リソースとは、身体が環境内のものや性質に出会った時に生まれる意味や価値などに関する予期的知覚のことです。たとえば進むべき先に高さ1メートルの段があります。見たときに「手を使わずに跳び上がれる」という意味を見いだせば手を使わずに跳び上がるでしょうし、「手が必要」と思えば手を使って這い上がります。つまり身体リソースと環境リソースが出会う中に行為者に取っての意味や価値である情報リソースが生まれ、その課題達成のやり方(運動スキル)が導かれるのです。
身体リソースは常に変化します。しばらく動かないでテレビゲームばかりやっていると、筋の活動性や全身の柔軟性が低下します。先に挙げた1メートルの段差は「跳び上がれる」と思っていたのに活動性や柔軟性の低下に気がつかないで、段差に脚をぶつけて倒れ込んで痛い目を見るかもしれません。
つまり情報リソースは常に環境の中で様々な運動課題を行うことで適切なものにアップデートされます。しばらく動いていないと情報リソースは不適切になって課題達成に失敗します。
また運動スキルとは「課題達成のための運動リソースの用い方」です。身体リソースや環境リソースが豊富であり、身体と環境との関係を意味する情報リソースが適切であれば、適切で豊富な運動スキルから選択できますし、新たな課題であっても柔軟に、その時、その場で創造的に新たな運動スキルが生み出されることもあります。
健常者は、生活や仕事における運動課題を余裕でこなす程度の豊富な身体リソースを持っていることが普通です。それで探索活動を通じてより多くの環境リソースを利用でき、適切な情報リソースを持ち続けることができます。様々な状況の中でも適切な運動スキルを選択したり創造したりして適応的に動けます。
これが健常者の「状況性」という特徴を支える仕組みなのです。
一方、障がいを持つとは、まず筋力や柔軟性、体力などや身体の一部を失うなどの身体リソースが低下・消失することです。また痛みは運動パフォーマンスを低下させますのでこれが強まることも筋力などの身体リソースを低下させます。
そうすると身体リソースの低下に伴い、利用可能な環境リソースが減少します。また身体と環境の関係性を示す情報リソースも失われたり、不適切なものになったりします。
結果として多様で柔軟、創造的な運動スキルを生み出せなくなり、課題達成が困難になったり、課題達成に失敗したりします。そして様々な生活課題の達成力が低下することになります。これがCAMRで考えられる障がいの状態です。
これらことを考えてCAMRのアプローチが生まれる訳です。(その7に続く)
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