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運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その1)

 人の運動システムの役割は何かと考えると、その時、その場でその人にとって必要な運動課題を達成することだと言えます。たとえばお腹が空けば食べるものを探し、危険が迫ればそれから逃げることが必要な運動課題となります。

 人が意識しなくても、運動システムはこれらの必要な課題達成を自律的に最速で、あるいは安全に、効率的にやってのけようとします。もちろんその結果はいつも上手く行くわけではありませんが・・・・

 そしてもし課題達成に問題が生じた場合は、速やかにできる範囲で問題解決を図ろうとします。

 片麻痺患者さんで考えてみると、脳卒中後、身体は大きく変化して未知の身体になってしまいます。半身の上下肢、体幹に麻痺のレベルによって様々な程度・分布の弛緩状態が生まれます。

 それまでよく見知っていた身体が未知の身体になってしまいます。半身は力が出にくく、これまで身につけた運動スキル(生活課題達成のための様々な体や環境の使い方)は麻痺の程度に応じて失われてしまいます。

 特に弛緩状態が重度で広範囲になると、何をするにしても新たに最初から必要な運動スキルを生み出し、熟練する必要があります。CAMRではこの過程を運動スキル学習と呼びます

 従来から「運動スキル」と言うと「運動のやり方を繰り返し実施・記憶して、プログラムとして脳内に蓄え、必要な場面でそれを再現すること」と勘違いされるセラピストがいます。脳をコンピュータと同じように考えてしまうのですね。

 それでそんなセラピストは片麻痺の方に繰り返し健常者の運動の形をまねてもらいます。といっても麻痺でできないのでセラピストが介助して他動的に動かし、そのやり方を憶えてもらおうとします。壊れた脳細胞で担っていた機能を他の脳細胞に学習してもらって、失われた機能を再現するのだそうです。そして何度も何度も繰り返してやり方を憶えてもらおうとしています。でも、なかなか憶えてもらうことはできません。

 この考え方はなんだか変です。人間が生み出した機械をモデルに自分の脳を理解するなんて、ヘンテコなことです。脳をコンピュータと決めつけるなんて!こんなことをしていると、自分の持っている知識・技術の範囲内でしか理解できなくなってしまいます。自分の理解は自分の持っている知識・技術に制限されてしまうわけです。大変なことです。

 それに他人に動かしてもらった運動は、「他人に動かしてもらった」という経験をしているだけでそれが自分一人で『できる』運動になるはずがありませんね。

 実際人の脳はコンピュータとは明らかに違います。もし人の脳が、ある課題達成の方法のやり方を何度も何度も繰り返して行わないと憶えられないような低性能のコンピュータであれば、人類はとうの昔に生存競争に敗れて滅んでいると思います。

 つまり人の脳は「課題達成のやり方を憶えて再現する」ような単純な作業を行っているはずがありません。

 CAMRで言う運動スキル学習とは、「身体の内外に利用可能な運動リソース(運動のための資源)を見つけては試行錯誤し、あるいは過去の経験から予測的に課題達成の方法である運動スキルを創造・修正する過程を学習すること」と考えています。

 そのやり方は、障害を持った直後の患者さんがどのように課題達成を図ったり、問題解決を図ったりしているかの様子を見ていると理解できるようになります。

 今回のシリーズでは、「運動スキル学習」の過程を明らかにし、それを理解することで私たちセラピストがどのように患者さんのために役立つことができるかを考えてみます。(その2に続く)
※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「運動課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その3)」
以下のURLから
 https://www.facebook.com/Contextualapproach

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